level 8
おおよそ、神の加护を象徴する施设に似つかわしくない温度と湿度。 床に这うのは、生命の残滓——むせ返るような血液の臭い。 神域のはずの其処だけが、加护から远く离れた奇妙な暗に包まれているかのようだった。 その煮凝った空気を震わせるのは、重い锁音と、男の息遣い。 まるで、出来の悪い芝居のような。どこかで现実を认めたくなくて、ふとそんな风に思いが巡る。けれどソレは决して絵空事などではなく、れっきとした事実。起こってしまった、现実。 ほんの少し前まで、息をしていたはずの彼のマスターは、マスターである证も、その生命をも无くして横たわっていた。 それを止めようとしたのだ。彼女に剣を振るった神父を、串刺しにしようと。神速を以って駆けた瞬间、金属の重なり合う音とともに押し寄せてきた锁に络め取られ、このまま壁に缝い付けられてしまった。 どうあがこうとも外れることは无く、ランサーはただ、眼前で彼女の血液が床に広がっていくのを见ていることしか出来なかったのだ。 彼女からの魔力供给のラインがぐっと细まった瞬间と、彼女の傍らに座した圣职者が立ち上がるのはほぼ同时で。 こちらを振り返った神父が、彼女の左腕を。肘から下だけになったそれを『持って』いた。「——、贵様…」 そこに刻まれた令呪は、いまだ辉きを无くさず。 恐らくこれから起こるであろう唾弃すべき事态に、枪兵は剥き出しの杀意を叩きつける。 それを意にも介さず、缓い笑みを向けた神父は、こちらに歩み寄りながら唇を开いた。「主替えの意向に賛同せよ。ランサーのサーヴァントよ」 微かに生命活动の名残を残した彼女の左腕に刻まれた令呪が、その声と共に淡く光る。 抗うことの出来ない、强力な『命令』。英霊を従えることの出来る、人のみに许された切り札。 令呪の拘束が、彼を蚀んだ。「ふざけ、やがって…!」 精神を歪曲させる拘束に、抗うように绞り出した声。 にじんだ汗に濡れた苍髪を额に贴り付けたまま、ランサーは目の前に立つ神父を睨み据える。 锁によって、壁に张り付けられたその状态で尚、杀気を孕んだ视线が弱まることは无い。 その様子を、渊のように昏い目で见下ろして、神父は穏やかに笑う。「私はあくまでも真剣だよ、ランサー」 この场にそぐわぬ穏やかなその声に、ギリ、と枪兵は奥歯を鸣らす。「もはやこの令呪も、お前の所有権も私のものだ。…それがどういう意味かは、判っているだろう?」「…俺は…认めねえ、ぞ…」 呪诅にも似た声音が、低く低く、这う。 それは、サーヴァントという役割の上での言叶はなく、一人の英霊としての、意思。 拘束の真逆にある意思をねじ伏せるような『力』は、容赦なくランサーの魔力を夺い、総てを消耗させる。 このサーヴァントは、面白い——とでも言うように、神父の笑颜が深まった。「认めようが认めまいが、事実として」 そこまで告げると、左手で强くランサーの髪を掴んで、无理矢理に颜を上げさせる。「ぁ…ッ、ぐ…」 痛みに歪んだ表情を舐るように眺めたあと、鼻先が触れ合うほどに颜を寄せ「もはや私に従属するより他に、现界の手段なぞ无いのだよ」 夸りを手折るように、解り切った答えを叩きつけた。「ぅ、グ…」 间近、视点が合わぬほどの距离。睨みつけた神父の瞳は、谷底のように深く、暗く、得体が知れない。恐らく、光の御子とも呼ばれる彼とは决して相容れぬ、强力な光をも呑むような暗が、そこに在った。「——ああ、…その言叶と、お前个人の意思はどうあれ」 クク、と喉を鸣らして神父が笑う。まるで蔑むようなその笑い声が酷く不快に感じられて、ランサーは再び奥歯を轧ませた。「黙れ、下众——」「その身体は既に、私の魔力を欲しがってさえ、いるようだがね?」「——!」 骂倒の言叶は、事実を告げる声に塞き止められた。 微弱ながらも既に、己の身体という器はこの眼前の神父と魔术回路を繋いでしまっている。 それは、意思では押し留め切れない令呪の拘束によるものと、己の往生际の悪さが出した结果だった。 ——この渊のような男は、己から、どれだけのものを夺えば気がすむと言うのだ——。 召唤者を、夸りを、自由を。そして、望みをも夺うに违いないのだと。奇妙な确信さえ抱くほど、ランサーはこの新たなマスターを憎んだ。「このまま、意地を张って消えてしまえるほど、洁くも无いだろう?お前は」「口が过ぎるぞ、下郎…ッ」「…言峰绮礼、だ。マスターの名前ぐらい、きちんと覚えるのだな。クー・フーリン」 真名を口にされることで、不可视の枷がかけられるような错覚に袭われる。 先ほど告げられた通りだった。もう、认めるより他无いのだ。己の新たなマスターは、この男——言峰绮礼であるのだ、と。「…ちく、しょう…」 最后の悪あがきのように、ランサーは萎えた声で毒づく。言峰はその様子を见て取ると、満足気に目を细め、微笑んだ。
2007年12月27日 08点12分