冥王破碎 冥王破碎
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703.二人的status(转自轻国 by charx27)  无事越过大海,接近了大陆。 『主上,就在这分头行动吧』  树妖提案道。 『……啊啊,说的是呢』  亚萝抱着树妖,从我的背上飞下。  伸出黑翼,在我的面前滞空。  我首先把意识集中在树妖身上。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 种族:世界树妖 状态:诅咒、木灵化Lv6 Lv :130/130(MAX) HP :2886/5773 MP :1534/1534 攻击力:304(609) 防御力:2642(1320) 魔法力:1169 速度:659 RANK:A+ 特性技能: 〖暗属性:Lv--〗〖古丽莎语言:Lv3〗〖硬化:Lv7〗 〖HP自动回复:Lv7〗〖MP自动回复:Lv6〗〖飞行:Lv4〗 〖治愈之雫:Lv6〗〖不屈的守护者:Lv--〗〖重力压缩:Lv5〗 〖蹑足步行:Lv5〗〖生命力付与:Lv--〗〖世界树之树皮:Lv6〗 〖妖精的咒言:Lv--〗〖钝重身体:Lv--〗 耐性技能: 〖物理耐性:Lv8〗〖落下耐性:Lv9〗 〖魔法耐性:Lv7〗 通常技能: 〖扎根:Lv5〗〖粘土:Lv5〗〖高阶恢复术:Lv6〗 〖火焰法球:Lv7〗〖水体法球:Lv4〗〖粘土法球:Lv6〗 〖疾风法球:Lv4〗〖念话:Lv5〗〖重力:Lv6〗 〖毒云:Lv4〗〖物理障壁:Lv6〗〖反力量:Lv6〗 〖诱饵:Lv6〗〖雕像:Lv6〗〖流星树桩:Lv6〗 〖木灵化:Lv6〗〖狂暴:Lv5〗〖木击:Lv5〗 〖木之反击:Lv5〗〖破甲:Lv5〗〖防御损失:Lv5〗 〖粘土墙:Lv5〗〖地鸣:Lv5〗〖热光线:Lv5〗 〖树笼之铠:Lv4〗〖死神之种:Lv5〗〖不死再生:Lv6〗 〖人化之术:Lv2〗 称号技能: 〖魔王的部下:Lv--〗〖食智慧之实者:Lv--〗〖白魔导师:Lv7〗 〖黑魔导师:Lv7〗〖竜所丢落之物:Lv--〗〖世界树:Lv--〗 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  重新看到这status,让我惊叹于它居然能强到这个地步了。  HP与防御力的数值足以匹敌身为传说级的原初物质、米娅了。  刚才树妖说服亚萝时也是,让我不由得感觉到它真是在不知不觉中成长了。  不光是status,精神层面也一样,让人觉得它经过各种各样的战斗,已经发生了改变。  接着,我又看向抱着树妖的亚萝。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 名前:亚萝 种族:瓦尔普鲁基斯 状态:诅咒 Lv :118/130 HP :95/95 MP :3393/3601 攻击力:1284 防御力:1023 魔法力:2409 速度:1168 RANK:A+ 特性技能: 〖古丽莎语言:Lv4〗〖不死族:Lv--〗〖暗属性:Lv--〗 〖肉体変形:Lv9〗〖死者的特权:Lv--〗〖土之支配者:Lv--〗 〖邪恶魔眼:Lv7〗〖不死制造者:Lv--〗〖石化魔眼:Lv7〗 〖飞行:Lv3〗〖不灭之暗:Lv--〗〖不吉黑羽:Lv--〗 耐性技能: 〖异常状态无效:Lv--〗〖物理耐性:Lv8〗 〖魔法耐性:Lv6〗〖物理减半:Lv--〗 通常技能: 〖狂风:Lv8〗〖诅咒:Lv6〗〖生命虹吸:Lv7〗 〖粘土:Lv7〗〖自我再生:Lv8〗〖土人偶:Lv7〗 〖魔素虹吸:Lv8〗〖留恋之绳:Lv6〗〖亡者之雾:Lv6〗 〖魅惑:Lv6〗〖广域虹吸:Lv6〗〖暗黑法球:Lv6〗 〖吸血:Lv7〗〖即死:Lv7〗〖幻象:Lv7〗 〖黑血蝙蝠:Lv7〗〖暴食毒牙:Lv2〗〖暗黑万花筒:Lv4〗 称号技能: 〖魔王的部下:Lv--〗〖虚无的魔导师:Lv8〗〖不朽身体:Lv--〗 〖不死女王:Lv--〗〖不灭之魔女:Lv--〗〖最终进化者:Lv--〗 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  亚萝也是,status大大成长了。  树妖是持久型status高的离谱,跟它比起来亚萝的status显得有点朴素,单最终对战斗来说重要的乃是攻击力、魔法攻击力以及速度。  亚萝的status好好确保了魔法攻击力,在属性平衡上可说是相当受优待了。  而且〖暗黑万花筒〗虽然在MP消耗上有点吃紧,但通过这招可以大幅提升活力,也是一个重大的强项。 『……你们俩绝对不要死啊。我马上就干掉哈雷纳艾和阿蒂基亚的〖灵体·从者〗,去你们那儿』 「这是自然,竜神大人」  亚萝深深地点了点头。 『不必担心,主上! 毕竟我的强项就是皮实嘛! 也不用担心亚萝殿,我一定会保护她的!』  树妖啪嗒啪嗒扇着翅膀向亚萝表现道。  简短的交流之后,亚罗·树妖组合向着与我不同的方向飞去。  我也几乎同时背对他们飞走了。  也曾想过,是否应该趁着现在这样那样再多说一点话。  不过这样做的话,就感觉真的会变成最后的对话了,让人感觉害怕。  我们之后也一定会相聚。  所以现在才不会说什么『说不定是最后一次了,所以……』之类的话。  我途中转向亚萝他们。 『亚萝、树妖!』  他们对我的念话产生了反应。  也停了下来,转向我。 『要等着我啊! 我很快就会去的!』 「是!」『是~!』  亚萝和树妖同时很有气势地做了回答。  我们一笑之后,再次向着各自的方向出发。 本话完。9613011
702 702.アロの決断  俺は海原の遥か上を飛んでいた。  リーアルム聖国のあった大陸は、既に水平線の遥か彼方へと消えてしまっていた。  海の上を全速力で飛んでいると、昔より遥かに速くなったんだなと実感する。  ヨルネスとの戦いによる消耗からの休息を兼ねているとはいえ、悠長に移動しているわけにはいかなかった。  こうしている間にも、各地で〖スピリット・サーヴァント〗は大暴れしているはずなのだ。  しかし、目的の大陸が見えてくる前に、次の〖スピリット・サーヴァント〗を討伐するため、どこへ向かうべきなのかを決めなければならない。  アーデジア王国の位置を確かめたのは、この世界におけるリーアルム聖国の位置を知りたかったためである。  真っ先にアーデジア王国へ向かうのかどうかは、また別の話であった。  ただ、アーデジア王国の王都アルバンは俺が訪れたことのある地だ。  大国の王都でもあるし、神の声が狙うには絶好の場所であるだろう。  神の声が〖スピリット・サーヴァント〗を差し向けた可能性は充分にあるはずだ。  そうした意味でも、大きな候補の一つではある。  リーアルム聖国は俺にとっては訪れたこともない国ではあったのだが、神の声がこの国を狙ったのは、リリクシーラが神の声との契約を破ったから、という建前であったはずだ。  それについては、神の声の奴が直接口にしていたため間違いはない。  リリクシーラと神の声との契約の内容については、だいたい想像がついている。  恐らく神の声は、リリクシーラが自身に逆らえなくするために、リーアルム聖国への攻撃を脅しに使ったのだろう。  リリクシーラは俺に敗れたことで命令を全うできなかったとはいえ、神の声から見て充分に役割を熟しはずではあった。  結局のところ、神の声にとって重要なことは、神聖スキル持ち同士が殺し合う、という部分であったのだから。  そうした意味では神の声がリーアルム聖国を狙う理由はないはずだが、奴にはそんな理屈は通用しないのだろう。  あいつの性格の悪さは筋金入りだ。  だからこそ、そこからあいつの狙う場所を逆算することもできる。  俺がこれまで訪れた場所……ミリアの村、砂漠の国ハレナエ、リトヴェアル族の集落、最西の巨大樹島、王都アルバン、最東の異境地。  そして人間のいない四大魔境の二つは候補から除外できるため、四つに絞られる。  この内の三か所が、あの神の声が〖スピリット・サーヴァント〗に襲撃させている場所だろう。  規模から考えると、ミリアの村が襲撃を受けた可能性が最も低い。  細かい推理には誤りがあるかもしれねぇが、大枠としては外していないはずだ。  論理的に考えれば……真っ先に向かうべき場所は、ハレナエではないかと思う。  海に面した大きな砂漠を見つければいいので、国を見失ってあらぬ方向へ飛んで行っちまった、なんて間抜けなことにならなくても済む。  そして、ハレナエはアーデジア王国と近い。  ハレナエからアーデジア王国までニーナを送ったことがあるからわかる。  ハレナエにさえ辿り着くことができれば、アーデジア王国へも迷うことなく進めるはずだ。  つまり、迷う心配が低く、かつ候補の地二つを素早く回ることができるのだ。  もしも片方が間違っていたとしてもタイムロスにはならない上に、上手く行けば二か所の〖スピリット・サーヴァント〗を片付けることができる。  被害を少しでも減らすためには、ハレナエから向かうべきだ。  だが……それだけを目安に向かうわけにもいかない。 「グゥ……」  俺は牙を食いしばる。  リトヴェアル族の集落はアロの出身の地であり、彼女の両親がいる場所なのだ。  後回しにするわけにはいかねぇ。  どうするべきなのか考えてはみたが、やはり、アロの故郷を蔑ろにするという選択肢はなかった。  人の生き死にに優先順位なんざつけるべきではないだろうし、つけたくもない。  だが、目前に選択肢を突きつけられているのだ。  選ばなければならねぇ。 『……アロ、トレント。神の声の奴がどこを狙うつもりなのか考えてみたが……奴は、俺が一番嫌がるところに狙いを付けて来やがると思う。だからよ、まずは……』  どう説明するべきだろうか。  アロに気を遣って移動先を変えたのが悟られれば、彼女としても心苦しいものがあるはずだ。 「竜神さま」  アロが俺の〖念話〗を遮る。 『なんだ?』 「森には……リトヴェアル族の集落には、私に行かせてください」  俺はアロの言葉を聞いて、衝撃のあまり、すぐには〖念話〗を返せなかった。 『わ、わかってんのか!? 向こうには今……神の声の、〖スピリット・サーヴァント〗がいやがるんだぞ? 歴代最強格の、神聖スキルの所有者だ! 最低でもオネイロスやタナトスみてぇな伝説級だ! いや、伝説級上位の可能性だってあるんだぞ!』  そもそも伝説級であるヨルネスだって、スキルやステータスが独特過ぎることを危険視してアロを連れて行かなかったのだ。  実際、連れて行っていれば、アロもトレントも〖エンパス〗で瞬殺されていた可能性が高い。  〖スピリット・サーヴァント〗との戦いは、これまで以上に危険すぎるのだ。 「……もしかしたら、一矢報いることさえできずに殺されるかもしれない、なんてことはわかっています。でも……私のお父さんとお母さんが、あそこにはいるんです。私が行かないことで、二人が死ぬことになるかもしれません」 『俺が最優先でリトヴェアル族の集落へ向かう!』 「竜神さまには、別に向かわなければならない場所があるはずです。お願いです。お父さんとお母さんの許へは、私に向かわさせてください」 『なっ、そんな……』 「犠牲が出るのは、どう足掻いてももう避けられないんです! 私だけ、半ば竜神さまに守られるような形でずっといるわけにはいきません! 聖女ヨルネスが伝説級だったと聞いてから、ずっと考えていたんです。伝説級なら、相性次第では私にだって勝算があるかもしれません! 私に戦わせてください!」  確かに……勝てる可能性はゼロじゃねぇ。  上手く行けば、効率的に〖スピリット・サーヴァント〗を片付けて、数百人、場合によっては数千人規模の人間が助かることに繋がるかもしれない。  だが……だが、それでも分が悪過ぎる。  とてもじゃないが、ここで送り出してやることはできねぇ。 『無茶なことをするんじゃねぇ! リトヴェアル族の集落には、俺と一緒に向かう! それでいいだろ?』 『そうですな。アロ殿が向かったとして、どうにかなる相手だとはとても私には思えませんぞ。アロ殿が伝説級相手にどうにか形になるのは、せいぜい魔法攻撃力と手数のみ。歴代最強格の神聖スキルの持ち主が、それだけで押し切れるとはとても考えられませぬ。気持ちはわかりますがアロ殿、もう少し冷静にならねば』  トレントも俺と同意見のようであった。 「トレントさん、でも、私は……」 『ですから主殿、私もアロ殿と共に向かいますぞ』  アロの言葉を遮り、トレントはそう言い切った。  俺は立て続けに驚かされた。  衝撃のあまり、飛行体勢ががくんと崩れた。 『だ、だから、アロやトレントでどうにかなる相手じゃねえんだよ!』 『そうとは限りませんぞ、主殿。もし伝説級相手なら、アロ殿の手数と魔法攻撃力は、充分応戦できるレベルのはず。そして私の防御面の性能は、伝説級であった主殿のオネイロスのステータスと並ぶほどであったと、私に言ってくださったではありませんか』  ……だ、だが、それでもやっぱり、とても神の声の〖スピリット・サーヴァント〗に敵うとは思えなかった。 『それに、大事なのは勝つことだけではありませんぞ。主殿もアロ殿も、急いて肝心な部分を見失っております』 『か、肝心な部分……?』
701话 701.聖都を後に  俺はアロを頭に乗せ、トレントのいる避難所の宮殿へと向かった。  ……もっとも、今の俺は、聖国の人間が信仰している聖女ヨルネスを殺害した、黙示録の竜でしかない。  ヨルネスがこの地で神の声の下僕として暴れていたとはいっても、その前情報の差は大きいだろう。  ロクな扱いを受けねぇことはわかりきっている。  事実、ここの僧兵達は、俺が現れたことに対して大分パニックになっていたようだった。  トレントと無事に合流さえ果たせたら、さっさとこの地を離れることにしよう。  もっとも、そうでなくても神の声の〖スピリット・サーヴァント〗の討伐は一秒でも時間が惜しいので、元よりそのつもりではあるのだが。 『……つーか、トレントは避難所先で上手くやれてんのか? トレントには悪いが、そういうのを器用にできる奴だとはあんまり思えないっつうか……』  トレントが避難民達にどう説明したのかは知らないが、嘘を吐ける性格ではないし、機転が利く方でもない。  俺はそこもトレントの美徳だとは思っているのだが、トレントの性格だと本当に馬鹿正直に『アポカリプスは私の主ですぞ!』なんて言いかねない。  聖神教徒達から袋叩きにされたり投獄されたりしてはいないだろうか。 「大丈夫……」  アロはそこまで言って、少し口篭る。 「……だといいんですけれど」 『ま、まぁ、死ぬようなことはねぇだろうけどよ』  僧兵百人が束になったって、トレントには掠り傷一つ付けられねぇはずだ。  そういう面では、心配もいらないのかもしれねぇが……。  宮殿に近づくと、壁の一部が崩れて大穴が開いており、内部が露出していた。  そして壁諸共、地面も巨大な半円球に抉れている。  どうやらヨルネスの放った〖ルイン〗の流れ弾が一発こっちに飛んできていたようだ。  だ、大丈夫か、これ……?  この一発でかなりの死者が出てたんじゃなかろうか。  なるべくヨルネスがこの付近に近づかないよう気を付けて動いていたつもりなのだが、俺もさすがに余裕がなかった。  飛んできた〖ルイン〗がどこに向かって、どこに着弾していたのか、その全てを追えてはいなかった。  俺は高度を下げて、壁に開いた大穴に接近していく。  その大穴から、大勢の人間達がこちらを見ていることに気が付いた。 「ア、アポカリプスが、こっちに来たぞ!」 「やっぱり敵意はないみたいだ! 俺達を助けてくれたんだ!」 「間違いない! やっぱりあのドラゴンは聖都を守ってくれたんだ!」  壁の大穴の中からは、何十人という人間が集まって俺を見上げていた。  予想していた反応と違い、手放しの大歓声であった。  俺は大穴の前に呆然と突っ立っちまっていた。  ……散々ビビられて、石か何か投げられるんじゃねぇかくらいに思っていたんだが。  これはこれで照れちまって、俺は爪の先で頬を掻いた。 『主殿ー! よくぞお戻りで! このトレント、必ずや主殿が勝利すると信じておりましたぞ!』  トレントは翼をバタバタと動かしながらそう口にする。  地面を蹴って飛び、俺の顔の横へと飛んできた。 「あの聖都を散々荒らしやがったヨルネスを、アポカリプスが倒してくれたんだ!」 「伝説の聖女だってずっと敬ってたのに、まさかあんな化け物だったとはな!」 「ほとぼりが冷めたら、奴の絵画も石像も全部ぶっ壊してやれ!」  俺を称える声に、ヨルネスを罵倒するものが交っていた。  俺はつい、彼らへ目が向いた。 「お、おい、聖女様になんてことを。確かに聖都は荒らしてはいたが、しかし……そんな言い方は。それに、今となっては、アレが本当にヨルネス様だったかは……」 「現実を見ろ! あの水色の髪も、虹の魔法も、間違いなくヨルネスのものだ! あの外見で……あの魔法で、あれだけの強さの人間が、この世界に一体何人いる!? 俺が何度奴に関する文献を読んだと思っている! 不可解な言動が多かったとされてるが、やっぱりロクな奴じゃなかったんだ!」 「きき、貴様! 聖神教司祭のこの私の前で、過去の聖女様を侮辱する言葉は許さんぞ!」 「何も言うなって言うのか! 俺はあいつに、母親も兄も殺されてんだよ!」  何やら剣呑な雰囲気が広がっていた。  ……決してこの聖都襲撃は、ヨルネスの意志ではなかったはずだ。  神の声がヨルネスを傀儡にして聖都を襲わせたに過ぎない。  ヨルネス自身は、神の声の意図を見抜き、奴に加担しないように、自分にできるせいいっぱいの抵抗をしようとしていたようだった。  未来の聖女達に向けた石碑を遺していたし、あれは実際、リリクシーラが神の声の真意に気が付くのに一躍買っていたようだった。  そしてあのアバドン自体が、〖闇払う一閃〗を有する者……〖勇者〗でなければ神の声を討てないという、彼女からのメッセージだったように俺には思えてならなかった。  少なくともヨルネスは自分が半永久的に傀儡として扱われるだろうことを受け入れ、その遥か先の未来を考えて、自分を殺して世界のために動いていた。  それはヨルネスの啓示石より確かなことであった。  だから俺には、そんな彼女を罵倒するような言葉は、あまり気分がよくはなかった。  だが、仕方のないことだ。  聖国の民からしてみれば、突然復活したかと思えば、虐殺の限りを尽くして消えていったモンスターでしかないのだから。  何も分からないまま同胞を殺され、住居を奪われて。  そんな彼らから、恨む対象さえ奪ってしまうというのはあまりに酷なことに思えた。  きっと彼らに、神の声の計画と、この世界の歪な在り方、その全てを伝えて受け入れさせることはできやしないだろう。  半端に俺が何かを伝えて、何を恨めばいいのかさえわからないような状況に追い込んだって、それは俺の自己満足にしかならねぇ。  ヨルネスはすげぇ立派な奴だった。  俺はそう信じている。  きっと彼女ならば、半端な真実を広められるよりも、自身が恨まれることによって少しでも傷ついた民の心が癒えるのならば、後者の方を選び、喜んで泥を被るはずだ。  ヨルネスのことは、俺が覚えておけばいいことだ。 『一つ聞きてぇことがあるんだが……アーデジア王国は、ここからどの方角へ進めば辿り着ける?』  俺は避難民達へとそう尋ねた。  このリーアルム聖国の位置を知るのに、一番手っ取り早かったためだ。  アーデジア王国は、この世界ではかなりの大国である。  それに、ここがリーアルム聖国であるというのならば、アーデジア王国からさして遠くはないはずであった。  王都アルバンでの魔王騒動の際に、リリクシーラが聖騎士団を率いてアーデジア王国までやってきていたのだから。  リリクシーラの〖スピリット・サーヴァント〗の片割れである聖竜セラピムはA級モンスターであったため多少距離が開いていてもどうにかなりそうだが、聖騎士の数を考えると彼らの大半は別の移動方法を取ったと考えるべきだろう。  蠅王ベルゼバブは……移動に使うには、ちっと難がある。  元の姿ではA級上位の中では姿が遅いのもそうだが、あの外観では上に乗るのも難しいはずだ。 「ア、アーデジア王国ですか? 東の方へ進み、海を跨げば辿り着きますが……」  聖職者らしき男が、俺へとそう答えた。 『やっぱり東か……。ありがとうよ』  予想通りの答えであった。  概ね俺の想定していた位置関係と差異はないらしい。  俺は以前、最西の巨大樹島からアーデジア王国まで移動したことがある。  あのときにリリクシーラから、移動のために必要となる地図を見せてもらった。  リーアルム聖国はあのとき受け取った地図の範囲外ではあったようだが、リリクシーラはあのときの数日の間に一度聖国に帰国してから王都アルバンへ向かったはずなので、最西の巨大樹島とアーデジア王国の中間辺りには位置しているはずだと考えていた。  今の俺は、あのときよりも遥かに速い。  方角さえわかればどうにかなるはずだ。 『そろそろ行くぞ、アロ、トレント。ゆっくり止まって休んでられるような場合じゃねぇからよ』 『も、もう、よろしいのですか? 主殿の、お知り合いの方がいたようでしたが……』  トレントが俺へとそう尋ねる。 「イルシアさん!」  声が聞こえてきた。  目を向ければ、ミリアの姿が見えた。  ここにいることはわかっていた。  ミリアがアロと会ったのは今回が二度目なのだし、俺が俺だと察するだろうということもわかっていた。  色んな言葉が頭を回った。  だが、俺は数秒考えた後に、小さくミリアへと頭を下げた。 『……すまねぇ』
700 700.勝利  ひとまず神の声の〖スピリット・サーヴァント〗の内の一体、聖女ヨルネスを無事に討伐することができた。  上位ではなく伝説級の魔物ではあったが、ステータスの数値以上に恐ろしい奴だった。  せめてリリクシーラが守りたかった聖国を守ってやりたがったが、この都市は一面、廃墟の山と奇妙な姿の化け物の亡骸に覆われている。  俺は自身の状態を確かめるため、改めてステータスをチェックした。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 〖イルシア〗 種族:アポカリプス 状態:毒(小)、麻痺(小) Lv :131/175 HP :1068/12237 MP :98/9904 攻撃力:10578 防御力:5837 魔法力:6971 素早さ:6782 ランク:L+(伝説級上位) 神聖スキル: 〖人間道:Lv--〗〖修羅道:Lv--〗〖餓鬼道:Lv--〗 〖畜生道:Lv--〗〖地獄道:Lv--〗 特性スキル: 〖竜の鱗:Lv9〗〖神の声:Lv8〗〖グリシャ言語:Lv3〗 〖飛行:Lv8〗〖竜鱗粉:Lv8〗〖闇属性:Lv--〗 〖邪竜:Lv--〗〖HP自動回復:Lv8〗〖気配感知:Lv7〗 〖MP自動回復:Lv8〗〖英雄の意地:Lv--〗〖竜の鏡:Lv--〗 〖魔王の恩恵:Lv--〗〖恐怖の魔眼:Lv1〗〖支配:Lv1〗 〖魔力洗脳:Lv1〗〖胡蝶の夢:Lv--〗 耐性スキル: 〖物理耐性:Lv6〗〖落下耐性:Lv7〗〖飢餓耐性:Lv6〗 〖毒耐性:Lv7〗〖孤独耐性:Lv7〗〖魔法耐性:Lv6〗 〖闇属性耐性:Lv6〗〖火属性耐性:Lv6〗〖恐怖耐性:Lv5〗 〖酸素欠乏耐性:Lv6〗〖麻痺耐性:Lv7〗〖幻影無効:Lv--〗 〖即死無効:Lv--〗〖呪い無効:Lv--〗〖混乱耐性:Lv4〗 〖強光耐性:Lv3〗〖石化耐性:Lv3〗 通常スキル: 〖転がる:Lv7〗〖ステータス閲覧:Lv7〗〖灼熱の息:Lv7〗 〖ホイッスル:Lv2〗〖ドラゴンパンチ:Lv4〗〖病魔の息:Lv7〗 〖毒牙:Lv7〗〖痺れ毒爪:Lv7〗〖ドラゴンテイル:Lv4〗 〖咆哮:Lv3〗〖天落とし:Lv4〗〖地返し:Lv2〗 〖人化の術:Lv8〗〖鎌鼬:Lv7〗〖首折舞:Lv4〗 〖ハイレスト:Lv7〗〖自己再生:Lv6〗〖道連れ:Lv--〗 〖デス:Lv8〗〖魂付加フェイクライフ:Lv6〗〖ホーリー:Lv5〗 〖念話:Lv4〗〖ワイドレスト:Lv5〗〖リグネ:Lv5〗 〖ホーリースフィア:Lv5〗〖闇払う一閃:Lv1〗〖次元爪:Lv7〗 〖ミラージュ:Lv8〗〖グラビティ:Lv8〗〖ディメンション:Lv8〗 〖ヘルゲート:Lv6〗〖グラビドン:Lv8〗〖ミラーカウンター:Lv8〗 〖アイディアルウェポン:Lv9〗〖ワームホール:Lv1〗〖カースナイト:Lv4〗 〖リンボ:Lv4〗〖ディーテ:Lv4〗〖コキュートス:Lv4〗 〖終末の音色:Lv--〗 称号スキル: 〖竜王:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗 〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv4〗〖害虫キラー:Lv8〗 〖嘘吐き:Lv3〗〖回避王:Lv2〗〖チキンランナー:Lv3〗〖コックさん:Lv4〗 〖ド根性:Lv4〗〖大物喰らいジャイアントキリング:Lv5〗 〖陶芸職人:Lv4〗〖群れのボス:Lv1〗〖ラプラス干渉権限:Lv8〗 〖永遠を知る者:Lv--〗〖王蟻:Lv--〗〖勇者:LvMAX〗 〖夢幻竜:Lv--〗〖魔王:Lv6〗〖最終進化者:Lv--〗 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  ……本体であるヨルネスが消滅したため呪いは解けたが、毒と麻痺がまだ少し残っている。  終盤では〖グラビディメンション〗に〖ヘルゲート〗をお返ししてから主導権を握り返して上手くやったと思っていたが、予想外に俺のMPが削られていた。  全体MPの1%未満である。  俺は自信満々に対応していたが、何なら最後の最後で〖闇払う一閃〗のMPが足りなくて〖因果の鏡〗と〖不滅の儀〗の完全ダメージ無効コンボを打破できず、〖因果車〗の発動を許してぶっ飛ばされていた可能性も充分にあった。  何かが少し違ったら、無様にスキルを空打ちして、五万ダメージを叩き込まれていたと思うとぞっとしねぇ。  何せアポカリプスの最大HP四周分以上のダメージである。  俺どころか、余波でこの都市自体消し飛んでいたかもしれない。  戦闘中、ヨルネスはもっと〖グラビディメンション〗を主軸に俺のHPを削っていた方が堅実だったのではないかと俺は考えていたのだが、蓋を開けてみれば二発目の〖グラビディメンション〗を俺が完全に対応できて、その結果でこれだけ残りMPが僅差だったので、ヨルネスの動き方が一番勝ちを見据えた堅実な動き方だったのだろう。  そもそもヨルネスの〖グラビディメンション〗は結局相手を倒しきるためのスキルでもなかった。  カウンタースキルでチクチクと持久戦を強いて相手から受けた総ダメージを稼ぎつつ消耗を誘い、それが通用しなくなれば〖グラビディメンション〗で極力ダメージを叩き込み、そして最後に疲弊しきった相手に〖因果車〗を確実に通すことに特化していたのだ。  戦い終わってから結果論で相手の戦法の正しさがわかると、どうにもすっきり勝った気分にはならなかった。  ヨルネスは自身の戦略を打ち砕ける強者を、神の声の許に送りたかったのではないかと俺は思う。  しかしその点で考えると、俺は本当に合格点に達していたのだろうか。 『まぁ……そんなこと、考えちまっても仕方ねぇよな』  神の声の奴は、俺が仕留める。  それしかねぇんだ。  力が本当に及んでいるのかとか、及んでいねぇのかとか、そんなことはもう関係ねぇ。  俺にできることを全部やるだけだ。  あいつのことは謎のが多いし、未だに正体が何なのかも今一つ漠然としていて見えて来ねぇ。  ただ、絶対に、この世界に残してちゃいけねぇ奴なんだ。  それだけははっきりとわかる。  投げ出して神の声の奴に迎合するには、俺は色んなことを知りすぎたし、色んな想いを背負い過ぎた。  リリクシーラ、ミーア、ヘカトンケイル、ヨルネス……全員、人間が一生の内に抱えるには重すぎる覚悟を抱いて、それを俺に託していった。 「竜神さまっ! 無事に勝ちましたね!」  三人のアロが俺へと飛来してきた。  アロ達は空中で黒くなって混ざり、〖暗闇万華鏡〗を解除して一体へと戻り、俺の目前で滞空した。 『……思ったより手酷くやれちまったけど、伝説級上位じゃなかったのが救いだ。あのスキル構成でもし俺と同ランクだったら、絶対に勝てなかっただろうな』 「伝説級……だったんですね」  そこでアロが、考え込むように口許に手を当てる。  ふ、不安にさせちまったかもしれねぇ。  これから強敵と連続で戦わねぇといけないのに、初戦のランク下の相手にこのザマだと不安に思われても無理はない。 『苦戦しちまったけど、その、独特なステータスの奴で……!』 「ち、違います! 少し考え事をしていただけですから!」  アロが慌てて手を振って否定する。 『それで……ミリア……保護してた彼女達は大丈夫か?』 「避難所になっていた宮殿に連れて行って、トレントさんを残しています。私の方は都市中に残っていたあの奇妙な化け物を狩って回っていましたが、全員無事に片が付きました。あの化け物は隠れるような行動は取りそうにありませんでしたから、生き残りの撃ち漏らしはいないはずです」 『よくやってくれたアロ。後は……トレントさんを回収するだけだな』  その後は、また他の三体の〖スピリット・サーヴァント〗を捜して動くことになる。  候補の地はいくつか絞れている。  あのクソ神の声のことだ。きっと俺に所縁のある地を選んでくれていやがるだろう。  問題は、どこから回るか、という点だった。  優先順位を付けなくちゃいけねぇ。  そして遅れたところは……きっと、その遅れた時間分大変なことになるだろう。 【書籍情報】  ドラたま十五巻、本日発売となっております!(2021/11/6)
699 699.とある少女と聖都の行方(side:ミリア)  避難のために宮殿に集まっていた人の多くは、〖ルイン〗の爆風によって開いた壁の大穴の周辺へと集まってきていた。  本当ならば安全のために、大穴から極力離れた、宮殿の奥にいた方がいいのだろう、とは思う。  この宮殿には地上階層より化け物の襲撃を受けにくそうな地下階層もあるのだ。  あちらであれば最悪〖ルイン〗の流れ弾が宮殿に対して飛んできても無事で済むかもしれないという見立てもあるのだし、実際避難民の内の数割は今もそちらに隠れている。  だが、何せ大空では、聖都の……いや、恐らくは世界の命運を決めるであろう、伝説の聖女と黙示録の竜の戦いが繰り広げられているのだ。  もしかしたらこの勝敗によっては世界が滅ぶのかもしれない。  そう考えれば、皆、宮殿奥地でただ時間が過ぎていくのを待っている気にはなれなかったのだ。  そして私もその一人だった。  しかし、皆、どちらを応援すればいいのかわからないようだった。  明らかに異形の化け物と化した伝説の聖女ヨルネス様と、一見私達を守ってくれたように見える黙示録の竜。  誰もがただただ不安そうな顔で、大空の戦いの行方を見つめている。 「グゥオオオオオオッ!」  ヨルネスは一時は追い込まれていたように見えたものの、今はアポカリプスを模したような竜の姿へと変化し、機動力を得てイルシアさんを圧倒していた。  ひたすら守りに徹しながら魔法攻撃を放っていたところから一転、今は逆にイルシアさんを追い掛ける側へと回っている。  イルシアさんはそんなヨルネス相手に防戦一方がせいいっぱいといった様子であった。 「おお、見よ、ヨルネス様が圧しておられるぞ!」  ドゴン司祭が空を見つめながらそう口にする。 「ドゴン司祭、あなたまだ、そんなことを……!」  私は思わずドゴン司祭へと杖を構えた。  ドゴン司祭は、先程トレントさんに命を救われ、考えを改めたところだったはずなのだ。  皆、状況が全く掴めず、どちらを応援すればいいのかさえわからないから、黙って見守っていたのだ。  私だって、手放しでイルシアさんを応援したかったけれど、そうした人に配慮して口には出さないようにしていた。 「わ、私は聖神教の教徒である! 聖女様を信じずに何を信じろというのだ! 私はそこの木偶の悪魔に対しても、心を許したわけではない! ただ、抗っても無駄だとわかったから刺激しないようにしているだけである!」 「ミリア、やはりこの御仁は地下牢に籠っていてもらっていた方がよさそうだな。元より暴動を企てていた奴を今野放しにしている状態がおかしいのだ」  メルティアさんも殺気立った様子でドゴン司祭を睨む。  アポカリプスの部下を自称しているトレントさんがこの場にいるのだ。  内心で勝手に信条に従ってヨルネスを応援するのは結構なことだが、声に出して彼の機嫌を損ねたらどうするつもりなのか。  今なお聖女ヨルネスを信じるために、彼女のこれまでの凶行にどう説明を付けたのか教えて欲しいところだ。 『私に気を遣ってくださっているのでしたら結構ですよ。皆さん、さぞ不安なことでしょう。そのようなことで、喧嘩をなさらずとも』  トレントさんは、主の戦いを見守りながら、ぽつりとそう口にした。  ドゴン司祭はバツが悪そうな顔を浮かべる。 「……あなたにとって、イルシアさんは大切な方なのですよね? トレントさんは悔しくないんですか? さっきも身体を張って助けてくださったのに……。命懸けで戦っているイルシアさんに対して、目の前であんな、馬鹿にするような言葉を吐かれて……」 『勿論私とて、思うところがないわけではありませんが、主殿ならきっとそう口になさるでしょうからな』  トレントさんは迷いなくそう言った。  ドゴン司祭は数秒の間、呆気にとられたようにトレントさんの背を見つめていた。  そのドゴン司祭の肩を、ラッダさんが叩く。 「ドゴン様、何を信じればいいのか何もわからなくなってしまった、というお気持ちはわかります。私もこれまで信じていたものを、一体ここ数日だけで何度打ち砕かれてきたことか……。何をして何を考えればいいのやら、もうさっぱりですよ。ですけれど、こんな状況だからこそ、目の前で起きていることを信じましょうよ」 「目の前で起きていることを……だと?」  ヨルネスがアポカリプスの姿を得てから、戦況はずっと一方的であった。  イルシアさんはヨルネスの攻撃をまともに受け、距離をおこうとしてもあっという間に追い詰められ、見たこともないような大規模な魔法で攻撃され……。  その様子は痛ましくさえあった。  だが、イルシアさんはそれでもまるで諦める様子を見せず、牙を喰いしばり、ヨルネスと対峙し続けている。  ただ世界に害をなそうと目論む邪竜が、あんな顔をするわけがない。  ドゴン司祭だって、フラットに見ればわかるはずだ。  聖地に結界を張って災禍を齎したヨルネスと、そのヨルネスに立ち向かっていくアポカリプス。  ただ、ドゴン司祭は、これまで信じてきたものが完全に瓦解するのが恐ろしいのだ。  だから最後の一線を、自分で掴んで強引に繋げてしまう。  大空では、イルシアさんがヨルネスより一方的な攻撃を受けて血塗れになりながらも、懸命に抗っているところだった。  ヨルネスの歪めた空間に囚われたイルシアさんが、禍々しい凶爪で身体の肉を抉られていく。 「がっ……頑張れ、アポカリプス!」  教徒の一人がそう口にした。  ドゴン司祭がムッとした表情で彼を振り返る。 「そ、そうだ! 聖地を滅茶苦茶にしたヨルネス様を止めてくれ!」 「負けないでくれ!」 「あいつはもう、きっとヨルネス様じゃないんだ!」  堰き止めていたものが崩れたかのように、教徒達が口々にそう叫んで空のドラゴンを応援する。  ドゴン司祭は黙って彼らを睨んでいたが、表情を和らげ、それから深く溜め息を吐いた。  それから空を見上げ、憑き物が落ちたかのような顔で、大空の戦いへと再び目を向ける。  それから決着がつくまでに、長い時間は掛からなかった。  一層激しくなる魔法の撃ち合いに、殴り合い。  両者共限界が近づいているのは、見ていて明らかであった。  やがてヨルネスはアポカリプスの姿から、異形の彫像へと姿を戻す。  背負う巨大な車輪が回り、不吉な予感が聖都内を包み込んだ。  何か仕掛けるつもりのようだった。  それもこれまでとは比べ物にはならない、大きな災いを。  最後の切り札でイルシアさんを仕留め切ろうとしているのだと、見ていてわかった。  イルシアさんは、ヨルネスを正面から睨む。  巨大な剣を手許に生み出して直進していき、ヨルネスを斬った。  ヨルネスの全身に罅が入った。  鏡が砕け、車輪がバラバラになり、最後には人頭が崩れ落ちる。  全てが粉々になって宙に舞い、まるであの不吉な化け物が夢であったかのように、さっと光の粒となって消えていった。  都市を覆っていたヨルネスの結界が消えていく。 「勝った……イルシアさんが!」  廃都と化していた聖都の隅で、大きな歓声が沸き起こった。 【書籍情報】  ドラたま十五巻、明日11月6日に発売いたします!
698〖因果車〗  アバドンの背負う巨大な車輪の回転。  そのスキルの正体はすぐに見つかった。 【通常スキル〖因果車〗】 【因果を司り、人の業を裁く奈落の王の権能。】 【二十四時間以内に自身へダメージを与えた対象へと、そのダメージの合計分の値のダメージを与える。】 【〖因果車〗によるダメージは軽減することができない。】 【発動には長い時間を要する。】  同時に〖不滅の儀〗の意図もわかった。  〖因果車〗の発動を確実に通すためのスキルだったのだ。  ヨルネスの最大HPは一万近くある。  〖因果車〗の発動を許せば最後、最低でも三万……最悪五万近いダメージが飛んでくることになる。  今まで俺は色んな魔物を見てきたが、それでも俺のHP最大値が最高値である。  それでもせいぜい一万と少しだ。  耐えられる魔物がこの世界にいるとは思えない。  徹底して陰湿な戦法を取って来るヨルネスだったが、まさか切り札にこんな爆弾まで抱えていやがったとは。  物理反射スキルと魔法反射スキルに加えて、ダメージ共有スキル。  耐性貫通の状態異常付与。  強化された避けにくい遠・中両用の魔法スキル。  ほぼ不可避の行動阻害スキル。  弱点を補うステータスコピー。  挙げ句の果てに数で攻められても〖エンパス〗での露払いができる。  これだけでもこれまで見た中で最悪のスキルの持ち主だったのに、ダメージ軽減無効の完全不可避の致死ダメージ付与スキルまで持っていやがった。  どう考えても、普通に戦ったら絶対ヨルネスには勝てないようになっている。  なんて底意地の悪いステータスだ。  もしゲームでこんな敵が出てきたら、間違いなく能力の全貌を把握する前に匙を投げている。  ヨルネスは以前アイテム説明で目にしたときからあまり印象がよくなかったのだが、やっていたことの善悪はさておき、相当捻くれた性格をしていやがったんじゃなかろうか。  車輪の速度が増していく。  青白かったヨルネスの全身が、発熱するように真っ赤に染まっていく。  何をどう攻撃しても無駄だ。  MPが尽きるまではヨルネスの不滅状態は解除されない。  ダメージを与える術はない。  そして恐らく、不滅状態が解除される前に〖因果車〗が炸裂する。  ヨルネスには絶対に勝てないようになっているのだ。  俺は前脚を伸ばし、その先を〖竜の鏡〗で手の形へと変える。 『〖アイディアルウェポン〗』  俺の手中に光が集まって来る。  一本の、赤黒い巨大な刃が現れた。 【〖黙示録の大剣〗:価値L+(伝説級)】 【〖攻撃力:+666〗】 【世界を終わらせる竜の体表と牙を用いて作られた大剣。】 【その悪しき魂が封じられており、斬られた者は地獄の炎に包まれる。】  盾と同様に、柄に禍々しい悪魔の姿が彫られていた。  刃にも血管のような不気味な模様が施されている。  〖不滅の儀〗と〖因果車〗のコンボは凶悪だ。  抜け道がなくはないだろうが、討伐難易度は一気に引き上がる。  恐らくひたすら与ダメージを抑えてMPを消耗させることに集中しつつ、どうにか複数体で挑んで〖因果車〗のダメージを頭数で割るのが現実的な戦法になるだろう。  だが、あるスキルを使えば、〖不滅の儀〗と〖因果車〗のコンボは簡単に崩せる。 【通常スキル〖闇払う一閃〗】 【剣に聖なる光を込め、敵を斬る。】 【この一閃の前では、あらゆるまやかしは意味をなさない。】 【耐性スキル・特性スキル・通常スキル・特殊状態によるダメージ軽減・無効を無視した大ダメージを与える。】  俺は〖黙示録の大剣〗に魔力を込める。  刃に光が宿っていく。  ヨルネスの車輪がどんどん加速し、全体が真っ赤な光を帯びていく。  俺はヨルネスの目前まで飛び、大剣を静かに構えた。  〖闇払う一閃〗は剣が込められた魔力で重くなるためどうしても大振りになるのだが、ヨルネスは〖不滅の儀〗と〖因果車〗のために全く動けなくなっている。 『今度こそ……これで終わりだ、ヨルネス』  刃を振るう。  ヨルネスは俺の〖闇払う一閃〗を正面から受けた。  岩の身体の全身に細かい罅が走る。 【経験値を118500得ました。】 【称号スキル〖歩く卵Lv:--〗の効果により、更に経験値を118500得ました。】 【〖アポカリプス〗のLvが105から131へと上がりました。】  ヨルネスの身体が砕け散った。  アバドンの人頭部分の顔が崩れる。  ヨルネスの残骸が宙に舞い、それは光の粒となって、空気に溶けるように消えていった。  この都市を包んでいた巨大な結界がぐわんと歪んで、薄れて消えていく。  ようやくヨルネスを倒すことができた。  あんな厄介なステータスだったんだ。  きっと何千年と誰にも討伐されずに残っていたことだろう。  〖闇払う一閃〗は、称号スキル〖勇者〗のレベル最大で得ることができたスキルだ。  そして恐らく、そこ以外では入手する術はない。  俺は〖魔王〗の称号スキルも持っているが、こちらはまともにスキルレベルが伸びていない。  恐らく人間か魔物のどちらかに肩入れするか、意図的に伸ばそうと尽力しなければ最大まで伸びないスキルなのだ。  俺は〖聖女〗と〖魔獣王〗は持っていないが、リリクシーラはどちらも有していた。  この称号スキルは恐らく神聖スキルに付随するが、最初の二つまでしか得られないのかもしれない。  奇妙で不自然なルールに思えるが、何かしら意味のあるものなのだろうか?  ただ、これで何となくわかったことがある。  ヨルネスは彼女の啓示石によれば、当時から自分がいずれ神の操り人形にされることをわかっていたようだった。  ヨルネスのステータスは、これまでのどの魔物と比べても異質なものだった。  あそこまで徹底して偏ってステータスには、何か意図のようなものを俺は感じてしまう。  ……もしかしたら彼女は、対応力があって、かつ〖勇者〗のスキルレベルが最大の相手に自分を倒してもらいたかったんじゃなかろうか。  〖勇者〗のスキルレベルが最大ならば、人間に肩入れしている存在である可能性が高くなる。  そして戦いの対応力があって、〖闇払う一閃〗のスキルがあれば、アバドンのような特殊なスキルで勝ちの目を完全に握り潰されるようなことはなくなる。  神の声が半端なステータスをしているとは思えない。  行動を制限してくるようなスキルや、万が一の際にダメージを帳消しにできるようなスキルを持っていてもおかしくはない。  ヨルネスはせめて自分にできるせいいっぱいの抵抗として、神の声に対して勝ち筋のある魔物に後を託せるように、アバドンへと進化したのではなかろうか。  あながちただの考え過ぎだとは思えない。  啓示石を見るに、ヨルネスは相当な切れ者で、かつ神の声を討伐する方法を本気で模索しているようだった。 『お前の想いと覚悟は俺が引き継ぐぜ、ヨルネス。だから、安心して眠っててくれ』  俺はアバドンの残骸に対して、小さく頭を下げた。 << 前へ目次
697 697.〖不滅の儀〗  骸骨を象る黒炎の巨人が、多方向からヨルネスへと伸し掛かるように倒れていく。  石像の身体が焼き尽くされていく。  俺は暴れるヨルネスの前脚をがっちりと牙で押さえ付け、爪でぶん殴った。  頭部の顎が砕け、石片が飛び散った。  俺も〖ヘルゲート〗の消耗のせいでもう限界が近い。  ここで簡単に引き剥がすわけには行かない。  ヨルネスが前脚の爪を至近距離から俺へ向ける。  爪先に怪しい光が宿っていた。 『〖エンパス〗』  身体の内側から焼け付くような痛みが走る。  〖エンパス〗で〖ヘルゲート〗のダメージを返して、俺の隙を作って拘束から逃れる狙いだったのだろう。  だが俺は牙を喰いしばって堪え、ヨルネスを睨み返した。 『残念だったな、ヨルネス』  〖ヘルゲート〗は俺のHPとMPを消耗させて発動するスキルだ。  〖エンパス〗は既にHPの減っている相手にはまともにダメージを与えられない。  通常の魔法スキルは、与えられるダメージと発動時に消耗するMPが概ね比例する。  だが、〖ヘルゲート〗はHPもコストにしている分、消耗MPに対して他のスキルよりも与えられるダメージが高いのだ。  別に通常であればだからどうしたという話なのだが……今回の戦いに限っていえば、この〖ヘルゲート〗の消耗コストは特別な意味を持つ。  〖ヘルゲート〗がHPをコストにしている以上、〖エンパス〗でダメージを返して俺の消耗を誘うことも、その衝撃で隙を作ることもできないのだ。  範囲攻撃でヨルネスの〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗を潰してくれていたことといい、奴の切り札だった〖グラビディメンション〗に対するカウンターになっていたことといい、〖ヘルゲート〗は綺麗にヨルネス対策となっていた。  俺は前脚で握り拳を作り、ヨルネスの頭部を真っ直ぐに撃ち抜いた。  ドラゴンの頭部が完全に砕け、ヨルネスの全身に亀裂が走る。  俺が牙で押さえていた前脚が捥げたことで、ヨルネスが俺の拘束から解放された。  首から上のない、四肢のバラバラになったアポカリプスの石像が宙へと投げ出される。  俺の〖ヘルゲート〗の維持が同時に途切れた。  俺は肩で息をしながら〖自己再生〗で回復する。  滞空を維持しつつヨルネスの残骸を睨む。  俺も〖ヘルゲート〗の反動と、ヨルネスの〖エンパス〗のせいで身体がほとんど限界だった。  だが、さすがのヨルネスもこれでもう限界のはずだ。  最後の〖グラビディメンション〗の時点でMPをかなり吐き出していた。  HPを回復するためのMPももはや怪しい。  ヨルネスの身体が光に包まれる。  大きな頭部に、片翼の翼、そして鏡、背負った大きな車輪。  アポカリプスを模した姿が、元のアバドンへと戻った。  〖天使の鏡〗による変身ももう維持できなくなったようだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 〖ヨルネス・リーアルム〗 種族:アバドン 状態:スピリット Lv :150/150(MAX) HP :1443/9802 MP :297/6253 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  さすがのヨルネスも、こうなっちまったら何もできねぇだろう。  回復さえ充分にできないMPだ。  〖因果の鏡〗による完全物理耐性はあるが、アバドン状態は速度が致命的にない。  数発〖ルイン〗を放って、それで完全にお終いだ。  それとも悪足搔きの魔法カウンターに出てくるのか。  どちらにせよ、片方しかできない時点で簡単に詰ませることができる。  俺はしばらくヨルネスと睨み合ったが、動く気配がなかった。  後者を選んだようだ。  それとも或いは、俺に攻撃させつつその隙を窺うつもりなのか。  今更そんな、作戦ともいえない作戦に引っ掛かるわけもないが……。 『〖カースナイト〗!』  俺は呪いの騎士を生み出す。  騎士は宙を駆け、大きく円を描くような動きでヨルネスへと接近していく。  ヨルネスはまるで動きを見せない。  俺は〖カースナイト〗がヨルネスの死角へと回り込んでいる間に、次の魔法攻撃の準備をした。  〖グラビドン〗は必要ない。〖ホーリースフィア〗で充分だろう。  〖カースナイト〗と〖ホーリースフィア〗で挟み撃ちにして、確実にヨルネスのHPをゼロにする。 『〖ホーリースフィア〗!』  白い光球がヨルネスへと直進する。  大きく回り込む〖カースナイト〗と、正面から迫っていく〖ホーリースフィア〗。  片方を防いだとしてもこれで終わるはずだ。  ヨルネスはどちらも防がなかった。  〖カースナイト〗と〖ホーリースフィア〗が各々に爆ぜ、ヨルネスが双方の爆風に包まれる。  これでようやく終わったと俺は安堵したが、経験値取得メッセージは訪れなかった。  爆風の中から、原形を保ったままのヨルネスが滞空した状態で現れた。  ……さすがにあの状態から魔法スキルの挟撃を受ければ、たかだか千程度のHPは確実に吹っ飛ぶはずだ。  ヨルネスは奇妙なスキルを大量に抱えていた。  どうやらその内の何かを発動したようだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 〖ヨルネス・リーアルム〗 種族:アバドン 状態:スピリット、不滅 Lv :150/150(MAX) HP :1/9802 MP :272/6253 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  状態は……不滅?  こんなものは初めて目にする。  だが、確かにヨルネスの特性スキルにそれらしいものはあった。 【特性スキル〖不滅の儀〗】 【HPがゼロになる攻撃を受けた際、1を残して不滅状態になる。】 【不滅状態は急激にMPを消耗する代わりに、あらゆる状態異常を受け付けず、また魔法攻撃によるダメージを無効化する。】 【発動間は一切の移動ができなくなり、MPが0になるまで解除することはできない。】  ……致死ダメージに対してHPを1残しつつ、あらゆる魔法攻撃への完全耐性を得るスキル。  魔法攻撃の完全耐性というだけでかなり怪しいスキルではあるが、物理攻撃完全反射のヨルネスが使った場合、その意味は大きく変化する。  これで奴は、完全にあらゆる攻撃によるダメージを遮断したことになる。  だが、このスキルにさして意味があるとは思えねえ。  ただでさえMPは風前の灯火の上に、自身の移動を縛ることになる。  別のスキルは発動できるにしても、とても脅威には思えない。  俺は距離を置いて放置するだけでヨルネスを完全に無力化することができる。  文面通り受け取れば、数分も経たない内にヨルネスは【HP:1】、【MP:0】になるはずだ。  ……まぁ、それだけで終わってくれるわけはねぇよな。  この手のスキルが、本当に無意味なものであった試しなんざ今まで一度だってなかった。 『……ただの悪足搔き……つうわけじゃ、ないみてぇだな』  ガタリ、とヨルネスから音が響いてきた。  何かと思えば、ヨルネスの背負う大きな車輪が、ぎこちない動きで回転を始めた。  それはすぐに滑らかな回転になり、速度が上昇していく。 << 前へ目次
696 696.二つのカウンター  ヨルネスの〖グラビディメンション〗が来やがった……!  さっきみたいに拘束からのアポカリプスの攻撃力をコピーした連打が飛んで来やがったら、とてもじゃないが俺のMPが持たない。  仮に生き延びても、MPがなければ物理完全反射のアバドン状態のヨルネスを絶対に倒せなくなる。  ここで対処を誤ったら終わりだ。  だが、同時に、ここはチャンスでもあった。  ヨルネスとてMPはもうほぼ底を尽きかけている。  ここさえ凌げば、もう〖グラビディメンション〗は撃てなくなる上に、消耗の激しい〖天使の鏡〗の維持もできなくなる。  完全にこの〖グラビディメンション〗に対処できるかどうかが勝敗を分ける。  〖ワームホール〗は間に合わねえ。  座標を指定してゲートを作るのに時間が掛かり過ぎる。  元よりヨルネスに追われている一ヵ所に留まれない状態でゲートを準備するのは無理だった。  〖竜の鏡〗で小さくなったり大きくなったりしても、あの空間の歪みから逃れるのは不可能だ。  一度受けたからこそ断言できる。  存在を消してやり過ごすことはできるが、あのスキルの持続時間をとんでもない消耗を強いられる。  MPを削られまくった今そんな手段を取れば、この後もジリ貧になっちまうだろう。  とはいえ〖グラビディメンション〗からの連撃を受けるよりは遥かにマシなので、他に手がなければそうするしかないのだが……。  〖グラビティ〗を使って急降下しても、とてもじゃないが〖グラビディメンション〗の範囲から逃れられそうにねぇ。  〖アイディアルウェポン〗は対応力が高いが、さすがにこの状況を打破してくれるような装備はない。  避けられないなら〖グラビディメンション〗で拘束されてから、突っ込んでくるヨルネスを返り討ちにする?  無理だ。  体勢的にどう足掻いても圧倒的に不利になる上に、状態異常のマイナス分身体能力で後れを取り、挙げ句の果てにあの石の身体の打たれ強さまである。  魔法スキルで返り討ちにするにも〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗がある。  拘束されてから悪足搔きで放っても確実に対応される。  〖竜の鏡〗でやり過ごすしかねぇか……?  ふと、そのとき……天啓が降りてきた。  いける……この状況、この瞬間に限り、ヨルネスの思惑を崩して大ダメージを与える方法がある。  俺が先に力尽きねぇか、ヨルネスを倒せるかどうかは半々ってところだが、ここまで追い込まれた状態でそれだけ勝算が取れるなら上出来だ。 「グゥォオオオッ!」  俺は〖グラビティ〗を発動して急降下しつつ、捕らえられにくいように側転して軌道をズラし、変則的な動きで回避を試みた。  だが、前回より〖グラビディメンション〗の規模が大きい。  逃れられず、巨大な空間の歪みが俺を捕まえた。  ……恐らく〖魔法規模拡大〗に用いるMPの出力を上げていやがる。  全く同じスキルを連打しても対処されると考え、変化の余地を残しているんだな。  相手に安易に自分のスキルに慣れさせない、上手い使い方だ。  だが、こんなので逃げられるなんて元より期待はしていなかった。  問題はここからだ。  〖グラビディメンション〗の拘束の維持はかなりのMPを消耗する。  そのためヨルネスは無防備に俺へと、最短経路で突っ込んでこざるを得ない。  特にヨルネスは、ここの攻撃を失敗すればもう後がないのだ。  多少不審な点があっても、立ち止まらずに近接攻撃を仕掛けざるを得ない。  さっきと今は、同じようで状況が大きく違う。  ヨルネスにMP的余裕が少ないため、〖詠唱返し〗を警戒する必要がないのだ。  特に消耗の激しい大技こそコピーされちまっても構わない。  飛び込んで来い、ヨルネス。  俺は黒い魔法陣を展開する。  ヨルネスが俺の魔法陣に反応する。  〖レジスト〗か〖ミラーカウンター〗、こちらの出方を見てどちらを発動するか考えているようだ。  俺はギリギリまでヨルネスを引き付ける。  まだだ……ヨルネスが俺への攻撃のため、爪を振り上げるその瞬間まで溜める。  タイミングが重要だ。  刹那の狂いが、勝敗を決する。  〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗。  無効か反射、ほぼ同じようで使用用途が少し異なる。  俺が見るに、〖レジスト〗の利点は発動の速さだ。  迫って来る魔法を近距離で咄嗟に打ち消すことができる。  ただ、あまり規模の大きい魔法を消しきれるようには見えない。  たとえばミーアの〖エクリプス〗のようなスキルは、消しても消してもそれが追い付くとはとても思えない。  対して〖ミラーカウンター〗の利点は即効性に若干欠ける分数秒程度前以て発動できる点と、指向性を持ったスキルにめっぽう強い点だ。  〖レジスト〗と違い、大規模なスキルにも対応しているといえる。  全体を打ち消さなくても自分の身体だけ守ればいい。  だが、〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗による魔法対策には弱点がある。  規模が大きく、指向性を持たないスキルに対して効果が薄い点だ。 『〖ヘルゲート〗ォ!』  黒い魔法陣が広がり、俺を中心に周囲一帯が黒炎に包まれる。  突然展開された地獄の業火が、俺とヨルネスを同時に包み込む。 【通常スキル〖ヘルゲート〗】 【空間魔法の一種。今は亡き魔界の一部を呼び出し、悪魔の業火で敵を焼き払う。】 【悪魔の業火は術者には届かない。】 【最大規模はスキルLvに大きく依存する。】 【威力は高いが、相応の対価を要する。】  この規模の魔法であれば、俺が動けなくても関係ない。  使用者に炎のダメージは通らないため、自分ごと巻き込んで扱えるのが幸いした。  〖ヘルゲート〗は発動が遅い上にHPとMP双方を消耗するためコストとリスクの高すぎるスキルではあるが、ヨルネスの方が突っ込んでこざるを得ない状態であれば強烈なカウンターとして機能する。  指向性を持たず、その空間丸ごとを攻撃手段とする〖ヘルゲート〗を前に、一方向からの魔法攻撃を遮る〖ミラーカウンター〗は無意味だ。  〖レジスト〗を使って目前の黒炎を消したところで、別の方面から黒炎が襲い来る。 「グゥッ……!」  ヨルネスは身を引こうとしたが、既に俺に対して爪を振るっている。  もう止まれない。  俺は減速した爪の一撃を敢えて胸部で受け止め、すかさずその前脚へと爪と牙を立てた。 『捕まえたぞ……!』  黒い炎が、巨大な骸の巨人の群れを象り、ヨルネスを囲んでいく。 << 前へ目次
695 695.〖グラビディメンション〗  ヨルネスが〖ルイン〗を放つ頻度が下がって来た。  やはり、〖天使の鏡〗を維持しながら〖ルイン〗を放ち続けるのはさすがにMP消費が痛いのだろう。  俺がスライムとの戦いで既に〖ルイン〗の対処に慣れていたこともあり、我武者羅に撃っても仕方ないと判断したのかもしれねぇ。  何にせよ、ヨルネスが残MPを意識せざるを得ない状況になってきているのは間違いない。  ヨルネスの石の身体は打たれ強いため、ダメージを与えても反撃を避けることが難しい。  おまけに上手くやったとしても〖エンパス〗でお返しされてこちらが消耗することになる。  ならば、逃げて〖天使の鏡〗でMPを消費させた方が圧倒的に分があるはずだ。  幸いさっきのベビードラゴン作戦のお陰で距離を稼ぐことができた。  〖ルイン〗を撃ってくる頻度も下がりつつある。  もう少し距離が縮まるまでは逃げに徹して、また追い付かれそうになったらスキルを駆使して死ぬ気でやり過ごしてやる!  汚い戦い方だが、〖天使の鏡〗の変身能力にまともに付き合うのは無理だ。  ……しかし、あまりに〖ルイン〗を撃ってこないのが気掛かりだった。  MP消費が痛いのはわかるが、ここまで絞るものだろうか?  〖魔法規模拡大〗で強化した〖ルイン〗を進行方向に撃たれただけで真っ直ぐ逃げられなくなるため、そうした妨害を絶対に挟んでくるはずだと対処法を必死に考えていたのだが。  何か、他のスキルを仕掛けてくるつもりか?  俺が背後を確認したとき、ヨルネスの身体を中心に、黒い魔法陣が展開されるのが見えた。  アレは……重力系!? 『〖グラビディメンション〗』  その瞬間、辺り一帯に黒い光が走り、空間が捻じれた。  そうとしか表現のしようがない現象が起きた。  範囲も展開も速すぎる。  俺の身体……胴体が空間の捻じれに挟まれ、激痛が走る。  脱出を試みるが、身体は僅かにしか前進しない。  体表が剥がされ、絞られるように体液が流れる。  び、びくともしねぇ……!  つーより、筋肉と〖自己再生〗で押し返さないと、半身引きちぎられちまいそうな勢いだ。  何だこの馬鹿げた規模と威力は。 【通常スキル〖グラビディメンション〗】 【重力の塊で空間そのものを歪める。】 【莫大な魔力を消耗するが、空間の捻じれそのものを武器とするため、攻撃面においても防御面においても絶大な威力を誇る。】  スキル説明を見ただけじゃピンと来なかったが、リリクシーラの〖グラビリオン〗の更に上位版みてぇだ。  威力も拘束力も高い上に、とんでもなく速く、そして範囲が全く読めない。  恐らく〖魔法規模拡大〗も使っていやがるんだろうが……。  しかし、このスキルのMP消費が少ないわけがない。  今まで使ってこなかったのに、なんで残りMPが厳しくなってきて〖ルイン〗でさえ絞っているはずのこのタイミングで使って来やがったんだ?  動けない俺へと、ヨルネスがドラゴンを爪を振りかぶって迫ってくる。  ようやく〖グラビディメンション〗の拘束が緩んだが、回避が間に合うわけもなかった。  俺はほぼ無防備にヨルネスの攻撃を受ける形になった。  ヨルネスの爪が、俺の身体を引き裂く。 「グゥッ……!」  一撃が馬鹿みたいに重い……!  アポカリプスの馬鹿みたいに高い攻撃力を、自分の身体でまともに受けることになった。  体勢が立て直せねぇ!  〖自己再生〗だけじゃ間に合わねぇ!  MP管理なんていってる余裕はもはやない。  とにかく今は、一瞬一瞬、次の刹那を生き残ることに全力を費やすしかない。  俺はとにかく背後に引きながら、〖自己再生〗と〖ハイレスト〗を併用しつつ、翼と前脚を防御に用いるべく身体を丸めた。  容赦ない二撃目の爪が、俺の翼と前脚を貫通する。  俺は敢えて抵抗せず、その衝撃に殴り飛ばされて距離を取り、勢いに乗って翼を広げた。  大急ぎで〖ハイレスト〗と〖自己再生〗を駆使して回復し、〖竜の鏡〗で身体の損壊を誤魔化して身体能力を維持する。  ギリギリで立て直せたが、あんなスキルぶっ放してくるんじゃ話が変わってくる。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 〖イルシア〗 種族:アポカリプス 状態:毒(小)、呪い(大)、麻痺(小) Lv :105/175 HP :4453/10386 MP :1662/8405 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  今の回復で一気にMPを持っていかれちまった。  全回復した上で急いで肉体を修復して飛行速度を保つには、どうしてもMPが千以上は必要になって来る。  一瞬気を緩めればあのままHPをゼロにされてたんだ。  MPを節約しつつ、なんて言っていられる余裕はなかった。  だが、あんな凶悪なスキルでの拘束の維持……ヨルネスだって膨大なMPを支払ったはずだ。  〖天使の鏡〗の維持だって、いくらなんでもそろそろ厳しくなってきたはずだ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 〖ヨルネス・リーアルム〗 種族:アバドン 状態:スピリット、天使の鏡 Lv :150/150(MAX) HP :9433/9802 MP :1321/6253 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  やっぱりヨルネスももはやMPが底を尽きかけている。  いや、むしろヨルネスの消耗の方が大きかったのかもしれねぇ。  〖天使の鏡〗の維持が怪しくなって、このままでは殺しきれないとわかって焦って〖グラビディメンション〗を放っただけだ。  今の〖グラビディメンション〗は、ヨルネスの最後の足掻きのようなもの……いや、本当にそうだろうか?  恐らくヨルネスは、まだ〖グラビディメンション〗をもう一発撃てるくらいのMPは充分残しているはずだ。  対して俺は〖グラビディメンション〗を受けた時点でヨルネスから連撃をもらうことがほぼ確定するので、また一方的に攻撃を受け続けながら回復を続けることになる。  回復に集中して極力HP最大状態を保たなければヨルネスの連撃を受けきれないため……〖グラビディメンション〗を安全にやり過ごすためには、回復スキルの併用と連打を迫られる。  先程と同じ受け方をすれば、恐らく俺の今の残存MPは全て消し飛ぶ。  そうなればギリギリで生きて逃れたとしてもまともに回復できなくなった上で、アバドン状態の完全物理無効ヨルネスを相手にすることになる。  もしかしてこの状態……既に詰んでいるのか?  ヨルネスはなぜか凶悪なスキルである〖グラビディメンション〗をここまで見せてこなかった。  発動前の隙が大きいようなので一方的に攻撃できる隙……たとえば俺が逃げに徹しているときにしか安全に発動を通せないのだろうが、それでも〖天使の鏡〗を戦闘初期から発動しておけばもっと使用できるタイミングはあったはずだ。  その理由を俺は疑問思っていたが、今ようやくわかった。  最初から〖グラビディメンション〗の威力を見ていれば、俺は徹底して対〖グラビディメンション〗に特化した戦い方をしていただろう。  ヨルネスからしてもMPの激しいスキル。  何度も見せて、対策を練られることを嫌ったのだ。  俺のスキルと戦い方を探って、〖グラビディメンション〗の拘束から逃れられる術を持っていないかを確認していた面もあったのだろうが。  加えてヨルネスはカウンター特化であり、相手依存のスキルが多く、対象を殺しきるのが難しいはずだ。  決定打になり得る〖グラビディメンション〗はトドメのために終盤まで伏せておきたかったのかもしれない。  〖因果の鏡〗で俺の出方を窺って、〖天使の鏡〗で同ステータスでの力押しに出てきて、俺のMPが減るのを待っていた。  そうして〖グラビディメンション〗二発で仕留められるだけ相手が疲弊する状況になるのを待っていたのだ。  ここまでヨルネスの動きに上手く対応できていると思っていたが違った。  ヨルネスは最初から、自身の戦法に付き合わせてずるずると俺のMPを消耗させること自体が目的だったのだ。  ということは……間髪入れずに、もう一発来るはずだ。  ヨルネスからして見れば、間隔を開けて俺に猶予を与える理由がない。  本当に〖グラビディメンション〗二発で俺を倒しきるのが目的であれば考える時間は与えたくないはずだし、それに何より先のヨルネスの猛攻から回復するために距離を取った俺は、絶好の〖グラビディメンション〗のカモだからだ。  急いで攻撃に出て〖グラビディメンション〗の初動を潰すか?  いや、打たれ強い石の身体を持つヨルネスに対してそれは得策ではない。  どうせ〖次元斬〗程度の攻撃では止まらない。  ここから距離を詰め直してスキル発動の妨害が間に合うとも到底思えない。  大急ぎで距離を取るか?  状態異常の分、動きは向こうの方が速い。  どれだけ策を講じても、あの大規模な〖グラビディメンション〗の範囲から逃れられるとは思えない。  何か、何か……打開策があるはずだ。  ここが俺もヨルネスも正念場だ。  スキルを一発凌げるか否か、そこで勝敗が決まっちまう。 『〖グラビディメンション〗』  ヨルネスの言葉と共に、俺の周囲の空間が歪み始めた。 【他作品情報】  新作の転生重騎士がなんと、総合年間ランキング一位を獲得いたしました!
694.某少女与木偶之勇者(side:米莉亚)转自轻国 by charx27 「恶魔的爪牙想要进入神圣的利德姆宫殿,绝对不可能!」  让人印象深刻的左右伸开的胡须,看起来很阴险、有着黑眼圈的眼睛。  利德姆宫殿中,德贡司祭率领着一群僧兵挡在我们面前。  虽然对他们简单说明了至今为止的经纬,但完全没得谈。  天启乃是邪恶的邪竜;支持优尔涅丝大人;不能让魔物进宫殿。这就是他们的主张。 「……德贡司祭,说起来你应该关在地牢中才对,为什么在外面?」  梅尔缇亚表情抽搐着,如此问道。  德贡司祭以『若是圣都之民,自当欢欣雀跃地以其灵魂将身体献给优尔涅丝大人』这种思想,想在宫殿内掀起暴动,遭到部下告密,被关入了地牢——理应如此。  然而在避难所主要人群前往攻击优尔涅丝的期间,让他不知什么时候跑了出来。 「因为民众说着『启示录之竜现身了,希望能引导我们』,跑来拜托我了! 大家终于明白了,圣女大人不可能无意义地虐杀民众」  这让我以手抚额。 「我承认,当时我有些动摇,犯下了错误! 优尔涅丝大人并不是为了救济人类,将人转生为天使! 她是为了打倒启示录之竜而募集战士!」  ……也有其他人说过类似的话,莫非圣神教的人都是同样的脑回路么。  随着时间经过,随着异形魔物们的杀虐,还能战斗的人不断减少。  而为了攻击优尔涅丝的作战,在此据点诱导避难民、指挥的人大半外出了。  在这种情况下天启出现,人们都会感到不安,并想找个依托吧。  虽说依托对象是德贡司祭还是有点……真让人想说饶了我吧。 「不仅对优尔涅司大人箭矢相加,还要带回恶魔的爪牙,真是愚不可及! 妄言也要有个限度!」  我能感觉到自己的表情抽动。  拼命咽下『可不想被你这么说』这句话。  然而事到如今,对德贡司祭的想法产生了共鸣的教徒确实不少,这也是事实。  正因如此,才会发展成专门把入狱的德贡司祭放出来的事态。  这一连的事件,就是如此冲击圣神教的教徒、让他们想要设法接受。 「我倒要反问! 米莉亚殿啊! 为何你面对这种可怖身姿的东西,毫无疑问,还平然将其带了回来!」  德贡司祭指向树妖桑。  树妖桑在左顾右盼后,又转身看向身后确认。  然后又客气地对抬头对我说: 『……我的身姿就那么可怖吗?』 「那个……」  不如说,可能正因为外观实在太没压迫力了,才让德贡司祭如此嚣张跋扈。  我虽然是这么想的,但没有说出来。  我知道德贡司祭是自以为是非常偏激的人。  说不定以他的视点看来,树妖桑看起来就像什么恐怖的恶魔吧。 「大家也都是同样的想法吗?」  跟他说话也解决不了问题。  我对德贡司祭背后的人群问道。 「德、德贡司祭的想法符合情理。反过来问,除此之外还有什么能说明现在的状况吗?」  回答的僧兵露出了一副迷茫、欲泣的眼神。  就像是在请求说『如果能说明的话,请快说明吧』一样。  想必,他们都在这圣都利德姆的大灾祸面前,寻找能让自己接受并安心的东西吧。  在最后抓住的救命稻草就是圣神教的教典,这确实也是无可指责的。  然而我也想知道答案。  要说快被不安和恐怖压垮了这点,我和梅尔缇亚桑也是同样的。 「现在就由我们来处决这魔物! 米莉亚殿,汝等要是不帮忙,就把你们也看作圣神教的敌人!」  德贡司祭一派对着树妖桑举起了武器。  树妖桑战战兢兢地环顾周围。 『亚、亚萝殿,该怎么办啊? ……啊呀,亚萝殿不在』  ……看、看来果然还是该让亚萝桑也跟过来的。 「该死的邪恶魔物! 吃我魔法一击吧!」  德贡司祭端起大杖。 『呣、呣咕……!』  树妖桑吃惊地颤动身体。 「哈啊啊啊、〖火焰法球〗……!」 「等、等一下德贡司祭!」  我想着应该阻止而上前,就在这个瞬间。  宫殿里突然出现穿破周围墙壁、天花板的巨大树木。  因为只能看到一小部分,难以估计其全长。  被这大树弹飞的德贡司祭背部撞上了墙壁。 「哦噗! 该、该死的魔物,显出真身了啊!」  紧接着响起了巨大的爆炸声。  在树妖桑的另一边,出现了虹色的光。  被光吞噬的宫殿墙壁碎散,化为齑粉消灭不见了。  这是优尔涅丝的魔法……〖卢因〗。  伊露希亚桑和优尔涅丝似乎在外头展开了相当华丽的战斗。  恐怕是流弹飞了过来吧。  树妖桑身后,能看到地面被削成了巨大的半球状。  要是被卷入其中的话,毫无疑问,宫殿也不可能平安无事。  想必是树妖桑刚才寻找亚萝桑环顾四周之时,看到了窗外的〖卢因〗之光吧。 「为、为了保护我们,故意变回了原本的姿态吗……? 明明我们要讨伐你来着」  德贡司祭像是感到了困惑一般,如此嘀咕道。  大树被光芒包裹,接着原本的树妖桑又出现了。  背后一片有着赤红的焦痕。  树妖桑当场倒了下来。 「树妖桑,这伤……!」 『虽说只是余波,但还真相当可以啊……大意了。不过这种程度的伤害,是能立刻治愈的,不用担心』  就算是德贡司,在弱化的树妖桑前也没法行动了。  只是茫然呆立而已。  然后,追随他的僧兵一人接一人的放开了自己拿着的武器,任其掉落在了地上。 「德贡……果然我还是没法认为这魔物是邪恶的……攻击这个圣都的,也明显是优尔涅丝大人」  僧兵的话语让德贡司祭也无力地放下了手中的大杖。 「若是如此,你让我……我该信什么啊……?」  德贡司祭以孱弱到几不可闻的声音说道。  自此,再也没有反对树妖桑进入宫殿之内的声音了。
694 694.とある少女と木偶の勇者(side:ミリア) 「悪魔の手先を神聖なるリドム宮殿に入れるなど、絶対にならん!」  左右にぴょんと跳ねた印象的な口髭に、陰険そうな隈のある目許。  リドム宮殿にて、ドゴン司祭が数名の僧兵達を率いて現れて私達の前に立ち憚った。  彼らにはこれまでの簡単な経緯を説明したのだが、取り付く島もなかった。  アポカリプスは悪しき邪竜である、ヨルネス様を支持する、魔物は宮殿に入れないというのが彼らの主張である。 「……ドゴン司祭、そもそも貴方は地下牢に入れておいたはずだが。なぜ外へ?」  メルティアさんが引き攣った顔で尋ねる。  ドゴン司祭は『聖都の民ならば喜んでその魂をヨルネス様に身体を捧げるべき』という思想の許に宮殿内で暴動を起こそうとして、部下に密告されて地下牢に入れられていたはずなのだ。  それが避難所の主要な人間がヨルネスへの攻撃に出向いていた間に、いつの間にやら外に出てしまっている。 「黙示録の竜が現れたから我々を導いて欲しいと、民らが私を頼って来たからである! 聖女様が無意味に民を虐殺しているわけではなかったと、皆がようやくわかってくれたのだ」  私は額を押さえた。 「私も気が動転して、過ちを犯したのは認めよう! ヨルネス様は人類の救済のために天使へ転生させていたわけではない! 黙示録の竜を倒すための戦士を募っていたのだ!」  ……似たようなことを口にしていた人が他にもいたが、もしかして聖神教の人達は皆同じことを考えているのだろうか。  日が経つにつれて、異形の魔物達に殺され、戦える人が段々と減ってきていた。  そしてヨルネスへの攻撃作戦のために、ここの拠点の避難民を誘導・指揮していた人達の大半が出払っていた。  そんな中でアポカリプスが現れたものだから、不安になって、皆誰かに縋りたかったのだろう。  その相手がドゴン司祭だったのは、私としては勘弁してほしいところなのだが。 「ヨルネス様に矢を突き立てた上に、悪魔の手下を連れてくるとは愚かしい! 妄言も程々にするのだな!」  自分の顔を引き攣るのを感じていた。  あなたに言われたくはないのですが、という言葉を私は必死に呑み込む。  しかし、今となってはドゴン司祭の考えに共感している教徒が多いのも事実なのだろう。  だからこそ、一度裏切られて投獄されたドゴン司祭が、わざわざ牢の中から出されるという事態になっているのだから。  それだけ此度の一連の事件は、聖神教の教徒達にとって受け入れがたいことだったのだ。 「逆に問いたい! ミリア殿よ! なぜあなた方は、そのような悍ましい姿を何の疑いもなくここまで平然と連れて来られたのか!」  ドゴン司祭がトレントさんを指差す。  トレントさんは左右を見た後、そうっと後ろを確認する。  それから遠慮がちに私へと顔を上げた。 『……私の姿って、そんなに悍ましいですかな?』 「えっと……」  むしろ外見に迫力がなかったことがドゴン司祭が付け上がっている要因の一つなのではなかろうか。  私はそう思ったが、敢えて口にはしないことにした。  ドゴン司祭が思い込みの激しい人なのはわかっている。  もしかしたら彼の目には、トレントさんが何か恐ろしい悪魔のようなものに見えているのかもしれない。 「皆さんも、同じ考えなんですか?」  彼と話をしても埒が明かない。  私はドゴン司祭の背後に並ぶ人達へと声を掛けた。 「ド、ドゴン司祭の考えには筋が通っています。逆にそれ以外に、現在の状況に説明のつく話がありますか?」  答えた僧兵は、迷いのある、泣きそうな目をしていた。  説明できるのならしてほしいと、そう懇願しているようでもあった。  きっと彼らは、聖都リドムの大災禍を前に、自分を納得と安心させてくれるものを探しているのだ。  その末に縋ったものが聖神教の教典だったとして、それはとても責めることはできない。  ただ、その答えは私だって知りたい。  不安と恐怖で押し潰されそうなのは、私やメルティアさんも同じなのだ。 「その魔物は、今より私達が成敗する! ミリア殿らよ、手を貸さぬというのならば、貴殿らも聖神教の敵であると見做すぞ!」  ドゴン司祭一派がトレントさんへと武器を構える。  トレントさんは、オロオロと周囲を見回していた。 『ア、アロ殿、どうしますかな? ……おっと、アロ殿はいないのでした』  ……や、やっぱり、アロさんにも付いてきてもらった方がよかったかもしれない。 「邪悪な魔物め! 私の魔法の一撃を受けるがよい!」  ドゴン司祭が大杖を構える。 『む、むぐっ……!』  トレントさんがびくりと身体を震わせた。 「はぁぁ、〖フィアスフィア〗……!」 「ま、待ってくださいドゴン司祭!」  私が止めるべく前に出た、その瞬間だった。  突然周囲の壁と天井を突き破り、宮殿内に巨大な大樹が現れた。  ごく一部しか姿が見えないため、全長は計り知れない。  その大樹に跳ね飛ばされたドゴン司祭が、壁に背を打ち付ける。 「おぶっ! ま、魔物め、真の姿を現したな!」  直後、大きな爆音が鳴った。  トレントさんの向こう側に、虹色の光が見える。  光に呑まれた宮殿の壁が砕け散り、粉になって消滅していく。  これはヨルネスの魔法……〖ルイン〗だ。  外ではイルシアさんとヨルネスは相当派手に戦っているようだった。  恐らく、その流れ弾が飛んできたのだ。  トレントさんの奥に、地面が巨大な半球状に削り取られているのが見えた。  巻き込まれていれば、ほぼ間違いなくこの宮殿も無事では済まなかったはずだ。  トレントさんは、アロさんを捜してさっき周囲を見回したときに、窓の外に〖ルイン〗の光が見えたのだろう。 「わ、わざわざ私達の盾になるために、元の姿に戻ったというのか……? 私達は、お前を討伐しようとしていたというのに」  ドゴン司祭が困惑したようにそう零す。  大樹が光に包まれ、また元のトレントさんが現れた。  背中の周囲が、真っ赤に焼け焦げている。  トレントさんがその場に倒れた。 「トレントさん、その怪我……!」 『さすがに余波だけとはいえ、なかなかですな……。油断しておりました。しかし、この程度のダメージ、すぐに治癒できますのでご心配なく』  さすがのドゴン司祭も、弱ったトレントさんを前に動けずにいるようだった。  ただ呆然とその場に立ち尽くしている。  やがて彼についていた僧兵が、一人一人、自分の持っている武器を床へと落とした。 「ドゴン様……やはり私には、その魔物が悪しき者だとは……。この聖都を攻撃しているのも、明らかにヨルネス様です」  僧兵の言葉に、ドゴン司祭も力なく手にした大杖を下げる。 「だとしたら、私は……私は、何を信じればいいというのだ……?」  ドゴン司祭が弱々しい、消え入るような声でそう口にした。  そこからは、トレントさんが宮殿内にいることを咎める声は出なくなった。 【他作品情報】  『暴食妃の剣』コミック第四巻、九月二十五日に発売いたします!
693 693.ジリ貧 『搦手のデパートみてぇな奴め! 何が天使だ!』  背後から飛来してくるヨルネスを俺は尻目に確認する。  さっきの急転換から再加速は間に合わない。  距離はどんどん狭まっていく。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 〖ヨルネス・リーアルム〗 種族:アバドン 状態:スピリット、天使の鏡 Lv :150/150(MAX) HP :7501/9802 MP :3752/6253 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐  あれだけやってまだ折り返し地点にさえ遠く到達してねぇのは悲劇という他ないが、それでもMPは着実と減ってきてはいる……。  クソ、〖天使の鏡〗さえなければあのまま削り切ることができそうだったのに!  せいぜい削れたのは四割程度……。  このまま持久戦で〖天使の鏡〗による消耗を誘うのはさすがに厳しいか?  だが、俺が苦しいのと同様に、ヨルネスも俺を倒しきるのにMPが持つかどうかは瀬戸際のはずだ。  あの四千近いMPがなくなるまで逃げ続けるのは不可能でも、二千か千でも削ることに成功すれば、ヨルネスからしてみれば一気に苦しい状況に陥る。  今のMPが、ヨルネスが残MPを気にせずにスキルを連打できる限界のラインではあるはずだ。  ここからもう一歩下がれば、互いに相手のMPを削り切れる形を探る、詰め将棋状態になる。  粘れるギリギリまで逃げに徹してみるしかねぇか。  ヨルネスのMPが減れば〖天使の鏡〗の維持はできなくなるし、〖詠唱返し〗で魔法スキルをコピーしても満足に扱うことができなくなる。  こっちもまだ見せてねぇスキルはいくらでもある。  全力で逃げ切って、奴のMPを消耗させてやる。  俺は身体を翻し、迫りくるヨルネスへと向き直った。  俺は〖竜の鏡〗で前脚の形を変える。 『〖アイディアルウェポン〗!』  手の形に変化した俺の前脚へと光が宿る。  〖アイディアルウェポン〗……自身の望む武器を造り出すスキルだ。 【通常スキル〖アイディアルウェポン〗】 【自身の理想の武器を夢の世界より持ち出すことができる魔法スキル。】 【性能は魔法力とスキルレベルの高さに大きく依存する。】 【使用中は持続的に魔力を消耗する。】 【術者の手元から離れたとき、この武器は消滅する。】  俺が望むのは、大盾だ。  俺の巨体を丸々守れるような、そんな大きな盾が欲しい。  手の先の光が赤く、色濃く染まり、それは質量を伴う物質へと変化する。 【〖黙示録の大盾〗:価値L+(伝説級)】 【〖防御力:5000〗】 【世界を終わらせる竜の体表と牙を用いて作られた大盾。】 【その悪しき魂が封じられており、攻撃した者は地獄の炎に包まれる。】  赤黒い、巨大な盾が俺の手許に現れた。  盾には禍々しい悪魔の顔や、髑髏が彫られている。  アポカリプスに進化してから初めて使うが、とんでもねぇ強さの大盾だ。 『いくぞ、ヨルネス!』  俺は大盾を突き出しながらヨルネスへと迫る。  大盾でヨルネスの攻撃を防ぎながらぶん殴り、死角から更に爪で追撃する……そうヨルネスに思わせるのが、俺の作戦の第一段階であった。  俺は大盾に身を隠すように身体を縮め……そのまま〖竜の鏡〗を用いて、更に身体を小さくした。  ベビードラゴンの姿へと変化する。  〖アイディアルウェポン〗に意味がないのはわかっている。  ヨルネスの〖レジスト〗で掻き消されるだけだし、それで対処されればこっちのMP消耗の方が遥かに高い。  わざわざ使ったのは、俺の意図を直前まで誤魔化すために他ならない。  それに加えて、足場作りのためである。  俺は〖黙示録の大盾〗の背後へと足を掛けると、そのまま勢いよく転がった。 『〖レジスト〗』  ヨルネスの魔法で、俺の〖アイディアルウェポン〗が無効化され、〖黙示録の大盾〗が掻き消される。  俺はベビードラゴンの姿のまま翼を広げ、〖転がる〗の加速を乗せてヨルネスの前脚の下を抜けた。  自分の姿だ。  死角は自分が一番よくわかっている。  ヨルネスは反応できなかった。  完全に、一瞬遅れて爪を振るっていた。  してやったぜ……!  〖竜の鏡〗で体格を変化させても、素早さは変化しない。  〖アイディアルウェポン〗で意図を誤魔化して姿を隠し、不意打ちで〖竜の鏡〗で小さくなって〖転がる〗で最高速度を出して死角を駆け抜ける。  危うい賭けだったが、見事に引っ掛けることができた。  〖竜の鏡〗を〖自己再生〗の補助以外で見せたのは今のが初めてだし、〖アイディアルウェポン〗も〖転がる〗もヨルネスにとっては初見だ。  まず反応できないだろうと思っていた。  絶対に二度目は通らないだろうが、こうやってヨルネスの意表を突いていくしかない。  ヨルネスのカウンターを潰せる方法を見つけたから安定して消耗させられ続けるはずだ、というのは大間違いだった。  ヨルネスの手札は多い。  まだ隠し玉を持っていやがるはずだ。  だが、それは俺も同じことだ。  こっちだって、まだまだ見せていない手札はある。  伝説の聖女相手に、安定した消耗戦なんざ通じるわけがなかったんだ。  一手一手が全力勝負だ。  心で負けて温い手を出せば、一気に追い込まれる。 「グゥオオオオオオオオオオオオッ!」  ヨルネスの咆哮が響く。  振り向かずとも、風の動きでヨルネスがこちらを振り返って加速し始めたのがわかった。  俺は〖竜の鏡〗を解除して元の姿へと戻る。  鱗もステータスもないベビードラゴンの姿で〖ルイン〗をぶっ放されたら大事だ。  掠っただけで致命傷になる。 『追って来やがれ、ヨルネス!』  ジリ貧だが、俺が苦しいのと同様にヨルネスも苦しいはずだ。  〖天使の鏡〗状態のヨルネス相手に、無策で正面対決に出るのは分が悪すぎる。  とにかく今は、焦らして焦らして、ヨルネスの消耗と隙を待つ……! << 前へ目次
692 692.天使の鏡  ヨルネスのカウンター戦法は崩せる。  仮にステータスの近い同ランク帯であれば対処不可能だったかもしれねぇが、素早さの差でゴリ押せそうだ。  攻撃力だけでなく魔法力でも勝っているため、一発一発でしっかりダメージが通っているのも大きい。  多少〖ルイン〗の被弾覚悟で動いても、削り合いで押し勝つことができる。  手に入れてから初めて〖ワームホール〗さんが役に立った。  オリジンマター戦でいいようにやられた経験が活きたな。  もっともヨルネスくらいピーキーな相手じゃねぇと、あんまし実用性はなさそうではあるが……。  土煙の中、ヨルネスの双眸が怪しく輝くのが見えた。  その瞬間、身体が内部から引き裂かれるような激痛が走った。  内側からの衝撃に押し出されるように口から体液が溢れ出る。  ヨルネスのダメージ共有スキル、〖エンパス〗だ……!  カウンター掻い潜ってダメージを与えても、結局この不可避の攻撃でお返ししてくるのが性質が悪すぎる。  ここで〖ルイン〗が飛んでくると対応が苦しい。  一旦背後へと退き、〖自己再生〗と〖竜の鏡〗で外傷を治癒した。  立て続けに〖エンパス〗を叩き込まれる危険性も考えて、HPの回復は四割程度に抑えておく。  思ったより重いダメージが飛んできた。  ダメージを与えても与えた分だけ返してくる。  本当にステータスやスキル構成次第では簡単に詰みかねねぇ相手だ。  ただ、俺にとって重いダメージだったということは、ヨルネスにもそれだけダメージが通っているということだ。  タフさなら俺の方に分がある。  このまま行けば、順当にMPを削り切れる!  〖エンパス〗の仕様上、自分よりダメージを受けている相手にはダメージを与えられない。  実際に何度もくらって、あのスキルの性質が概ね見えてきた。  恐らく『最大HPから現在のHPを引いた値』を『既に受けているダメージ』として扱い、自分が相手よりもダメージを負っていた場合にその差分のダメージを与えるスキルなのだ。  俺のHPを好き放題に減らすことはできても、最大HPでヨルネスに勝っている俺をあのスキルで倒しきるような真似は絶対にできねぇはずだ。  馬鹿みたいに厄介なスキルではあるが、性質はこれで理解できたはずだ。  ヨルネスには速さがないため、相手の戦法を理解した上でそれを対策して潰せば安定して有利を取ることができる。  アポカリプスには充分それができる。  相手の魔法攻撃を避けつつ、カウンタースキルが追い付かないようにタイミングをズラした同時攻撃でダメージを稼いで消耗を強いる。  HP差が開けば〖エンパス〗でダメージを負って回復を迫られるため、対策に回復のタイミングも考えて俺とヨルネスのHPを常に管理し続ける。  簡単なことじゃねぇのは確かだが、決して不可能なことではない。  絶対に倒し切ってやる……! 『……あ?』  土煙が晴れたとき……そこには、アポカリプスを模した大きな石像があった。  アバドンと同じく青白い石材が用いられている。  瞳だけは怪しく、赤い光を放っていた。  ただ姿を変えたってだけのわけがない。  これは……。 【特性スキル〖天使の鏡〗】 【視認した相手の姿と、その攻撃力と素早さを得るスキル。】 【変動するステータスに応じて消耗するMPが決定する。】 【また、姿を変化させるスキルの消費MPを大幅に引き下げることができる。】  対象と同じ攻撃力と素早さになるスキル!?  アバドンは他のスキルも散々インチキ臭いものばかりだったが、これはその中でも頭一つ抜けたとんでもスキルだった。  アバドンの唯一の弱点が、攻撃力と素早さの低さなのだ。  そこが補われたら話が変わっちまう。  ただでさえ魔法攻撃も強いのに、こうなっちまったら手が付けられるわけがねぇ。  消費MPが変動するとはいえ、相手のレベルやランク関係なくステータスを奪うのはヤバ過ぎる。  ゴリゴリにカウンター特化スキルに恵まれてやがった癖に、それが効かなかったときの保険まで持ってやがるのか。  ここまで厄介な奴は本当に初めて見た。 「グゥオオオオオオオオオオオオオオッ!」  ヨルネスが吠える。  石造り翼が、まるで生き物そのもののように羽ばたいて宙へ浮かび上がった。  しょ、消耗MPはさすがに激しいはずだ!  距離を取って持久戦を強いれば、すぐにバテてくれる……というより、そこに賭けるしかねぇ!  俺は身体を翻し、ヨルネスとは反対方向へ跳んだ。 「グゥオオオオオオッ!」  一直線にヨルネスが飛んで追ってくる。  やはり消耗MPは激しいらしく、動き方に迷いがねぇ。  これまでとは違い、速攻で俺を仕留めてやるという意識が見えた。  〖鈍重な身体〗の特性スキルがあったのでアポカリプスの間も遅くなってくれるんじゃねぇかと期待したのだが、どうやら今は速度半減になってくれていないようだった。  元々ベルゼバブやワールドトレントなど、明らかに機動力を欠いた外観の魔物が持っているスキルだった。  あのアバドン本来の姿でなければ〖鈍重な身体〗の素早さ半減ペナルティは発動しないのだろう。  そして最悪なことに……今のヨルネスは、俺よりも速かった。  毒と呪い、麻痺の状態異常の差だった。  アバドンの姿を相手取っていたときにはステータスの開きがあまりにも大きかったため、状態異常の動きにくさなど大した問題ではなかった。  しかし、同ステータス対決に持ち込まれた以上、この差は誤魔化しようがなかった。  あの〖ドッペルペイン〗と〖エンパス〗のクソコンボは、持久戦にもつれ込ませて毒で急かしてカウンターで仕留めるためだけのものではなかったのだ。  戦法を切り替えた際に、〖天使の鏡〗でステータスをコピーして、状態異常の差で有利を取る狙いもあったのだ。  〖自己再生〗を過剰に用いてどうにか状態異常を軽減こそしているが、すぐには完治できそうにない。  どんどんヨルネスが距離を詰めて来やがる。  考えろ、俺!  激しいMP消耗以外に欠点がなかったら、最初から〖天使の鏡〗を使って速攻で決めにきていたはずだ。  それをしなかったということは、何か他に弱点があるはずだ。  そのとき、目前に虹色の球体が浮かび上がった。  〖ルイン〗を俺の前方に置いて、逃げ道を塞いで来やがった……!  スライムの奴もやっていた戦法だ。 『〖ミラーカウンター〗!』  俺は即座に自分と〖ルイン〗の間に光の防壁を展開し、そのまま壁を蹴って別方向へと素早く転換した。  背後で虹色の光が爆発する。  上手く爆風に乗るように再加速したが、さすがに追ってくるヨルネスを振り切るには至らなかった。 『くそっ!』  俺は我武者羅にヨルネスへと〖次元爪〗を放つ。  奴の石の体表に傷が入った。  ダメージは通ったようだが、異様に打たれ強い。  まるで動きが止まらなかった。  ただ、今のでわかった。  ヨルネスは〖天使の鏡〗の発動間……〖因果の鏡〗を使えないのだ。  いや、アバドンの姿でないときは〖因果の鏡〗が発動しない、と考えた方が恐らくは正確か。  〖因果の鏡〗の発動時、アバドンの背負っている鏡の表面が光を放っていた。  完全物理反射にはあの鏡が必要なのだろう。  さすがに高速で迫ってきてぶん殴りながら、完全物理反射まで搭載している、なんて馬鹿げた性能ではないようだ。  〖天使の鏡〗の変身はMP消費も激しいはずだ。  おまけに最大の強みである〖因果の鏡〗も捨てることになる。  凶悪なスキルではあるが、ヨルネスが〖天使の鏡〗に頼ったということは、俺が彼女を追い詰めているということの証明だ。  ここさえ凌ぎ切れば、ヨルネスを倒すことができる。  もっとも、完全物理反射がなくなったとはいえ、ヨルネスはHPも防御力も高い。  おまけに打たれ強そうであるため、下手に殴っても即座にぶん殴り返されるのも見えている。  この分の悪い中で、上手く殴り勝っても〖エンパス〗でダメージを押し付けられる。  かといって近接戦を避けても、〖ルイン〗の弾幕と〖ミラーカウンター〗が待っている。  本当に厄介この上ない。 << 前へ目次
691.虫洞连击。 个人润色 成功地给了优尔捏丝伤害。 我明白了那家伙的反击技能的钻入方法。 利用速度的优势来行动,缓急有效地碰撞魔法技能。 只要能做到这一点,之后就可以抑制我方的被伤害,这样就能制止消耗战了。 优尔捏丝的身体里裂开的裂缝不断地堵塞着。 只有“HP自动回复”和“超再生”,以及“自我再生”。 但是,相应的恢复MP也会消耗掉。 用这个调子使劲地削! 『咏唱返还〖诅咒骑士〗!』 刚想着优尔涅丝发出青白色的光,就变成了骑士的姿态。 【咏唱返还】是能在短时间内将看到的魔法技能变为自己的技能。 好像马上就模仿了前面的【诅咒骑士】……。 “不好意思,我对速度很有自信!” 我一边保持着和优尔涅丝的距离,一边绕过对方的周围避开【诅咒骑士】。 稍微逃跑一点的话,就可以不用看后面追过来的【诅咒骑士】的轨道了。 为了追上我,应该没有迂回追的余地。 正在用最短距离的路径追来。 也就是说,它紧跟在后面。 我轻轻地向背后放出了【镰鼬】。 【诅咒骑士】的身体上下分开,发出青白色的光破裂。 【诅咒骑士】的强项是跟踪效果,但没有速度是他的瓶颈。 对于没有速度的文艺界来说可能是一种威胁,但在我看来,这是一种即使被单发使用也能轻松应对的技能。 即使不特意用【咏唱返还】来复制,还是用【卢因】来打比较麻烦。 “这边也让我来设计吧!【虫洞】!” 我的身边和……在优尔涅丝附近,出现了一块黑色的光。 既然知道了文艺复兴的弱点,就要彻底地突破它。 【通常技能【虫洞】】 【可扭曲空间与其他地方连接,无视物理距离的瞬间移动】 【射程范围与技能使用者的全长成比例,最大可移动10倍范围。】 【MP的消耗量很大,在发动前需要一点时间,所以很难使用。】 奥涅伊洛斯的时候学会的技能……是【虫洞】。 到现在为止我觉得直接移动是没有办法使用的技能,但是我从原始物质那里学会了这个技能的使用方法。 通过连接空间,可以先将技能射击,然后一个人进行夹击。 原始物质使用这个从多方向射进了【黑暗射线】。 “【虫洞】是在启动慢的基础上固定坐标,但多少保持一点距离也没有问题。 因为在对优尔涅丝,仅仅从两点开始就可以成为很大的武器。 如果将空间弯曲并调整好时间,【抵抗】和【镜面反射】就不能应对了。 优尔涅丝在那个姿态上缺乏致命的敏捷性,应该是十分有效的。 『【卢因】』 在我的前方,彩虹色的光的球体浮起。 看来目的是把我从〖虫洞〗的坐标中移开。 优尔涅丝用【卢因】与其说是攻击手段,不如说是让对方避开来限制行动。 因此,不管怎么避开,也会让我渐渐陷入不利的境地。 虽然使用方法很好……但是使用方法有很大的弱点。 “我可以选择是否受到那个攻击!” 一道彩虹色的光芒在近处炸开。 我毫不避讳地接下了它。 烧遍全身的疼痛跑了过去。 我咬紧牙关忍耐着。 因为有了思想准备,所以用翅膀遮住身体,在承受之前就开始了“自我再生”的治愈。 我觉得比起从这里退却,还是接受【卢因】比较好。 这次的【卢因】并没有在【魔法规模扩大化】中提升输出和规模。 优尔涅丝如果提升【魔法规模扩张】的威力的话,肯定能吹飞我。 但是,因为优尔涅丝自己还没有和【虫洞】拉开距离,所以如果对着我拙劣地打出大规模的【卢因】的话,就会通过两个【虫洞】把冲击波的暴风吹到自己那里。 所以没能进行【魔法规模扩大】的强化。 优尔涅丝本来的魔法力,充其量是顶多是同等级下的最强水平……。 无强化的【卢因】虽然痛是痛,但是如果能确实地通过发动慢的【虫洞】的话,是便宜的代价。 『『诅咒骑士』!然后是『神圣法球』!』 从我这里放出了诅咒的骑士,之后白色的光的球体继续着。 首先把这两种技能笔直地向文艺界发展。 『【镜面反射】』 巨大的光之壁在优尔涅丝面前展开。 似乎是通过【魔法规模扩大】来强化的。 看来,他是打算将同时发生的攻击阻挡在结界上。 『『诅咒骑士』!』 我把『诅咒骑士』射入了【虫洞】。 这样的话,先前放出的两发魔法技能和现在的『诅咒骑士』应该会同时向优尔涅丝的多个方向命中 『【镜面反射】』 优尔涅丝继续着,在其他方面也出现了光之壁。 为了确实地发挥【虫洞】的作用,和优尔涅丝保持了太多距离了吗。 第二个〖镜面反射〗来得正是时候。 这样的话我所放出的全部技能的轨道全部被遮住了。 “但是,这在意料之中!” 我穿过【虫洞】,在优尔涅丝附近出现。 转移的瞬间,已经准备好的魔法技能探望她了。 “【重力】!” 周围一带被一道圆柱形的黑光所覆盖。 在重力的束缚下,约内斯的身体高度大幅下降。 你的身体已经从已经展开在空中的防御墙上脱离了。 因为是用【重力】拉下来的,所以优尔涅丝的坐标发生了变化,但是『诅咒骑士』有追踪功能。 两个诅咒的骑士向失去高度、失去防墙的优尔涅丝举起了长枪。 『〖抵抗〗』 从优尔涅丝的周围黑色的光消失了。 从重力的拘束中逃出来的优尔涅丝准备回到【镜面反射】的防墙,但是已经晚了。 第一个『诅咒骑士』在优尔涅丝的身上中弹,青白色的光芒四射。 优尔涅丝身体的一端一部分碎裂,身体崩溃。 还没来得及反抗,接着是第二只『诅咒骑士』中弹。 如同被爆炸气浪弹起一般,优尔涅丝降低了高度。 本体受到了损伤,无法维持的【镜面反射】的防墙倒塌了。 “你已经…………【重力子】” 从正上方给漏洞百出的优尔涅丝打了一个黑色的光球。 直接撞上了。 优尔涅丝的大脑袋和翅膀上出现了裂缝,然后一口气掉落下去。 优尔涅丝的身体重重地摔在地上。 周围响起轰鸣声,大地震动。 土烟飞扬。 现在的效果很好。 能行……应该就这样打败她。 优尔涅丝的反击特化技能很麻烦。 但是,归根结底,没有实力的人的行为是不适用的。 我虽然没有特殊的被动技能,但拥有多种适用的技能,应对能力强,容易制定作战计划。 有实力的话,可以强行通过攻击。 在这一点上,在实力上大幅度劣势的依赖技能的优尔涅丝,如果不完全作战胜利封杀我的行动的话,就会持续受到单方面的伤害。 我认为物理完全反击的阿巴顿对攻击力特化的天启是不利的,但是,反而是突破手段多的我可能比较有利。 就这样打倒你……!
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