バンドメンバーのソロパートも含んだスペシャルバージョンでの披露だったが、是永巧一も、佐藤強一も、櫻田泰啓も、高橋"Jr."知治も、赤木りえも、中島オバヲも、かとうかなこも情熱的にテクニックを魅せつけていく。今野均があれほど熱情的にバイオリンソロを奏でるのを始めてみたかもしれない。演者のぶつかりあうような熱量はKalafinaを通じて客席の隅々まで行き渡る。さっきまで声は持つのか、身体は平気なのかなど心配してしまった自分が馬鹿みたいだ。だって曲の中で歌われているじゃないか、「明日への近道がどうしても見つけられない」と。
Kalafinaは我々が思っているより不器用なのかもしれない。音楽に生き様を見出し、音楽に救われ、音楽で誰かとつながろうとしている。それはある意味言葉より雄弁なコミュニケーションではあるが、決して近道とは言えない生き方だ。それでもそれを愛してしまったから、彼女たちはそこに何があろうと音楽の旅を続けるのだろう。旅をしているのはKalafinaだけではない、その歌に触れた全員が共に旅をするキャラバンなのだ。
胸にこみ上げる熱いものを感じながら「heavenly blue」で会場の熱気は最高潮へ。行き着いた地平線のように顔を紅潮させて優しく、大きく歌われた「into the world」を終えると3人はステージ袖へ。アンコールが始まるかと思うとそのままバンドメンバーによる「君の銀の庭 Accordion solo ver. ~ nightmare ballet」へ。インストでもKalafinaの世界観をしっかりと伝えていくメンバーの演奏力の高さは言わずもがなではあるが、改めてオフボーカルで聴くとその凄さを実感する。そして光の中再登場したKalafinaは衣装を変えていた。白のドレスはまるでウェディングドレスのように見える。その輝きを振りまくように「ひかりふる」へ。
ああそうだ、最初にKalafinaを見た時も何故か光を感じたのを思い出す。来るとは誰も思っていなかった10年を迎え、純白のドレスに身を包む3人はまた一つ、見たことのない地平に足を踏み入れようとしている。白は猛々しい赤い照明を浴びて紅蓮の炎へと変わる、そのまま歌われた最新シングル「百火撩乱」。ここまでで26曲。定番にして最もメジャーな曲とも言える「Magia」も、アコースティックライブでもアレンジを変えて演奏されたアニメタイアップ楽曲「blaze」もない。MCコーナーで定番かつ人気のHikaruによるグッズ紹介もない。ただ、伝えたい音楽と、Kalafinaと、観客だけが武道館にある。
「今回は、MCも最低限に、アンコールも無しにしました、その時間もすべてみなさんと一緒に選んだ音楽を届ける時間にしたかったんです」とKeikoが笑顔で語る。「最後の曲です、たくさんの皆さんが選んでくれた曲です」そう言って流れてきたのは「アレルヤ」。何度も聴いてきたが、筆者はどの楽曲よりも“今”のKalafinaが映し出される鏡のような曲だと思っている。そして今日は、エクストラで歌われる楽曲がこの後にないことももうわかっている。全員が噛みしめるように耳を、心をステージに傾ける。
たくさんの人が選んだ一曲は今まで以上にキラキラと輝いて、先日の豪雪も止んだ夜の九段下に降り注ぐ優しさのようだった。Wakanaも、Keikoも、Hikaruもみんな笑顔だ。開演前の緊張、怒涛の連続歌唱での圧倒、コンディションを心配する不安、それを振り払う熱情、そして最後に残ったのは必ずやってくる明日への優しさだった気がしている。
終わってみれば投票開始後に発売された「百火撩乱」「カンタンカタン」以外の25曲は全てランキング上位のものだった。嘘偽り無く彼女たちは応援してくれているファンと音楽で真正面から向き合ったことになる。
