level 7
イヴとスレイは一旦、幕舎ばくしゃの外で待つよう言われた。
俺はイヴに、
”ひとまず相手の言う通りにする”
そう伝え、一人で幕舎に足を踏み入れた。
セラスが正体を明かす――それはそれでメリットもある。
一つは俺たちがこの戦場へ現れた理由づけが簡単になることだ。
”かつて仕えたカトレア姫の力となるべくセラス・アシュレインが馳せ参じた”
これなら蠅王ノ戦団がこの一戦に参加した理由に納得もいきやすい。
もう一つのメリットは、やはり――
「…………」
七面倒臭い手順を踏まずとも、こうして姫さまと接触しやすくなることだろう。
幕舎の中に視線を這わせる。
大きなテントといった感じである。
遊牧民なんかが使っていそうなアレだ。
奥には、椅子が設えてあった。
「ようこそいらっしゃいました」
椅子には、銀髪縦ロールの女が座っている。
「わたくしは、カトレア・シュトラミウスと申します」
……あれが、ネーアの姫さまか。
思慮深げな灰の瞳。
軍装姿は上品だ。
が、どっしり構えた佇まいは戦士のそれに見える
脇には聖騎士が二名控えていた。
その斜め前に蠅騎士姿のセラスが立っている。
装いは蠅騎士のままだが、マスクは取っている。
セラスは落ち着いた様子だった。
再会の喜びはもう存分に分かち合ったのだろう。
セラスの目の赤さ加減から、それは察せられた。
と、セラスが近寄ってきた。
戦闘収束後、言葉を交わすのはこれが初めてである。
声を潜め、セラスは耳打ちした。
「申し訳ございません。すでにご存知とは思いますが、私の正体が――」
「わかってる。気にするな」
セラスは俯きがちに片手を胸もとへ添え、きゅっと握りしめた。
「はい」
気を取り直すように、顔を上げるセラス。
「あなたに関する情報は”黒竜騎士団から私を救ってくれた元アシントの者”程度にしか伝えておりません……とにかく、ただ命の恩人とだけ」
「それでいい――あとは、任せろ」
2020年01月14日 01点01分
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level 7
視線で了解を示すと、セラスは俺の傍らに控えた。
俺は姫さまの方へ向き直って、片膝を折り、こうべを垂れる。
「お初にお目にかかります――蠅王ノ戦団の長、ベルゼギアと申します。参戦の際に宣しました通り、我が戦団はかつてアシントと名乗っておりました」
「ベルゼギア……伝承の蠅王と同じ名ですわね」
「はい。この名は、蠅王の伝承より拝借いたしました」
「ふふふ、ではセラスはさしずめ蠅王の忠臣たち――” 蠅王誓剣 ソードオブベルゼギア”の一人といったところかしら。わたくしのもとへ駆けつけた時、セラスも第一誓アスタリアを名乗っていましたし……ともあれ――」
姫さまの立ち上がる気配。
「あなた方のおかげで命拾いしましたわ。ネーア軍を率いる将として、まずは礼を述べさせていただきます。あなたたちが駆けつけねば、全滅もありえました」
「――カトレア様の危機に間に合い、何よりにございます」
「呪術……原理は存じませんが、恐るべき力ですのね。さらにはあの石像の軍勢に、多足の黒馬……二人の蠅騎士の凄まじい戦闘力。ただ、伝聞で得たアシントの印象とはいささか違いますけれど」
「内幕を明かしますと、アシントは二つの派閥に分かれていました。そして……ワタシたちは少数派の派閥でした。他の者は日の当たる表舞台へ出るのを夢見ていましたが、ワタシたちは舞台裏の存在であり続けたいと願っていたのです」
結局、と俺は続けた。
「我々の派閥はアシントの名を捨て、今後は、世界の陰で暗躍する蠅王ノ戦団として生きることを決めました」
「もう一つの派閥はそれを許しましたの? それほどの力を持つあなたを、そう簡単に手放すとも思えませんけれど」
「――ご明察です。彼らは決して我々の離脱を認めませんでした。その先は……ご想像にお任せしましょう」
世間では忽然と姿を消したと認識されているアシント。
”魔群帯まで蠅王ノ戦団を追ってきたもう一つの派閥の者たちは、魔郡帯の中で全滅した”
あるいは――俺たちに全滅させられた。
一部で囁かれる魔群帯入り説と絡めて、そんな感じの想像でも広げてくれればいい。
「そうして彼らと決別したのち、カトレア様の率いるネーア軍が大魔帝軍との戦に参加するとの情報を得まして……セラスの意を汲み、何かお力になれればと、こうしてカトレア様のもとへ参った次第です。……当初は、傭兵として南軍に参加する予定でしたが」
なるほど、得心を口にする姫さま。
……心から納得しているかは微妙だが。
一歩、姫さまが俺の方へ歩を進める。
「ベルゼギア殿、どうかお立ちになってくださいませ。あなたは、わたくしの麾下きかでもないのですし」
「…………」
言われた通り、俺は立ち上がった。
姫さまは俺より頭一つ分小さいくらいの身長だった。
彼女が、視線を上げる。
「それから……セラスの命を救っていただいた件についても、感謝しないといけませんわね」
俺は一礼した。
「あそこでバクオスの手に落ちるには、あまりに惜しい者でしたので」
「そしてベルゼギア殿に恩義を感じたセラスは今、あなたに仕えている……セラスの身の上話は、本人からお聞きに?」
「ネーアより脱出した際の話は、聞いております」
「――ベルゼギア殿」
話題を切り替える調子で、姫さまが言った。
「力になってくださるといっても……あなたは、これからずっとわたくしと共にいてくださるわけでもないのでしょう?」
「…………」
2020年01月14日 01点01分
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level 7
セラスの正体はバレている。
女神は聖騎士時代からセラスに目をつけていたという。
姫さまの傍に残ればいずれ干渉してくるのは間違いない。
セラス・アシュレイン生存の件……。
これはネーア兵以外にも知れ渡ったと考えるべきだろう。
隠しおおせるとは思えない。
こうなると……俺も長居はできそうにない。
現時点では女神との接点を可能な限り減らしておきたい。
俺は今回の一戦で”呪術”やらエリカ手製の武器を大々的に使用している。
これで正体や力を隠し、陰ながら姫さまを支援する当初の作戦はパァとなった。
そしてクソ女神なら蠅王ノ戦団に興味を抱くはず……。
となれば――早めにここから姿を消すべきだ。
頭の中で方針をまとめ、言う。
「ワタシは明日の朝までにはここを離れ、本来の目的を果たす旅へ戻るつもりです。ワタシにはワタシの目的がありますゆえ……ただし、セラスがどうしてもあなたの傍で仕えたいと望むなら、その意思は尊重したいと考えています」
危険だが――セラスの意思が固いなら仕方ない。
元々これは俺の復讐の旅。
セラスにもいつ抜けてもいいと伝えてある。
ただ……彼女が姫さまのもとに残るとなるとやはり懸念は残る。
当然、懸念はクソ女神の干渉だ。
この姫さまなら上手くごまかしそうな気もするが……。
ちょっと面食らった顔をした後、セラスが慌て気味に口を開いた。
「私は――」
「今のセラスはあなたの”剣”……本人から、聞きましたわ」
何か口にしかけたセラスの言葉を、姫さまが遮る。
俺は、姫さまの目を見て尋ねる。
「カトレア様としては、やはりもう一度セラスに聖騎士団へ戻ってほしいと?」
すると、姫さまは微笑み――
「いいえ」
と、否定を口にした。
「このままわたくしのもとへ戻っても、あの女神にあまりよろしくない使われ方をされるだけでしょう。わたくしの大切なセラスが、わたくしの望まぬ形で使い潰されるのがオチですわ」
「…………」
この姫さまも女神に好意的ではないっぽい、か。
それに、あの女神をよくわかってる。
で・は・一・つ・、聞・い・て・み・る・か・。
「不躾ぶしつけな質問と覚悟の上でお尋ねします――カトレア様は、女神ヴィシスに対し反感寄りの感情をお持ちなのでしょうか?」
目もとを緩める姫さま。
「ええ」
セラスに視線をやる。
ハッとして、セラスが素早く自分の右耳に触れた。
右耳――つまり、嘘はついていない。
姫さまは女神に好意を持っていない。
確定だ。
ちなみに、左耳に触れたら”嘘”の合図である。
つーか、この姫さま――
「セラスに”真である”と判定させるため、意識的に簡潔に答えましたね?」
姫さまは今ほど”ええ”とだけ答えた。
最も真偽判定をしやすい答えがYESかNO。
そう、
姫さまはセラスを使って、俺に真偽判定をさ・せ・た・。
「その方が話が早いでしょう? 腹の探り合いは、短い方がいいですわ」
ぐだぐだ言葉を並べるより”嘘発見器”を使った方が早い。
そう考えたわけか。
当然、セラスの風精霊の力を知らなければ取れない手だが……。
セラスはちょっと気まずそうにしている。
罪悪感が漂っているのは、姫さま相手に真偽判定を使ったからだろう。
2020年01月14日 01点01分
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level 7
「つまり、カトレア様はセラスと女神を引き合わせたくない?」
「もちろんですわ。でなくては、あの時なんのためにセラスを城から脱出させたのかわからなくなります。ですから……」
姫さまが歩み寄ってきて、俺の手を取る。
「今後も、セラスをお任せしてよろしいかしら?」
「ですが……預け先がこのワタシでよろしいのですか?」
「なんといっても、あのセラスがこれほど惚れ込んだ殿方ですもの」
瞬間、控えていた聖騎士二人の顔色が急変した。
”えっ!?”
聖騎士二人のそんな心の驚きの声が、聞こえた気がした。
セラスはというと、
「姫さまっ!?」
不意打ちを食らった反応を見せた。
が、姫さまはセラスを見ていない。
そのまま俺を見上げ、にっこりと笑みを浮かべた。
「何か、問題でも?」
「いえ……ワタシも、セラスのことはとても大切に思っていますので」
「あなたにとっても、セラスは特別な存在ですのね?」
「ええ」
「ちゃんと、女として見てあげている?」
「そのつもりです」
うふ、と姫さまが笑む。
「相思相愛で、何よりですわね」
「ト――」
「セラス」
呼びかけると、セラスがハッとした。
……今絶対”トーカ殿”って言いかけただろ。
姫さまが、によっと口もとを歪める。
「真偽を判定できてしまうのも、時には考えものですわね」
姫さまが手を解き、ゆっくりと俺から離れる。
そして、ドキドキ顔のセラスへ視線をやった。
「セラスにはあなたが来る前に色々申し渡してあります。彼女の口から、それをお聞きになってくださる?」
戦闘後、セラスは俺の情報を姫さまにほとんど与えていない。
が、俺が来る前に姫さまがセラスにあれこれ伝えることはできた。
……この姫さま、最初からこういう流れを想定していた節がある。
「もちろん、お聞きましょう」
「セラス、わたくしの意思をベルゼギア殿に伝えていただける?」
「ぁ――はっ、承知いたしました」
セラスが表情を引き締める。
「何か協力できることがあれば、姫さまは力を貸してくださるとのことです。こたびの戦の礼と……私を黒騎士団の手から救ってくださった礼として」
もっと言えば、姫さまの父から救った形になるのだが。
セラス殺害を依頼したのは聖王だった。
しかし……この姫さまならその可能性にも行き着いているかもしれない。
セラスから話を聞いていて薄々勘付いてはいたが……。
この姫さま、かなりキレる。
味方なら心強そうだ。
逆に、敵に回すと厄介な相手かもしれない。
「ですが今のわたくしはネーアをバクオスの手から取り戻し、再建するのが最優先。お礼と言っても、できることは限られますけれど」
でしたら、と俺は口を開いた。
「我々の行く先を尋ねられたら、北へ向かったと話していただけますか?」
「北へ?」
「ええ。ワタシが別れ際にこれから北へ向かうと話していたと……そう伝えていただければ」
「お安い御用ですわ」
2020年01月14日 01点01分
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level 7
本当の次の目的地は西だ。
まあ……一種のかく乱である。
姫さまは俺の言葉をそのまま女神に伝えるだけだ。
偽証を罪に問われるなんて心配もあるまい。
いざとなれば”ベルゼギアに偽情報を掴まされた”で通る。
その後、俺はいくつかの頼みごとを姫さまに伝えた。
のだが、
「そんな程度のことでよろしいんですの?」
姫さまは拍子抜けした顔をした。
多分、どれも大した要求ではなかったからだろう。
改めて考えると、そんなに力を貸してほしいことはない。
「我が蠅王ノ戦団はカトレア様の助けとなるべく参りました。褒美を期待して馳せ参じたわけではありませんから」
協力を望むとすれば、今のところは俺たちの痕跡を消す手伝いくらいか。
食料や水は問題ない。
資金も十分ある。
「ただ……姿を隠す必要があるので、これ以後、ワタシたちが力を貸すことは難しくなりますが」
「問題ありませんわ。この戦場にいた側近級の言葉通りなら、大魔帝軍の中でアイングランツ以上の力を持った敵は大魔帝のみということになります。ある意味、南軍最大の危機はこの戦場だったといえるはず……それに――」
確信に満ちた微笑を浮かべる姫さま。
「今のアヤカ・ソゴウを中心とした勇者たちがいれば、この南軍はそう簡単に崩せない――わたくしは、そう思っています」
確かに十河は想像以上に強くなっていた。
大きさや形を自在に変えるあの銀の武器もある。
側近級も、倒している。
経験値もかなり入ったはず。
その十河がいれば大魔帝以外なら対抗できそうだ。
南軍も崩壊はしていない。
立て直す余力は残っている――姫さまは、そう話した。
懸念材料の大魔帝も今は東軍方面にいるという。
なら当面、この南軍に危機が迫ることはないだろう。
姫さまが、指示を飛ばした。
「では、すぐに動けそうな頼まれごとについては早急に手をつけさせましょう――ドロシー、マキアを呼んでちょうだい」
指示を受けた聖騎士の一人が幕舎から出ていく。
ほどなくして――その聖騎士と一緒に、背の低い聖騎士が入ってきた。
妙にヒラヒラした装いの女騎士だった。
なんというか……ゴスロリ系のテイストを感じる。
黒の長髪に、赤い瞳。
背丈は大分低い。
子ども、ってこともなさそうだが。
「彼女はマキア・ルノーフィア。現聖騎士団長を務めるルノーフィア侯爵家の令嬢ですわ。元々は副長だったのですけれど、セラスがいなくなった後繰り上がりで団長に」
「こう見えても私、セラス様より長生きですので」
ふふん、と胸を張る現団長。
セラスが苦笑する。
「愛らしい外見なのでよく誤解されますが、マキアはとても優秀な聖騎士です。この大陸でも数少ない詠唱呪文の使い手でもありますし――」
「セラス様」
マキアが片目をつむり、親指で幕舎の外を示した。
「ご命令通り、あの戦車の残骸の回収は終わっています」
俺はセラスを見る。
彼女は軽く、一礼した。
「我が主でしたら、あの戦車を放置はしないと思い……先んじて聖騎士団に残骸の回収をお願いしておきました。回収作業にあたったのは聖騎士のみ……彼女たちの口の堅さについては、私が保証いたします」
2020年01月14日 01点01分
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极力、蝇王ノ戦団の痕迹を消す。
もちろん魔戦车の残骸も残すつもりはなかった。
姫さまへの頼みごとの中に、魔戦车の残骸回収も入れたのだが……。
优秀な副官がすでに动いていたらしい。
「セラス、迅速な判断と行动に感谢します」
たおやかにまつ毛を伏せ、再び一礼するセラス。
「お褒めにあずかり、光栄です」
「さて、セラス。あなたはこのまま、蝇王ノ戦団の一员として私たちと共に行动する――それで、よいのですね?」
「迷いはありません」
昙りなく、セラスは答えた。
「私もそれを、望みます」
「でしたら……あなたのもう一つの目的を、果たしてくるといいでしょう」
セラスのもう一つの目的。
姫さま――カトレア・シュトラミウスと、きちんと别れを済ませること。
ちなみに正体を明かしていなければ、姫さまと二人きりの时间を作ってやって、その时にこっそり姫さまにだけ正体を明かさせるつもりだった。
「……姫さま」
姫さまに向き直るセラス。
「合议が始まるまでの间……少々、お时间をいただけるでしょうか?」
「ええ。もちろんですわ、セラス」
姫さまは目もとを和らげると、少し遅れて口もとを绽ばせた。
今日初めて见る表情だった。
あれが、姫さまの素なのかもしれない。
「时间があれば、本当は朝まで语らいたいところだけれど」
セラスの目*に、涙が渗んだ。
「――姫さま」
俺は、二人に背を向けた。
「私たちは外へ出ています――どうぞ、ごゆっくり」
言い残し、外へ出る。
と、マキアを含めた圣骑士たちも出てきた。
今は二人きりに、という配虑だろう。
外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
阵の内外には多くの篝火が焚かれている。
と、幕舎を出て少し歩いたところで、现圣骑士団长のマキアが声をかけてきた。
「あなたは、素性を明かせない理由があるの?」
俺は颜を隠し、声も変えている。
そう考えるのは自然だろう。
「ええ。色々事情がありまして」
俺にはセラスやイヴのような変身能力がない。
そして今、2−Cの连中に俺が三森灯河だとバレるのは避けたい。
演技で欺こうにも、素颜を晒してしまえば欺きようもなくなる。
「素性について一つ、闻いていいかしら?」
「……必ず答えると、约束はできませんが」
「あなたは――人间?」
「なるほど。正体を隠しているのは、ワタシが亜人族だからだと?」
「违います。ほら、セラス様ってハイエルフでしょう?」
「?」
何が言いたいのか、いまいち要领を得ない。
はぁ、と现圣骑士団长が息を吐く。
「人间とハイエルフの间に子ができにくいのは知ってる? あなたが人间なら、これから大変ね……と思って」
「…………」
2020年01月14日 01点01分
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level 7
いらん世話すぎる。
「ま、悪い男じゃないのはわかったけれど」
「ほぅ、この短時間でわかるものですか?」
ふん、とそっぽを向くマキア。
「幕舎を出てから、歩幅、私に合わせてくれてるもの」
マキアは小柄も小柄なので、俺たちの歩幅にはかなり差がある。
となると必然、俺が歩く速度を落とすか、トッテケトッテケ小走りで彼女が俺に追いつくかになるわけで。
可愛らしく唇を尖らせ、マキアが俺を見上げた。
「私からも礼を言いいます。セラス様にまた会えるとは、思っていなかったから」
「随分とセラスは慕われていたのですね」
「あの方は、私たち聖騎士の憧れだったもの。強くて、綺麗で、上品で、優しくて……ただ、今のセラス様はちょっと変わった気がするけれど」
「そうなのですか?」
「以前より感情を顔に出すようになった感じがするわね。以前はもっと表情が薄くて厳粛な雰囲気だったもの。だからこそ、一種の神々しさもあったんでしょうけれど」
マキアが足を止め、視線を靴先へ落とした。
「セラス様のこと……頼んだわよ?」
「少なくとも、彼女をないがしろにするつもりはありません。大切な存在ですから」
澄まし顔で、マキアは頬に垂れた髪をかき上げた。
「だと、いいけれど」
他の二人はいなくなったが、マキアはずっと俺についてきている。
監視役も兼ねているのだろう。
と、
「戻ったか、我が主よ」
幕舎からやや離れた場所にいたイヴが近寄ってきた。
スレイも一緒である。
魔戦車の残骸の件で聖騎士から説明を受けていたとのことだ。
「アスタリアはどうした?」
「今はカトレア姫と別れ前のひと時を過ごしています」
「ふむ……そうか。ところで我が主よ、なぜ幼子おさなごを連れているのだ?」
マキアが眉間にシワを刻み、こめかみをピクピクさせた。
「現ネーア聖騎士団長、マキア・ルノーフィアです……ッ」
「む、これは失礼した。うーむ……そなた、有能な幼子なのだな」
「失礼ね! これでも私は、セラス様より年上です!」
「む、ぅ……これは重ねて失礼した。我の名はアスターヴァ。我が主ベルゼギアの第二誓剣である」
視線で確認してくるイヴ。
”こう名乗ればよいのだったな?”
2020年01月14日 02点01分
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level 7
俺は、頷きで答えた。
アスターヴァはイヴの偽名である。
こちらも蠅王の伝承から拝借した。
「あなたも”我が主”と同じく素性は明かせない人物なの? セラス様のこともあるし……まさか、魔群帯へ雲隠れしたイヴ・スピードなんてオチだったり?」
「む、むぅ!?」
まさかのドンピシャに、困った空気を出すイヴ。
……いや、そこは平然と流さないとだめだろ。
イヴは、いかにも図星と言わんばかりの反応をしてしまった。
むしろマキアの方が、
”えっ? 当てずっぽうが、まさかの大当たり……?”
みたいな反応をしている。
「アスターヴァ」
「な……なんだ、我が主よ」
「せっかくです。マスクを取って、顔を見せてさしあげては?」
「何?」
次の瞬間。
あっ、とイヴが思い至った反応をした。
そう――今、彼女は人間状態。
下手に訝しがられるなら証明した方がいい。
豹人族ではないと――その”素顔”で。
イヴが、マスクを脱ぐ。
もさもさツインテールを左右に振るイヴを見て、
「……それで豹人族は、無理があるわね」
マキアが、息をつく。
彼女の表情から疑心は完全に消えていた。
俺はマキアに言う。
「ワタシもあの高名なイヴ・スピードを仲間にできるのなら、是非そうしたいところなのですが」
実際はすぐ隣に、仲間状態でいるのだが。
イヴは糸目になって、気持ちよさそうに頬を緩ませていた。
「ふぅ。やはりこれは、脱いだ方が心地よいな……ん?」
陣を行き来する兵たちが、足を止めていた。
皆、イヴを見ている。
戸惑いがちにきょろきょろし始めるイヴ。
「い、一体なんだというのだ……っ?」
皆、イヴに見惚れていた。
当初は蠅騎士がマスクを脱ぐのを興味本位で見ていたのだろう。
が、中から素顔が飛び出すと、また違った意味で気を惹かれたらしい。
「我が主よ」
「ん?」
「そなたの反応と、ひどく違うのだが……今の我は何か変なのか?」
「物珍しい部類、ではあるのでしょうね」
「ん〜?」
子どもみたいに首を傾げるイヴ。
「よく、わからぬ」
「今は、わからなくてもよいかと」
「ふむ……わかった」
一応、納得したようだ。
「それで……我が主よ、我らはこれからどうす――」
と、
「マキア様っ」
一人の兵士が、小走りに近づいてきた。
「何ごとです」
「それが――」
俺とイヴを、ちらと見やる兵士。
「アヤカ・ソゴウ殿が訪ねてこられまして、ベルゼギア殿にお会いしたいと」
2020年01月14日 02点01分
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level 7
申し訳ございません。基本は水曜か金曜に更新しているのですが……今話を書き上げるのに思った以上の時間がかかってしまい、普段更新しない曜日に食い込むことになってしまいました。
また、前回更新後に新しくレビューを2件いただきました。ありがとうございます。
それから去年の末頃に発売しましたコミカライズ1巻ですが、おかげさまでこちらも早速重版がかかったとの連絡をいただきました。ご購入くださった皆様、ありがとうございました……。
そして残すところあと少しとなった第五章、こちらも最後までお付き合いいただけましたらありがたく存じます(次話はもう少し早く更新できれば……と思っています)。
2020年01月14日 02点01分
9
level 7
不要期待我啊 百度翻譯+自己補腦 我日文程度很低的
尼亞的公主
伊娃和斯雷被告知暂时在營帳外等候。
我向夏娃传达了
“暂且照对方说的做”这消息,一个人走进了營帳。
塞拉斯揭露了真面目——这也带来了好处。
一个是我们来到这个战场的理由更容易推斷。
“塞拉斯·阿修莱因为了成为曾经侍奉过的卡特利亚公主的力量而奔走”
塞拉斯揭露了真面目——这也带来了好处。
一个是我们来到这个战场的理由变得简单。
“塞拉斯·阿修莱因为了成为曾经侍奉过的卡特利亚公主的力量而奔走”
这样一来,苍蝇王之战团参加这一战的理由就容易理解了。
另一個好處是
即使不遵循麻烦的步骤,也容易和公主接触吧。
视线進入營帳中。
有种很大的帐篷的感觉。
那是游牧民用的东西。
里面设置了椅子。
“欢迎光临”
椅子上坐着一个银发竖卷的女人。
“我是卡特莱亚·施特劳米斯。”
……那是尼亚的公主吗?
深思熟虑的灰色瞳孔。
军装文雅。
但是,严肃的姿态看上去像是战士。
旁边有两名圣骑士。
那个斜前站着苍蝇骑士。
装扮成苍蝇骑士的样子,却戴着口罩。
塞拉斯看起来很平静。
再会的喜悦已经充分地分享了吧。
从塞拉斯眼睛的红色程度可以推测出来。
塞拉斯走了过来。
战斗结束后,交谈还是第一次。
塞拉斯悄悄地低声耳语。
“非常抱歉。我想您已经知道了,我的真面目——”
“我知道。别在意”
塞拉斯低着头,将一只手紧紧地握在胸前。
“是”
像是要重新振作起来,抬起头的塞拉斯。
“关于你的情报,只是传达了‘从黑龙骑士团救了我的原亞信特的人’的程度……总之,只是救命恩人”
“这样就好——剩下的就交给我了”
2020年01月14日 02点01分
11
level 7
用视线表示了解,塞拉斯就在我身边等候。
我朝着公主的方向挺直,单膝折断,低下头来。
“初次见面——苍蝇王战团之长,我是比利时吉亚。正如参战时所宣告的那样,我战团曾自称是亞信特”
“比利时……跟传承的苍蝇王的名字一样呢”
「是的。这个名字是从苍蝇王的传承中借来的”
“哼哼哼,那么塞拉斯就是苍蝇王的忠臣们——苍蝇王誓剑中的一人。赶到我身边的时候,塞拉斯也自称是第一誓言阿斯塔利亚……不管怎樣……”
”……”
感觉公主要站起来。
“多亏了你们我才捡到了一条命。作为率领尼亚军队的将领,首先请允许我致谢。如果你们不赶到,就会全灭”
“——能赶上卡特利亚的危机,比什么都重要。”
“咒术……原理不知道,不过,是可怕的力量。再加上那石像的军队,多脚的黑马……两位苍蝇骑士的强大战斗力。只是,与通过传闻得到的亞信特的印象稍微不同」
“揭开内幕后,亞信特分成了两个派系。然后……我们是少数派的派系。虽然其他人梦想着能登上耀眼的正面舞台,但我们还是希望自己能持續存在舞台後方
結局,我继续说道。
“我们派系舍弃了亞信特之名,决定今后作为在世界阴暗中活跃的苍蝇王之战团而生存下去。”
“另外一个派系會允許吗?虽然我不认为这么轻易就會放弃了拥有如此力量的你”
“——我很清楚。他们绝不想承认我们的脱离。在那之前……任凭你想象吧”
被世间忽然消失了的亞信特。
“追赶苍蝇王战团直到魔群的另一派系的人们,在魔群带中全灭了”
應該說——被我们全灭了。
与在一部分被低声私语的魔群带入说纠绕,那样的感觉的想象也展开就行了。
“在与他们诀别之后,得到了卡特利亚率领的尼亚军队参加与大魔帝军的战斗的消息……理解了塞拉斯的意思,想帮上什么忙,就这样来到卡特利亚大人身边……当初,作为雇佣兵预定参加南军”
原来如此,把得心挂在嘴边的公主殿下。
……虽然心里觉得有些微妙。
一步,公主向我前进。
“比利时吉亚殿下,请一定要站起来。你又不是在我的指挥下”
“……”
正如你所说,我站起来了。
公主的身高比我小了一些。
她抬起视线。
“然后……对于您救助塞拉斯生命一事,我必须感谢您”
我行了一礼。
“因为在那儿要落到巴克奥斯手里,实在是太可惜了。”
“然后,感恩于比利时吉亚殿下的塞拉斯 现在侍奉者你……塞拉斯的身世,由本人来询问?”
“我听过从尼亞逃出来的故事”
“——比利时吉亚殿下”
以转换话题的状态,公主说了。
“虽说能帮上忙……你以后也不会一直和我在一起吧?”
“……”
2020年01月14日 03点01分
12
level 7
不翻了 好幾句翻不出 大家自己用百度翻譯補腦應該可完全了解內容
2020年01月15日 02点01分
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