柠柠柠柠℃ a775176317
∑(´△`)?!
关注数: 23 粉丝数: 44 发帖数: 934 关注贴吧数: 25
169 母親の顔 5月29日 月曜日 7週5日  授業中、静かな廊下を歩く。目的の場所に着くと私はドアをノックして、少し間を置いてから開けた。 「……ああ、君か」  保健の先生が迎えてくれる。つわりの症状が出てから、私はここ保健室の常連になっていた。 「どれ、体の調子はどうだ……少し熱があるか?」  先生の手が額に触れる。少し冷たいマニキュアが塗られた大人の女性の手。 「最近はずっとこんな感じなので……体調はあまり良くはないですけど、慣れました」  心配そうな顔をする先生に私は笑顔で返す。体調が悪いのはつわりが原因なので、どうしようもないのだけれど、先生に言えるはずもない。 「ところで、今からコーヒーブレイクのつもりだったのだが……君も飲むかい?」  先生の入れてくれるコーヒーは美味しい。何度か頂いたことがあるので知っている。  でも、今はーー 「いえ、コーヒーは、その……お気持ちだけで、すみません」  カフェインはお腹の子供に良くないと言われているので控えたかった。 「ふむ……そうか」  保健の先生は奥の棚の上に置いてあるティーセットの準備を始める。電気ケトルには既に湯気が立ち昇っていた。  ーー授業を休んで喫茶なんて少し罪悪感ありますね。でも、このコーヒーとても美味しいです。  以前、ここでコーヒーを呼ばれたときのアリシアの言葉を思い出す。砂糖とミルクを多めに入れてもらったら、アリシアの舌でも美味しいと思えたんだよね。  そんなことをぼんやり考えながら、並べられるカップが立てる音を聴いていた。 「それで、今は何週目なんだい?」 「えっと、もうすぐ8週目です」 「そうか」  何気ない世間話のように交わされたやりとり。違和感は後からやってきて、  ん……? 「え、ええ!? えええええ!?」  い、今のって!? 「騒ぐのは良くないな。今は授業中だぞ? ーーほら、ほうじ茶だ。カフェインは入ってないから安心して」 「あ、ありがとうございます……」  差し出されたコーヒーカップを受け取る。混乱した頭を落ち着けるため、とりあえずカップに口をつけた。 「あつぅーー!?」 「ほら、慌てて飲んだりするから……まずは、落ち着きたまえ」 「うぅ……」  あらためて少しづつお茶を口に含んで嚥下していく。  乾いた口内が潤されて、体の内側が優しく温められる。  時間を掛けて何度かそれを繰り返しているうちに、大分気持ちは落ち着きを取り戻していた。 「……どうして?」 「そんな風に愛おしそうにお腹を撫でていたら、ね? 他にもいろいろ推測できることはあったけど、一番はそれかな」  アリシアのことを考えていたら、無意識にお腹を撫でてしまっていたらしい。  失敗したなぁ…… 「少しだけ話を聞かせて欲しい。相手の男は責任取ってくれるのかい?」 「はい」 「年上? 社会人?」 「いえ……詳しくは言えませんけど、その人はこの子の父親ーー家族になってくれるって言ってくれてます」  自分が退学になったとしても、それが蒼汰に及ぶようなことはあってはならない。  幸い誰が父親なのかなんて証拠が出てくるはずもないので、いくら関係を疑われようがシラを切り通せば問題ないだろう……蒼汰は嫌がりそうだけど。 「親御さんはこのことを?」 「知っています」 「反対されてない?」 「はい」 「そうか……それなら、よかった」 「……叱らないんですか?」 「叱って欲しいのかい?」 「いえ、そういう訳じゃないですけど……」 「悪い大人に騙されていないか心配だったけど、そうじゃないみたいだしな。その様子だと産むと決めているんだろう? 相手の男と親御さんとで話がついているなら、他人が口出しするようなことじゃない」 「そんな風に言われるなんて思っていませんでした。てっきり、高校生なのに妊娠なんてって怒られるのかと」 「体が未熟な状態で子供を産むというのはリスクのある行為だからね。ましてや学生ならいろいろと難しいこともある。だから、避妊はしっかりした方がいいのだけど……今君にそれを言っても仕方ないだろう?」 「ええと、私は自分の意志で妊娠を望んだんです。事情はちょっと言えないのですが……」 「そうか……それは、意外だな」 「驚きますよね、やっぱり」  現役の女子高生が妊娠出産を望むなんて普通ではないと自分でも思う。事情を説明することなんてできないし、周囲に受け入れてもらえないのは仕方ない。  それに、理解して欲しい人たちにはわかって貰えている。それ以上を望むのは贅沢だろう。 「でも、学校はどうするつもりだったんだ? 学校が君の妊娠出産を認めることは難しいだろう。親御さんはそれでもいいと?」 「本当は休学して子供を産んで、落ち着いたら復学をと考えていました……ですが、こうなった以上諦めます。元々難しい話でしたし」  二度も高校に行かせてくれた両親には申し訳ないけど、ばれてしまったものは仕方ない。 「ああ、私は学校に報告はしないぞ?」 「え……?」 「私は校医だ、患者の個人情報は守秘義務がある。それに、私個人としては応援したいと思っているーーお腹を撫でているときの君は本当に幸せそうだったからな」  無防備にアリシアのことを想っていたときの顔を見られていたのだと思うと顔が赤くなる。 「仕事柄、妊娠した女生徒から相談を受ける事はときどきあるんだ。だが、相手の男や家族、それから学校といった周囲が、彼女らの妊娠を受け入れるのはなかなか難しくてな……結果、学校を退学したり、中絶したり、望まない結果になって傷ついた子も多かった」  先生は昔のことを思い出しているのか、少し遠い目をしていた。 「だからな、少なくとも私は君たちの味方でありたい。そう考えているんだーーまぁ、一介の校医である私にできることなんて、たかが知れているがね」 「そんなことないです! 先生にそう言ってもらえて頼もしく思います」  食い気味に言うと先生は指で口元を掻きながら「そうか」と答えて、コーヒーを口に含んだ。 「それと、な。私は妊娠出産にはいろんな選択肢があっていいとも思っているんだ。学生だから、社会人になったばかりだから、仕事で責任のある立場だからーーそんなことを言っていたら、いつ子供を産んでいいんだってことになるだろう?」 「そう、かもしれませんね」 「少子化で子供を産むことが望まれているんだ。社会全体がもっと妊娠出産育児を受け入れていくべきだと思う」  女性がいつ妊娠出産をするのかなんて、今まで考えたこともなかった。  高校大学を出て、就職して、結婚して、仕事を辞めて出産ーーというのが全てじゃないってことくらいはわかるけど。 「……それにしても、君の場合は少し事情が特殊というか心配ではあるが」 「あはは……」  私の体の成長具合を心配してくれているのだろう。先生には初潮が来たのが最近なことも知られている。 「ええと、その……実はお腹の中の子は双子なんです」 「……本当に大丈夫なのかね、それは?」 「がんばります」  お腹を撫でながら、私はつとめて明るく先生に言った。  先生は眉間を指で押さえて難しい顔をする。  私のことを心配してくれているのがわかる――いい先生だ。 「……何を言っても無駄なんだろうな。君はもう母親の顔をしている」 「えっと……はい」  ……母親の顔ってどんな顔なんだろう?  私はちゃんと母親になれるのか。 「学校に居るときは私を頼ってもらってかまわない、遠慮せず積極的に利用するように。無理は禁物だからな」 「はい、ありがとうございます」  それから、先生はいろいろ私の手助けをしてくれるようになった。  つわりで吐き気が酷いときに教職員用のトイレを使わせてくれたり、度々授業を抜けることを不審に思われないよう他の先生方に話をしてくれたり、中でも体育を見学できるように体育教師に話をつけてくれたのは本当に助かった。  それに、雑談混じりでいろいろ相談に乗ってくれるのも嬉しかった。  妊娠初期の検診は四週間毎で受けるようにと言われていて、その間お腹の中の状況がわからないのが不安だったから。出産こそ未経験とはいえ、保健教諭である先生の知識は豊富でありがたかった。
168 一番の親友 5月23日 火曜日 6週6日 「ずるいですわ!」  昨日あったことを涼花に事情を説明したら、返ってきたのは抗議の言葉だった。 「みんなで家族なんて、羨ましいです」 「えっと……じゃあ、涼花も一緒に家族になる?」  そんな提案を口にしていた。  涼花と家族になれたなら嬉しい。他ならぬ涼花なら、みんなも受け入れてくれるんじゃないだろうか。 「残念ですが、それは難しいですわ。わたくしは一人娘で家業の跡取りを期待されていますの。皆さんの家族になると言うのなら、両親の期待を裏切ることになります。そこまでの覚悟は今のわたくしにはありませんもの」 「そうか。ごめん、そうだよね……」  涼花は彼女の家族を大切に想っていて、だからこそ、蒼汰とも気軽に付き合うという選択ができなかったくらいなのだ。  軽率だったと反省する。家族というものを少し軽く考えていたかもしれない。 「でも、こうして全部話してくれて家族に誘ってくれたのは嬉しかったですわ。ありがとうございます」 「涼花……」 「ーーでもでもっ! やっばり、わたくしだけ仲間外れなのは、寂しいですわ!」  言いながら涼花は立ち上がる。  そのまま、私の後ろにまわって、きゅっと抱き締められた。後頭部が高級天然クッションに埋まる。 「ほ、ほら……涼花は私の一番の親友だから! 家族以外で私の事情を知ってるのは涼花だけだし」 「……なんだか、繰り上げられた感が否めないのですけれど」 「そ、それは……」 「でも、そうですわね……一番の親友。うん、悪くない響きですわ」  一番、一番と涼香は何度か満足気に小さく口にする。私の親友かわいい。 「それにしても、アリスさん。最近こうやって抱きしめても、前みたいにうろたえたりしなくなりましたね」 「それは、まぁ……」 「わたくしのおっぱいに飽きちゃいました?」 「ぶほっ!? な、ななっ!? ――なんで!?」 「おっぱいが嫌いな殿方はいないと教えて下さったのはアリスさんですわ。それとも、やっぱり翡翠さんの方が良いのでしょうか?」  そう言いながら涼花の上半身が下がり、押しつけられたままの柔らかさが、後頭部から背中へと移動する。 「違うくて!? 慣れただけで飽きたとか、そんなことはありえーーあっ、どっちが良いとかじゃなくて、おっぱいは全部尊いから!」 「そんなに慌てて。アリスさんかわいい」  くすぐったいから、耳元でささやくのはやめて。 「な、なんでずっとくっついてるの!?」  親友同士とはいえ距離感おかしくない!? 「女の子同士ならこんなくらいは普通ですわ。それに、今はアリスさんは誰ともお付き合いされていないのでしょう?」 「そ、それは……いや、私にはアリシアがいるから、その……」 「冗談ですわ……ふふっ、ちょっと悔しかったので、からかっちゃいました」  心臓に悪い。  最近涼花は二人きりのときに私のことをからかう頻度が高くなっている気がする。  私が元男だと知っているのに無防備すぎじゃないかな? 涼花のことが心配になる。  男なんてみんな羊の皮を被った狼なんだからね! 「……えーと、そろそろ離してくれない?」  襲っちゃうぞ、がおー 「そうですね。それじゃあーー」  背中から涼花の体が離れたかと思うと、私の頭部が涼花の手で優しく後方に導かれてる。  ぽふんと涼花の膝に受け止められて、膝枕の体勢になった。 「えっと……?」  上下逆さになった涼花が私を見下ろしている。涼花は両手で私の顔を包み込んで、指先でふにふにと頬をつついて弄んでいた。  されるがまま、抵抗はしない。涼花が私に害意のある行為なんてしてくるはずがないので。  くすぐったさに目を細める。 「涼花……?」  指の動きが止まった。  さっきから無言で無表情なのが少しだけ怖い。涼花は私の心の中まで見透かすようにじーっと見ている。 「アリスさんは強いのですね……」 「えっと……なんで?」 「わたくしは妊娠することが少し怖いのです」  ぽつんと罪を告白するかのように涼花は言った。 「小さい頃からわたくしは両親に跡取りを期待されていましたの」  別にそれが嫌だった訳ではないのです、と涼花は付け加える。結婚もことさら強制されている訳じゃなくて、涼花の選択に任せてくれているそうだ。  そんな風に大切に思われているからこそ、できれば涼花も親の希望を叶えたいと考えているらしい。 「第二次性徴期が来て、体の変化があってから妊娠出産をより意識するようになりました。この頃、男性を好きになることが怖いと思っていましたの。わたくしにとって人を好きになるということは、その人の子供を産む覚悟をすることと一緒でしたから」  なんだか申し訳なくなる。だって、その頃の自分は、恋人ができたら気持ちいいエッチしたいくらいしか考えてなかった気がするので……男ってバカだね、うん。 「わたくしはこのまま人を好きになんてなれないんじゃないかと思ってました……ですが、その、不思議ですよね。本当に人を好きになったときは、そんな不安も迷いも微塵と感じずにストンと恋に落ちていたのですから」  少し寂しそうに笑う涼花。  わかってはいたけれど、涼花は本当に真剣に蒼汰のことを好きだったんだな。 「少し話がそれました……わたくしが言いたかったのは、女性はそうやって子供のころから妊娠出産を意識して育つのですが、アリスさんはそうじゃないってことですの」 「それは、まぁ……」  昨年までは男だったのだから、自分が妊娠して出産するなんて考えるはずもない。 「突然女の子になったあなたが子供を産むことを受け入れるのに、どれだけの覚悟が必要だったのか想像もできませんの」 「好きな人のためだからね。ほら、涼花も人を好きになったら行動してたでしょ? あれときっと一緒のことなんだと思うよ」  そんなに大それた覚悟はしていない。  そりゃ、蒼汰とセックスするのはちょっと……いや、かなり抵抗はあったけど。 「それに、私は異世界に行ってたから。そこで割と肝は座ったかな」 「そういえば、アリスさんはそうでしたわね」  異世界で冒険した日々。命懸けが日常だったあの世界で生きることと比べたら、妊娠出産も、多分なんとかなるかって思えるのだ。 「よかったら、異世界での話を聞かせてもらえますか?」  そう言えば、涼花にはほとんだ話したことがなかった。 「いいよー」  ええと、何から話そうか。  大変だったことや辛いこともあったけど、今思い出すのは楽しかったこと。  見るもの、聞くもの、触れるもの、食べるもの。何もかもが初めてのことばかりだった。  そして、その経験がかけがえのない思い出になっているのは、隣で全部一緒になって楽しんでくれた女の子が居たからというのが大きい。 「……アリシアさんはあなたにとって本当に大切な方だったんですね」 「うん」 「お腹に触れてもいいですか?」  涼花の手が制服のブラウス越しに私のお腹に触れた。まだ外からは目立った変化のないお腹を優しく撫でる。 「……ここに、いらっしゃいますのね」 「うん」  不思議だね。 「わたくしも早くアリシアさんにお会いしたくなりました」 「仲良くなれると思うよ」 「楽しみです」
158 ファーストキス  涼花と笑顔で別れた後、俺はマンションに向かった。  随分と待ちぼうけさせてしまったけど、どうせ蒼汰は特に予定もないのだ。  謝れば後を引かないのが俺たちの関係だった。  そして、いつも通りのセックス。  私はまな板の上の鯛のごとく、されるがまま、ベッドの上で調理されていた。  室内は、私から出た恥ずかしい音で満ちている。  ――不意に蒼汰の顔が近づいてきて、 「んんー!?」  唇を奪われてしまった。  驚いて固まっていると、舌まで入ってきて、 「ふぁ!? ちょっ――!」  慌てて私は抵抗して、蒼汰を引き離した。 「それは、ダメだろ」  手の甲で唇を拭いながら、蒼汰を睨みつける。 「……嫌だったか?」  男とキスするのが嫌じゃないわけがないだろう。そりゃ、蒼汰がするのは女の私だから抵抗が少ないかもしれないけどさ……  そんなことより、 「これって蒼汰のファーストキスじゃないの?」 「……悪いか」 「私が初めての相手ってどうなのさ」 「それ以上のことをしてるんだし、いまさらじゃねぇか?」 「そうかもしれないけど……」  蒼汰にとってキスは大したことのない行為なのだろうか?  たしかに私も男だった頃はセックスの前段階くらいにしか思ってなかったかもしれないけど……少しだけ、蒼汰にがっかりしてしまった。  蒼汰は好きな人が居るから涼花のことを振ったはずなのに、それにしては少し行動が軽々しすぎる気がして。  男が好きという感情と性欲を切り分けて考えられる生物なんてことは重々承知しているけど、蒼汰はそんなやつじゃないって思いたかったというか、なんというか。  ……蒼汰にこんなことをお願いしている私が何を言ってるんだって話だけどね。 「やっぱりキスは無しでいい? こういうのは好きな人とするものだと思うよ」  蒼汰が気持ちよくなれるように、私はなるべく協力するつもりでいるけど、キスは少し怖かった。  特に舌を絡ませ合うディープキス。  確かに気持ちのいいことなんだけど、頭の中を直接掻き回されるような刺激は、思考と同時に理性まで溶かされるような気がして。  蒼汰との友人関係を維持するために、そこはちゃんと線引きしておきたかった。 「……そうか」  でも、蒼汰は何故だか結構落胆しているようだった。なんでもない風を装っているけど、幼馴染の私にはわかる。  ……そんなにキスしたかったのかな? 「もしかして、キスに自信がないとか? 心配しなくていいよ、別に下手じゃなかったと思うから――良かったじゃない、私で練習できてさ」 「そんなんじゃねーよ。他に好きなやつなんていねーし……」  少し拗ねたような口調で蒼汰はこぼす。  だけど、その言葉には聞き捨てならない内容が含まれていた。 「何言ってるんだよ、蒼汰。好きな人がいるから涼花のことを振ったんじゃないの」 「そ、それは……」  私の指摘にしまったと言う顔をする蒼汰。 「嘘、ついたの……?」  涼花は蒼汰のことが本当に好きで告白したんだ。  それなのに嘘ではぐらかしたというのなら、私は蒼汰を軽蔑するだろう。  涼花は蒼汰にはもったいないほどの良い子だ。  美人で一途でおっぱいも大きい。  それに、ウィソ馬鹿の蒼汰ためにウィソを勉強してくれるような子なんてそうそう居るもんじゃない。 「……嘘じゃねーよ」 「でも、今、好きな人はいないって!」  私が問い詰めると蒼汰は苦虫を噛み潰したような顔になって、 「ああ……他にはな」  そう、告げた。 「え……?」  どういうこと? 「……お前、なんだよ。俺が好きなのは」  ……え、私? ……何が?  意味が、わからない。 「だから、さっきのだって練習のつもりなんかでしてない」  ……………? ええと……?  蒼汰は何を言っているのだろう。 「じょ、冗談――」 「冗談でこんなこと言う訳ないだろ」 「……え、待って? おま……ホモ?」 「ちげーよ、馬鹿」 「で、でも、だって……! 私はお前の幼馴染で親友で――」  ――男なのに。 「仕方ねーだろ。お前の正体を知る前に好きになっちまったんだから……」 「え…………え……え、ええぇ!?」 「お前が幾人だって知ったとき、正直かなりへこんだ。この気持ちはなかったことにしようと何度も思ったさ……でも、ダメだった」  そう言って自嘲気味に笑う蒼汰。  その顔からは随分と悩んだのだろうことが窺い知れた。 「お前が悪いんだぞ。最初から全部打ち明けてくれていたらこんな気持ちになることなんてなかったのに……正体を隠したままで、幾人が居なくなってぽっかり空いた俺の心に居座りやがって」 「そ、それは……」  私は俺だから、幼馴染の蒼汰の心地よい距離感は誰よりも熟知している。何が好きで何が嫌いかも、蒼汰の家族より詳しい自信がある。  だけど、私は幾人だった頃と同じように、一緒におもしろおかしく過ごしていただけなのに。 「……すまない、本当はこんなことお前に話すつもりはなかったんだ。ただでさえ大変な状況にあるお前を困らせるだけだってのはわかっていたから」 「いや、それは……私こそごめん」  蒼汰を問い詰めたのは私だ。  涼花のためなんて先走って余計な口出しして、ヤブから蛇を出してしまったのは、私。  涼花の想いを断念させた原因も私だったということだ。彼女になんと言って謝ればいいんだろう?  ああ、それよりも、先に蒼汰に返事をしなければいけない。  ……でも、なんて?  固まっている私を見かねた蒼汰は首を振った。 「返事はしなくていい。お前は今、それどころじゃないだろ?」 「う、うん」  それは助かる。  頭の中が混乱していて、まともに返事できる気がしない。 「俺が軽い気持ちでキスした訳じゃないってことはわかってくれたか?」 「……うん」 「なら今はそれでいい」  私は指で唇に触れる。  それでいいのかな?  ……よくわからない。 「それじゃあ、続きをするか」 「え? ……ええ!?」  続きって―― 「……なんだ?」 「お前、この流れでするつもりなのか!?」  ありえないだろう!?  気まずいにも程がある。 「……やらないで、いいのか?」 「そ、それは……」  そう言われて思い出す。  順調にいけば、そろそろ排卵日がくるはずだった。  そして、排卵日の前日か前々日が一番妊娠しやすい日であると言われている。  だから、今はなるべく回数をこなしておきたいところで。 「……やる」  迷った末にそう答えた。  今は、私の気持ちよりも、少しでも妊娠する可能性を高める方が大事だから。 「それじゃあ……」  蒼汰の手が私の腕に触れて、 「ぴゃあ!?」  思わず私は飛び退いて逃げる。 「な、なんだよ……?」 「なんでもないよ!?」  私は自分の体を抱き抱えて、ぎゅっと目をつむって待つ。  頬に蒼汰の手が触れる。  あ……  また、キスされた。  触れるだけのキスをして蒼汰は離れる。  好きな人が相手ならいいんだろ?  薄目を開けて見た蒼汰の目がそう言っていた。  蒼汰は私が嫌だって言うことはしない。  いろんなエッチを試してみたがるのだって、私が蒼汰の好きなようにしてほしいと望んだからだし。  だから、拒否したら蒼汰はもう二度と私にキスをすることはないだろう。  だけど、そうすれば蒼汰を傷つけてしまうかもしれない。  そう思うと拒絶することができなかった。  これはセックスの前段階の行為だから。  セックスと一緒……私が我慢すればいいだけ。  それなら、今までと何も変わらないはずだ。 「ん……」  私は再び目を閉じると、顎をあげて唇を差し出す。  唇にもう一度訪れる独特の感触。  女の子のそれとは違って厚みがあって大きい。 (舌、入ってきた……)  口臭は特に気にならなかった。  私はそのまま蒼汰に体を委ねる。  後はいつも通り。  蒼汰がすることをされるがままに受け入れるだけ。  ……蒼汰はどんな気持ちで私を抱いていたのだろう。  後腐れのないセックスを楽しめてラッキーだと単純に思っていた。私みたいな美少女に中出しし放題で責任も取らなくていい、男の妄想を具現化したようなシチュエーション。  ――でも、私が好きだという蒼汰にしたらどうなのだろうか。  求められるのは体――正確に言うと種だけ。  自分ならどう思うだろう……  辛い、よな……多分。  蒼汰は感情的になっているのだろう、いつもより少し荒っぽい。蒼汰は私に告白したことを後悔している様子だった。  口内と頭の中を掻き回されながら、弱いところも責められて。  蒼汰の気持ちが入ってくる。  それは、友情からくる優しさだと思ってた。  だけど、もう気づいてしまった。  これは翡翠と同じ、私のことを想う気持ち。  きれいなだけじゃない。  愛欲の入り混じったドロドロとした想い。  ……翡翠、ごめん。  これは、浮気になるのかもしれない。  蒼汰の気持ちに無自覚だったことを責めるように、蒼汰は執拗に私を溶かしていく。  好きという気持ちを流し込まれて、深く、深く。  いつもよりも深く。  それは、翡翠に似ている激しさで。  全く似てない兄妹なのに、こんなところで似ていると思うのは不思議だと、頭の隅で思ったりもした。  そのうち、何も考えられなくなる。  戸惑う心は置き去りにして。  私の体は蒼汰を拒絶しなかった。
155 揺れる関係 4月10日(月) 0周5日  今日から授业が始まった。  授业中はよくアリシアと念话で语らっていたことを思い出して寂しさを感じてしまう。  日常は変わっていく――この寂しさにもいつか惯れてしまうのだろうか。  新しいクラスメイトと话をした。  苍汰と付き合ってるのか闻かれたので否定したけど、どうやら、この噂は学校中に広がっているらしい。  俺たちは何かと目立つ上に一绪に游ぶことも多いから、そう思われるのは仕方ないのかもしれないけど、なんでみんな色恋沙汰にしたがるのだろう?  俺たちはただの幼驯染なのに……あ、いや、肉体関系はあるけど。  今の二人の関系は何と言うのが适切なのだろうか。  セックスする友人フレンド、略すとセフレ?  なんだかセックス目的の関系みたいで嫌だ。  うん、やっぱり亲友かな。  俺と苍汰は亲友、それが一番しっくり来る。  この普通じゃない関系も子供ができるまでのこと。  それが终われば今まで通りの関系に戻れるはずだ。  ……戻れる、よね?  放课后は部室に行った。  俺と苍汰と凉花は交代しながらウィソで対戦、翡翠と优奈は红茶を饮みながら宿题や勉强をしている、いつも通りの光景。  そうやって一时间ほど过ごしてから解散した。  その后、俺は一度家に帰りデニムのスカートとパーカーに着替えてマンションの部屋に向かう。  部屋に着くと私服に着替えていたことで、苍汰が酷くがっかりしていた。  制服でしてみたかったんだと。  気持ちはわからないでもないけど……  今日はする前にひとつ苍汰にお愿い事があった。 「その……**検査するために**を采取させて欲しいんだ」  これは少しでも可能性を高めた方が良いとの父さんのアドバイスで、邮送する検査キットも用意してくれていた。さっき家に帰ったのは、これを持ってくるためだった。  精子を调べるということは、男としての机能を疑うという訳で、苍汰が不快になるんじゃないか心配だったけど、苍汰はすんなり了承してくれた。  ――ただし、ひとつだけ条件を付けられて。 「出すのはアリスにしてもらってもいいか?」 「……わかった」  ぐぅ……やむなし。  ベッドに足を広げて座った苍汰の前に跪く。  この制服のズボンは俺・が着られなくなったのを苍汰にあげたやつだと気づいて、意図しないシチュでの再会になんとも言えない気持ちになる。  苍汰は制服のズボンのベルトをカチャカチャと外した。ズボンの前の部分が开けられてチャックが下されると、中に押し込められていたモノがボロンと颜を出す。  ……やっぱり、でかいな。  目の前にトランクスが巨大なテントを作っていた。  苍汰はそのまま下着に手を差し入れると前を引き下げて、中のモノを开放する。  そそり立つ男のシンボル。  元男だから驯染みがない訳ではないけれど、勃起した他人のモノをこれだけ间近に见る机会なんてあるはずもない。  思わず、まじまじと见入ってしまう。  内蔵の色をした先端部は流线型の独特の形状で、テカテカしている。そして、竿の部分は势い良く反り返っていて、生々しい血管が浮き出ていた。  ……改めて见ると结构グロテスクだな、これ。 「それじゃあ、触ってもらってもいいか?」 「……わかった」  私は恐る恐る手を伸ばすと、干の部分を右手で握った。それは、私の小さな手ては指が回らないほどの大きさがある。  感触を确かめるように軽くにぎにぎすると、苍汰からくぐもった声がこぼれた。 「気持ちいいの……?」 「……ああ」  握った手をゆっくり上下に动かすと、苍汰の腰がびくんと震えた。気持ちいいのだろうな。  元男である私にとって、他人のソレを扱くというのは、なんとも复雑な心境にならざるを得なかった。いったい、苍汰はどんな风に考えているのだろうか。  セックスするのはまだわかる。  これは、女が相手じゃないとできないことだし。  でも、手でするのは男のときでもできた訳で……私の中で、これってホモなんじゃね? という疑问が沸き出てくる。  苍汰からすれば、かわいい女の子にしてもらえるのだから、抵抗はないのかもしれないけど……  抱かれているときと违って头が冷静なままだから、いろいろ考えてしまっていけない。  幸いどこをどうすれば気持ちよくなるかの知识はあるので、深く考えずにさっさと抜いてしまおう。目的は**の采取なのだから、医疗行为のようなものだろう、これは。  指で轮を作って竿を强めにきゅっと握ってシコシコする。  男だったときは疑问にも思わなかったけど、不思议な触り心地である。表面は柔らかいのに中は鉄の芯が入っているかのように固いし、他にはあまりないような感触だ。  ……懐かしいような、もう一生无縁でいたかったような。  左手で金玉をさわさわしてあげると苍汰はくぐもった声をあげた。  今、苍汰の命运は私の手の内にある。  优越感を密かに感じながら柔らかな袋に入った中身の玉をころころともて游ぶ。その间も右手は竿を扱いて継続して刺激する。  一人でするときは使うのは片手がデフォだろうから、両手を使えるのはアドバンテージだ。 「やべぇ……それ、すげえ気持ちいい」 「ふふ、我慢せずにいつでも出していいよ?」  射精を意识させて、苍汰を兴奋させる。  竿を扱く手を左手に替えて、右手の指先でテカテカに膨れているペニスの先端部分をいじくった。  つんつんする度に苍汰がびくんと反応するのが面白くて、つい意地悪をしてみたくなる。 「ぴくんぴくんしてるよ?」  手のひらでさきっぽを包むようにしてくねらすと、苍汰の腰ががくがく震えていた。だらだら垂れている我慢汁がちょうど良い润滑液になっているようだ。 「これ、気持ちいいんだ」  片手で竿をシコシコして快感のベースを维持しながら、もう一方の手で変化をつけて射精感を高めていく。 「アリス、その……」 「ん? どうした?」 「口でしてもらえないか?」 「え、やだよ」 「そ、そうか……」  そんなの无理に决まってるだろ!?  アレを口でするなんて……何を考えてるんだ、苍汰のやつ。  あ、ちょっと萎えた。 「手でシコシコしてあげるから、私のおててでぴゅっぴゅしちゃお?」  ふふん、私のエッチな言叶に反応してすぐ元気に戻った。単纯なやつ。 「うぁ……くぅ……!」  合わせた両手で筒を作って、苍汰のチンコを包み込んで出し入れさせる。全部の指をさわさわと竿に这わせながら、手の付け根を缔めて先端を优しくいじめてあげると、苍汰の腰がへこへこ震えて、すごく気持ちいいんだろうなってことが伝わってきた。 「やべぇ、それ……くぅ」  そこからまたオーソドックスな指の上下运动に戻して、动きを速めていく。チンコはパンパンに张りつめていた。 「ちょ、ちょぉ! ストップ!!?」  俺を止めながら、腰を引いて逃げようとする苍汰。  だけど状况を正しく理解した私は、むしろ势いを强めた。同时に左手で纸コップを手に取って准备する。 「いく? いきそうなの? いいよ、だして?」 「ちょ、俺はまだ! くっ! 駄目だっ、出ちまう!? あ、あぁぁぁ……!!」  パンパンに张りつめたペニスに纸コップを斜めに被せる。その状态のままラストスパートをかけた。 「くぅ! い、いくっ! いくぅ!!」  びゅちゅ!  射精した**が纸コップに当たる音が闻こえた。どくん、どくん、と精子を汲み出すポンプのように激しく脉动して震える。私は根本をきゅっと缔めつけた状态で动きを止めた。  びゅ! びゅちゃ!!  ペニスが跳ねてコップの中に**を吐き出していく。先端に纸コップを押し付けてぐりぐり刺激してあげる。  びゅく! びゅ、びちゅ、びゅく――  段々と势いが収まってきた。  ゆっくりと残りの精子を绞り出すように竿をしごいてあげる。 「うっ、うぁ……」  イったばかりで感じすぎているのだろう、苍汰は苦痛に耐えるような颜をしていた。  それで无事に**の采取を完了した。  苍汰が少し恨めしそうにしていたけど、长く楽しみたいなんて要望に付き合う义理はないので。 「気持ち良かったならいいじゃない」  私の手で与えられる快感に翻弄されて闷える苍汰の姿を见るのは少し楽しかったのも事実だけど。  ――そのお返しはその后たっぷりされた。  私の体を好き放题、じっくりたっぷりと堪能されて、続けて二回も。 4月11日(火) 0周6日  授业中、昨日苍汰に出された**が漏れてきた。  こんなときのためにナプキンを着けているとはいえ、谁かに気づかれやしないかと周囲をきょろきょろと见回す。  その様子はあまりに挙动不审だったようで、后で优奈に何をしているのと突っ込まれた。  今日は部活が终わったら、そのままマンションに向かう。  制服でという苍汰のリクエストに応えたからではない。そもそも昨日着替えたのだって、家に帰る用事があったついでだし。  でも、苍汰はそうは思わなかったみたいで、部屋に入って直ぐに抱きつかれて、手がスカートの中に入って来た。  ちょ!? 何考えているんだ、この马鹿!?  私は慌てて苍汰を制止する。  女の子の事情というものを少しは察して欲しい。  ナプキンも外してないし、シャワーだって浴びたい。  全力で拒绝して、やっとふりじゃないと気づいたらしく、苍汰は体を离してくれた。  そして、不机嫌な私に平谢りする。  ……うん、谢罪するなら受けてあげます。  それから、シャワーを浴びて一心地ついて。  浴室から出た私は再び制服を着直した。  结局、苍汰の要望を拒绝できなかった。  兴奋すればするほど多く出るから协力して欲しいと言われると弱い。それが、体のいい口実だってことはわかっているんだけど……  そのまま制服を着てしたけど、皱にならないように気を遣うし、汚れたらと思うと気が気ではなかった。  普段学校で居るそのままの姿の私にいろいろした苍汰は大层兴奋したらしく。晩御饭に合わせて家に帰るまでの时间に三回连続でした。  ……苍汰の言う通りだったのが无性に悔しい。  夜、家に帰って确かめてみたら、スカートの内侧に染みができていた。  外から见てもわからないだろうけど、臭ったりはしないだろうか……?  あーもうっ! クリーニング代は払わせるからな。 4月12日(水) 1周0日  今日のリクエストは体操着だった。  学校指定の名札付きの白い上着に绀色のハーフパンツである。  ……元々汚れてもいい服装だし、洗濯すればいいから気は楽かな、うん。  一回戦を终えた后、苍汰から言いにくそうに闻かれたのは翡翠とのことだった。 「日曜日に翡翠とその……ここでしたのか?」 「う、うん……その、翡翠とは恋人だし」 「マジか……」  私から自分の妹との関系を闻いた苍汰はショックを隠せないようで动揺していた。 「それで、どうだったんだ……?」 「あー、うん……すごかった」  怖くなるくらいに。 「そうかぁ……ちなみにそれは俺とするときよりも?」 「それは、その……」  返答に困る。  苍汰との行为にも大分惯れて痛みこそ无くなってきたけれど、だからと言ってそれが気持ちいい訳ではない。 「翡翠との方が良いのか?」 「そんなの、比べられないよ」  そもそも、翡翠と苍汰とでは行为の性质が异なっている。  翡翠がしているのは私を気持ちよくさせるための行为で、苍汰がしているのは苍汰が気持ちよくなるための行为だった。  苍汰とのセックスは子供を宿すための行为だから、それで目的は果たせているし私的には问题ない。  ……だからと言って、それをそのまま伝えるのは苍汰に失礼だろう。 「女の体のことだから、同じ女である翡翠の方が惯れてるのは仕方ないと思うよ」  でも、苍汰は纳得していないようだった。  それからもなんだかぎくしゃくしてしまって、その后はセックスしなかった。  ……一日一回していれば十分だろうけど。  それにしても、私はどうするべきなのだろう。  感じているふりをした方が良いのだろうか。  だけど、苍汰の女性に対する扱いが今のままというのも良くない気がする。将来苍汰が付き合うようになった相手が、セックスが原因で别れてしまったとか闻いたら目覚めが悪い。  だからと言って、女の扱いを体で教えるというのもなんだかなぁ……  ほら、ここを优しく触って、とか言って导いて、自分を気持ちよくさせるように诱导する……のか?  うーん、キツいなぁ……  别に私は苍汰に大切に扱われたい訳じゃないし。  帰宅して优奈にこのことを相谈してみたら、がっつり食いつかれて苍汰とのことや翡翠とのことを根掘り叶掘り闻かれる羽目になった。  兴味本位とかじゃなくて真剣に闻いてくれていたのがわかるから、误魔化すのもどうかと思って真剣に答えてしまった。  结局直ぐに结论は出なかったけど、悩みを闻いて贳えただけでもすっきりしたから良かった。  まぁ、最悪制服を頼ればなんとかなるだろう、多分。 4月13日(木) 1周1日  放课后になっても、结局良い解决法は思いつかなかった。  部活中、苍汰とのやりとりもぎこちなくて。  部活が终わり皆と别れてから、コンビニで时间を溃してマンションに向かうとエレベータの前でばったり苍汰に遭遇してしまった。 「……よ、よう」  周囲に人影はないし、わざわざ别れるのも不自然だ。エレベータの中の狭い空间の中での沈黙が気まずい。  そして、二人で部屋に入ると中に思わぬ先客が居た。 「ゆ、优奈……? どうして……」  それはさっき部室で别れたはずの优奈だった。 「二人のためにあたしが一肌脱いであげようと思ってね!」
151 入学式、それから 4月8日(土) 0週3日  今日は入学式があるため、土曜日だけど登校している。  校内を歩いているといつもより見られている気がした。  新入生が居るからというのもあるけれど、トレードマークだった銀髪のロングヘアーをセミロングのポニーテールに変えたのも大きいだろう。  知り合いにも会う度に驚かれた。 「髪型だけじゃなくて雰囲気も休み前とは違っているね」  と、今年もクラスメイトになった純に言われた。 「何かを我慢しているような思い詰めた感じがなくなって、明るく柔らかくなった気がする」  俺にできることが見つかって前を向けたからだと思う。処女じゃなくなった影響は……多分ないと信じたい。 「恋愛関係で悩んでいたのがふっきれたとか?」 「そんなところ、かな……」  とわざと伏目がちに言うとそれ以上聞かれることは無かった。どうせ本当のことを話すのは絶対に無理だ。だったら、勘違いさせて置いた方が良いだろう。  それにあながち間違ってもいなかった。  いつもならぐいぐいと突っ込んできそうな純が控え目だったのは、自分は山崎くんと順調だからそのことで私が傷つくかもしれないと気づかってくれているのだろう。  クラスが変わったタイミングなので、他の女子からも深く聞かれなかったのは幸いだった。  クラスの女子達は敵と味方とそれ以外を識別する友達作りに忙しそうにしている。  私も何人かと挨拶して当たり障りのない話をしたけれど、女子達の輪に入るのは相変わらず苦手だった。社交的な優奈や純のフォローがなければクラスで浮いてしまっていたかもしれない。  うちの学校の入学式は体育館で在校生全員が出席して行われる。二年前に新入生として参加したときと同じだった。  去年もそうだったんだろうな。  そのときのことを想像して胸が痛くなる。本来なら在校生の中に居るはずの俺が居ないことで、優奈にどれだけ寂しい思いをさせてしまったのだろう。  もう優奈を悲しませたりはしない。  隣に立つ姉を見上げて心の中で誓いを新たにしていると、視線に気づいた優奈が不思議そうに首を傾げた。『どうしたの?』と念話で聞いてきたので、『なんでもない』と首を小さく振って、壇上で話をする校長先生に向き直る。  入学式が終わると在校生は退場して新入生に対する部活動紹介が始まった。  俺達ウィソ部も新入部員を勧誘するためにステージに立つことになっていたのだが…… 『なんで、こんなときに大きくしてるのさ!』  発表前の舞台袖で、俺は蒼汰に文句を言った。  他の人に聞かれていいような内容じゃなかったので念話を使っている。 『しかたねぇだろ、治まんねぇんだから……』  聞けば昨日くらいからずっと勃起しっぱなしらしい。自分と交わした約束が原因である以上、それ以上蒼汰を責めることはできなくて。 『……なんとかばれないように誤魔化してて。勧誘は私がするから』  そうしているうちに俺達の出番がやってきた。  俺と蒼汰の二人でステージに上がる。  ……結果は大失敗だった。  ステージに立った俺がマイクで部活動の紹介をしている間、蒼汰は両手をズボンのポケットに入れて、前のめりに立っていた。  眉間に皺を寄せたその姿は、傍から見ると周囲を睨みつけて威嚇しているようにしか見えず、新入生を軒並みドン引きさせてしまったようだった。  俺のトークで必死に誤魔化したけど、逆にちぐはぐ感が際立って、ヤバい部活と思われたに違いない。  部活動紹介が終わって見学時間になっても、部室への見学希望者は一人も来なかった。 「こんなことなら、女子だけで説明すれば良かったかな」  トレーディングカードゲームのプレイヤー人口は基本的に大きく男性に傾いている。蒼汰以外女子部員であるうちの部はその例外中の例外だった。  だから、男子が居ないと入り辛くなるかもしれないと気を回したのが今回の敗因だろう。 「すまん……全く面目もない」 「ま、まぁ、勧誘が失敗に終わったと決まった訳じゃないし」  まだ挽回するチャンスはあるだろう……多分。  もともと蒼汰が俺のために作ってくれた同好会だけど、せっかくだから部活として続いて盛り上がってほしいと思うから、勧誘もがんばりたい。  見学時間が終わったら、今日はもう学校でやることはない。その後は蒼汰との約束を果たすことになる。  私は蒼汰と一旦別れて別々にマンションに向かった。一緒に下校して部屋に入るところを誰かに見られたらまずいだろうと、話し合ってそうすることにした。  それと、蒼汰にはマンションに来る時間を一時間ほど遅らせてほしいとお願いしていた。別に焦らしている訳ではなくて、準備をしておきたかったから。  マンションについた私は、お風呂と一緒になっているトイレでナプキンを処理する。出血はほとんど止まっているみたいで安心した。  使用済のナプキンをここに捨てるのには抵抗があるので、黒いポリ袋に入れておいて後でコンビニのトイレにでも捨てることにする。  それから、制服を脱いでシャワーを浴びた。  髪はタオルでまとめて濡らさないようにして、体だけさっと洗う。  バスルームから出てから、体を拭いて持ってきた新しい下着に履き替えた。ダークグレーのサニタリーショーツに、パッド付きのキャミソール。  それから、マンションに置いている着替えの中からシンプルな萌黄色のワンピースを取り出して着る。  香水をつけるかどうか少し迷ったけど、なんとなく恥ずかしくてやめておいた。制汗剤だけ吹いておく。  これで準備完了だ。 「時間、余っちゃったな」  まだ蒼汰が来る時間まで三十分ほど猶予があった。 「なんだか落ち着かない」  もう来ても大丈夫とメッセージするか迷ったけれど、私が待ち切れないって思われるのもなんだか嫌だ。 「……少し、ほぐしておこうかな」  今日の蒼汰の様子から考えると、余裕のある扱いをされるとはとても思えない。それ自体は私自身が望んだ結果だから受け入れるけど、なるべく痛くないに越したことはない。  そのために準備するのは理に適っているだろう。  ……別に私がエッチな訳じゃないから。  そう自分自身に言い訳をしながら、汚れないようにベッドにタオルを敷く。その上にちょこんと腰を下ろして、おもむろにワンピースをたくし上げた。  そして、右手をその場所に導く。 「んっ……」  久し振りの感触に体がぴくんと跳ねる。自分でするのなんていつぶりだろうか。最近は優奈にしてもらってばかりだったことを思い出して恥ずかしくなる。  人差し指と薬指を割れ目に這わせるように前後させる。ざらざらしたサニタリーショーツの触り心地がいつもと違っていて、もどかしさを味わうように、指をゆっくりと交互に動かしていく。 「はぁ……ん……」  慣れない場所で一人エッチするのは緊張する。なんとなく罪悪感もあって、私は漏れ出る声を押し殺す。  この場所で私は何度も蒼汰に抱かれた。  どうしてもそのときのことが思い出されてしまう。 「……あいつ、気持ちよさそうだったな」  特に私によって理性の箍が外された後の蒼汰はすごかった。  私に対する気遣いをすべて忘れるくらい必死になって腰を振り、何度も何度も私の奥を突き立てて、ただひたすら自分が気持ちよくなるために遠慮なく私を使っていた。  そして、一番深いところに押し付けて爆発するような射精。ドクドクと力強く精子を吐き出す脈動。私を妊娠させるという雄の本能に従ったものだった。 「あんなふうに射精だしたら気持ちいいんだろうな……んっ……」  我慢できなくなった私は下着を膝まで下ろして、クリトリスに直接触れた。そこは女の子のおちんちんで、円を描くようにくりくりすると、おちんちんの先っぽを刺激したときと同じピリピリとした快感が体中に広がる。 「んんっ! ふぁぅ……!」  気持ちいい。  だけど、そこをどれだけこねくりまわしても射精することはできない。  それどころか、今日は逆に切なくなるばかりで。 「なん、で? んっ……くぅ……」  気持ちいいのに何かが足りない。まるでお預けを食らっているかのように中途半端に燻っている。  イきたいのにイけないもどかしさに、身体の深いところが疼いて止まらない。  私に向けられる情欲に満ちた蒼汰の視線。  パンパンにはち切れんばかりの大きいペニス。 「あれが、私に入ったんだ……んっ……」  体の中を押し広げられる窮屈さに異物感。  出し入れされる度に無理矢理体に刻み込まれていくような錯覚。  それは、痛くて苦しいだけ。  気持ちがよいはずもない、独りよがりな行為。  だけど、今私はそのときのことを思い出していて。  よくわからない感情が蠢いて、心がざわめく。  蒼汰の大きな両手でがっちりと腰を固定されて、まるでオナホになったかのように扱われていた。蒼汰が気持ちよくなるためだけの道具になったあのとき。  力任せに痛いだけ、蹂躙されていたと言っていいくらいの乱暴な行為に。 「んっ……ふぁっ」  私の体の深いところがずきずきと疼く。  これは痛みを思い出したからだろうか。  痒いところに手が届かないようなもどかしさは増すばかりで、切なさが募るばかりだった。 「……」  もやもやを解消しようと、私はベッドサイドからローションを取り出しすと、容器からどろどろの液体を手のひらに出した。  指でこねると液体が糸を引いてぬちゃぬちゃと嫌らしい音と立てる。私はその手を股間に持っていくと、エッチになっているところ全体に塗り拡げるように指を動かした。  そして、意を決して指を折り曲げると、するりと抵抗なく指が入っていく。 「ひぃあ!?」  ……痛くはなかった。  恐る恐る、指のおなかで中を掻くように動かすと、鈍い快楽がお腹に響いてくる。それは私が無意識に求めていた刺激で。 「んんっ! ふぁぅ……!」  自分で指を入れた一人エッチは、ほとんどしたことなかった。優奈にされたときのことを思い出しながら、気持ちよくなれる場所を探す。  くちゅくちゅちゅと恥ずかしい音が部屋に響いてしまっていて、それがとても恥ずかしくて興奮してしまう。 「んっ……あぁ……!」  体がびくびくと震える。  ようやくイけそうな気がして、私は時間も忘れてその行為に没頭していた。 「アリス……?」  だから、いつの間にか部屋の中に居た蒼汰に話しかけられたときは、本気で頭の中が真っ白になった。 「ひゃ、ひゃい!? 蒼汰、なんで……!」 「なんでって……約束の時間になったから来たんだが」 「ち、違うの! これは――!」  何が違うというのだろう。  ワンピースははだけて、胸も露わで、しっとりと湿った下着は半脱ぎで僅かに足首に絡みついているばかり。ナニをしていたか明白だった。 「お前すげぇエロい……このまましていいか?」 「ちょっ! まって! あっ……やぁ……」  蒼汰は荒々しく服を脱ぎながらベッドに上がり、全裸になって伸し掛かってきた。  私はそのまま押し倒されてしまう。 「こんな姿見せられて我慢なんてできねぇよ……いいか?」  蒼汰は既に理性を失いそうなくらい興奮していた。  視線を下げると股間にはパンパンにはちきれそうなペニスが苦しそうで。  ……アレを入れられてしまうんだ。  そう思ったら体がゾクっと震えた。  精力剤を飲みながらオナ禁した蒼汰はどれだけ激しく求めてくるのだろう。お腹の中がいっぱいになるくらい赤ちゃんの種を注いでくれるに違いない。  それはきっと痛くて苦しいことだろうけど、アリシアに繋がる可能性が増えるのは嬉しいことで。  だから、私がそれを求めるのはおかしくないこと。 「うん、いいよ……来て、蒼汰」  私は蒼汰の顔に触れながら、微笑んだ。
150 明日に向けて 4月6日(木) 0周1日  今日は春休み最终日。  俺は昨日に引き続き、春休みの宿题に追われていた。 「はぁ……学校に行けなくなるかもしれないのに、宿题を顽张る意味ってあるのかな」  俺は勉强机に突っ伏して愚痴をこぼす。  学校には妊娠出产を隠して休学する予定とはいえ、それが上手くいくとは限らない。もし学校にばれて退学になったら、今俺がやっていることは无意味になるのだ。 「しんどいのはわかるけど、最初から谛めてどうするの」  翡翠にたしなめられる。  彼女は今日も手伝いに来てくれていた。 「……そうだね」  まったくもってその通りだった。  俺自身やる前から谛めるつもりなんてない。  ……だけど、弱音を吐きたくなるときもある。 「うぅ、お腹痛いぃ……」  両手でお腹を押さえる。キリキリと下腹部が痛む。今日は生理の二日目で一番しんどい日だった。できることなら一日中ベッドに横になっていたい。 「ほら、私も手伝うから、あともう少し顽张りましょう?」  翡翠が机に伏せた俺の头を抚でてくれる。  俺はされるがまま身を任せて目を细めた。 「ん、気持ちいい……」  だんだんと翡翠に甘えるのが癖になってきてる気がする。なんだかズブズブと深みに嵌ってるような……  そのまま痛みが落ち着くまで待って、なんとか気合を入れ直した俺は宿题を再开した。翡翠の付きっきりのサポートのおかげでわからないところも踬くことなくスムーズに进む。  しばらくたった顷、部屋のドアが兴奋気味にノックされた。 「アリスいるー!?」  返事をすると直ぐに势いよくドアが开いて优奈が部屋に入ってきた。 「见て见て、大発见!」 「どうしたの、优奈?」 「苍兄とエッチしなくても妊娠できる方法を见つけたの!」 「なんですって!?」  ガタッと翡翠が立ち上がる。  俺は讶しがりながら优奈が持ってきた雑志を受け取った。 「出かけてると思ったらこんな物を买いに行ってたのか」  それはいわゆる妊活雑志だった。  女子高生には买いづらい本だろうに、俺のために买ってきてくれたのだろう。 「うっ……」  かわいい赤ちゃんの写真の周囲に『授かる』をキーワードに様々なキャッチフレーズが并んでいて、なんというかとても妊娠することへの圧を感じてしまう。  だけど、俺は谁よりも必死にならないといけない状况なのだ。  この本は后でじっくり読ませてもらおう。 「ほら、このページ!」  付笺のついたページを开くとシリンジ法の绍介という记事が出てきた。  シリンジとは针のない注射器のことで、それを使って采取した**を膣内に注入するのがシリンジ法というらしい。  购入するのに通院や诊断は不要で、キットを通贩で买えるとそこには书いてあった。 「これを使えば、あいつをアリスに触れさせなくてすむわ!」 「それじゃあ、早速これ注文しとく?」 「うーん……」  盛り上がる二人に対して俺はあまり気乗りしていなかった。 「せっかく调べてもらって悪いけど、私はあまり使いたくないかな」 「どうして? アリスは苍汰とのセックスを望むの?」 「まさか」 「だったら、纳得できる理由を闻かせてもらえるかしら」  翡翠は身を乗り出して、俺を问い诘めるような口调で言う。 「シリンジ法には、出してすぐの**が必要になるみたいだけど、そうなると苍汰は一人でしなくちゃいけなくなるよね?」  セットには検尿のときに使うような纸コップがついていた。これを使って精子を采取するようだ。 「それがどうしたの? どうせほっといても猿みたいにするんだから、あいつにやらせたらいいじゃない」 「一日に何回もは难しいよ。男の射精って意外と繊细なんだから」 「……そうなの?」 「私がセックスできない体なら仕方ないけど、そうじゃないし」  シリンジ法は勃起不全などで性行为が上手くできない夫妇にとって有効な手段と书いてあった。つまり、セックスできるならそれに越したことはないのだ。 「それに、セックスをしたらホルモンが分泌されて、妊娠出产しやすくなるっていう说もあるみたいなんだ」  科学的な裏付けまではないみたいだけど、本能的な直感で俺はその说は正しいんじゃないかと思う。 「アリシアは巫女の祝福の関系で成长が止まっていたから。出产に向けて少しでも体を作りたいと思ってるんだ」  苍汰のアレなんかより比べ物にならないほど大きい胎児がそこを通ることになるのだ。それに备えて少しでも体を惯らしといた方が良いだろう。 「……でも、アリスはセックスしても辛いだけなんだよね?」 「苍汰が気持ち良いならそれでいいよ。兴奋するほど精子はいっぱい出るし、少しでも妊娠する确率を上げたいから」  多分、お愿いしたら、苍汰はシリンジ法に协力してくれるだろう。  だけど、妊娠する可能性を高めるにはなるべく多くの精子を受けることが必要だ。そうなると、苍汰には何度も纸コップに射精する自慰行为を强要することになる。その后の贤者タイムは想像するだけで虚しいものになるだろう。  オナニーをするときは自由であるべきだと思う。  自分胜手で独りよがりな行为だからこそオナニーなんだから。  俺の都合でその自由を夺うのだから、対価として苍汰が良い思いをするくらいじゃないと钓り合いは取れない。  俺はそう思うのだ。 「アリスはそれでいいの?」 「うん」  それでも、処女を失う前にこのことを知っていれば迷ったかもしれない。だけど、もう初体験は済ませてしまった。  幸いなんとか苍汰のアレを受け入れることはできている。今となっては苍汰に抱かれることにそこまでの抵抗はない。  ただ、目を闭じて我慢すればいいだけだから。 「……それなら仕方ないわね」 「ごめんね、翡翠」  恋人である翡翠には悪いと思うけど、そもそも苍汰を巻き込んだ计画を立てたのも彼女だからここは折れてもらおう。  もちろん、苍汰自身の意思は确认しないといけない。苍汰がシリンジ法を望むならそうするべきだろう。  あいつには好きな人がいる。  男だから好き嫌い関系なしにセックスできるだろうけど、そのことで変に生真面目なあいつは苦しんでいるのかもしれない。  それに、亲友であり元男を抱くのは、いくら俺が美少女だからとはいえ抵抗があるだろう。 「……そうでもないか?」  俺は自らの考えを撤回する。  セックスの最中、必死に腰を振る苍汰の颜は荡けそうなほど缓んでいて、とても気持ち良さそうだった。  苍汰は初めてのセックスに梦中になっているのだろう。  まぁ、无理もないと思う。  取り敢えずシリンジは注文しておくことになった。何があるかわからないし、これなら、最悪苍汰が駄目だったときに父さんにお愿いできなくもないと思ったので。 4月7日(金) 0周2日  今日から高校二年生だ。  朝一に张り出されたクラス分けを确认して新しい自分の教室に向かう。  二年になっても优奈と同じクラスでほっとした。他にも纯も含めた数人が去年と一绪のクラスだった。残念ながら、文佳と山崎くんとは别のクラスになってしまったようだ。  去年からのクラスメイトには、休みの间に髪を切ってポニーテールにしたことを惊かれたけど、この髪型も似合ってると褒めてくれた。  ホームルームでは无难に自己绍介をして、その后、ちょこちょこ新しいクラスメイトとも话ができた。この调子だと多分すぐに驯染めるだろう。  妊娠したら休学する予定だからどこまで居られるかはわからないけど。  今日は始业式とホームルームだけで授业は无い。  二日间ひたすら宿题に追われていたので、今日は気分転换したくなって俺はなんとなく部室に向かった。 「……よ、よう」  部室には苍汰が一人でいた。苍汰とは一昨日に生理が来たことを伝えたっきりで、それ以降连络を取っていない。  俺が部室に入ると苍汰は不自然に体を紧张させて、意识してしまっているようだった。 「今日は、大丈夫なのか?」  ……大丈夫じゃないです。  生理三日目で、まだお腹が重い。  そりゃ昨日よりはマシだけど…… 「ごめん、今も血が出てるから、その……今日はできないんだ」  亲友とはいえ、女になった自分の体のことを说明するのは若干気まずいものがある。 「ええと、ヤりたいのはわかるけど、女の子にそんな风に闻いたら本当はダメなんだよ? ……まあ、私相手だからいいけど」  苍汰が女性の体のことをわからなくても仕方ないと思うから、今回の减点は勘弁してあげよう。 「ち、ちげーよ!? そういうことを闻いたんじゃなくて! 俺は纯粋にお前のことを心配してだな……」  どうやら、俺は质问の意図を勘违いしていたらしい。 「ご、ごめん……その、私は平気だから」  随分耻ずかしいことを口走ってしまった気がする。  ……これは私が减点だな。  出会い头にいきなりぎくしゃくしてしまった。  俺は気を取り直して、ここに来た目的の物を探すことにする。  それは、直ぐに见つかった。先日発売された新しいウィソの全カードが载ってあるガイドブックで、凉香が部室に置いてある半分备品のような物だ。  俺はそれを手に取って、苍汰と少し离れた席に腰を下ろした。  本のページをめくりながら、新しいカードを使ったデッキのアイデアを考えていると、妙に苍汰がこちらの様子を伺っていることに気がついた。 「ん……? 苍汰もこの本を読みたかった?」  苍汰は慌てて首を振った。 「い、いや、そういう訳じゃないが……」  それからもチラチラと视线を感じた。それもなんだか热っぽいやつだ。 「な、なんだよ。そんなに见られると、気になるじゃないか」 「す、すまん……」  苍汰は颜を反らして言う。 「どうしたんだよ、お前。もしかして、三日できなかっただけで発情してるのか?」  少しからかい気味にそう言ったら、苍汰がギクリと体を震わせて固まった。どうやら図星だったらしい。 「え、マジか……」  いくらセックスを知ったからと言って、こんなに我慢できなくなるのか? これじゃあ、童贞だったときよりも余裕がなくなっているんじゃ……  そこまで考えて、不意に思い当たることがあった。 「お前、もしかしてあれからヌいてないのか?」 「……约束したからな」  はじめてセックスしたときに苍汰と交わした约束、精子は全部私の中で出してほしいというやつだ。 「そりゃそうだけど、别に私が生理のときまでしなくてもいいのに……」 「お前が顽张ってるのに俺だけ好き胜手はできねーよ」  苍汰は颜をそらしたまま不贞腐れたような口调で言った。多分、照れ隠しなのだろう。 「苍汰……」  その结果として性欲を抑えられないってのは、どこか抜けているというか、なんとも苍汰らしい気がする。 「もしかして、サプリも饮み続けてる?」 「……おう」 「それは无茶だろ……」  马鹿だこいつ。  セックス覚えたてでお预けになって、ただでさえ闷々としてるだろうに、その上に精力増强のサプリを饮むなんて。  マゾか、マゾなのか。  俺は思わず溜息をついた。 「明日だったらほとんど血は止まってると思う。少しは出てると思うから汚れるかもしれないけど、苍汰が构わないならしてもいい……どうする?」  明日は生理四日目だ。感染症のリスクもあるので、本当なら完全に血が止まるまで待った方がいいのだけど、今は事情が事情だから苍汰が望むなら多少のリスクは许容しよう。  生理中のセックスでも精子は射精后一周间くらい寿命があるから、排卵が早めに来た场合は妊娠できる可能性はあるので无駄という訳ではないし。 「……頼む。正直お前の口からヌくとかするとか闻いてるだけで、どうにかなりそうなんだ」  座っている状态なのに苍汰のズボンの股间部分はギンギンに主张している。俺の视线を感じたのか、ソレはビクリと震えて反応した。苍汰の息が浅い。 「ほんと、重症だなお前……」  我慢しすぎて理性の箍が外れかかっているようだ。普段の苍汰なら部室で硬くなったアレを见せつけてくるようなことはしないだろう。  でもまぁ、强力なサプリで性欲が増している状态でオナ禁なんてしたら、そんな风になっても仕方ないか。 「明日になったら好きなだけ付き合うから、今日は我慢できるか?」 「す、好きなだけ……うぅ」 「想像するな、バカ」  どうやら今の苍汰には俺の姿は刺激が强すぎるようだ。  苍汰相手に焦らしプレイをする趣味はないので、今日は早々に引き上げることにした。カードリストはスマホでチェックすることにしよう。
146 帰宅  ファミレスを出た俺达は、お泊まりの准备のために一旦家に帰るという翡翠についていくことにした。 「シャワーも浴びるから待たせちゃうし、先に行ってくれていいわよ?」 「ダメだよ、夜道を翡翠一人で歩かせられないよ」  口にしなかったけど、他にも理由がある。  家で翡翠と苍汰が钵合わせることがあれば、翡翠の怒りが再燃するかもしれない。そうなったとき俺达が居れば翡翠のストッパーになるんじゃないかと思ったからだ。  家についたとき苍汰の靴は玄関に无かった。  どうやら外出したままのようだ。  当面の危険はなさそうでほっとする。 「シャワーを浴びてくるから、少し待っててね?」  俺と优奈は翡翠の部屋で待つことになった。  ここに入ったのは小学生のとき以来だ。  昔からあまり饰り気の无い部屋だったけど、今はさらに実用性に磨きがかかっていた。ここが女子の部屋だと判别できそうなのは、壁に挂けられた制服くらいしかない。  普段からこれを见ていたら苍汰が俺の部屋を女の子っぽいと评すのもわかる気がする。 「おまたせ」  十分くらいで翡翠は帰ってきた。  急いでシャワーを浴びてきてくれたらしい。 「言われた通り髪は乾かさなかったんだけど……」 「うん、任せて」  魔法で乾かした方が早いので髪は乾かさないでいいと翡翠に伝えていたのだ。  ベッドに座った翡翠が头に巻いたバスタオルを外すと、ウェーブ挂かった乌の濡れ羽色の髪がふわっと広がる。  普段はポニーテールにしてある印象が强いので、髪を下ろした姿はとても艶っぽく见えて、どきどきしてしまった。  俺はベッドに上がり、翡翠の后ろから头に手をかざして乾燥ドライ、それから修复リペアの魔法を使う。瞬く间に乾いて绮丽になる髪に翡翠は惊きを颜に出していた。 「魔法ってこんなこともできるのね」 「へへ、すごいっしょ!」  と、なぜか优奈が得意げに答える。 「すごいけど少し复雑な気分ね。毎日乾かしてケアするのにかけている手间暇を思うと……」  翡翠の长い髪は良く手入れされていた。翡翠は髪の乾燥だけで毎日十分以上かけているらしい。 「わかる。ズルいよね!」 「なんだかなぁ……」  ほぼ毎日魔法少女をせがんでくるのにそんなことを言う优奈に、俺は苦笑するしかなかった。  髪を乾かした翡翠は、手早くお泊り用の道具を手提げカバンに诘め込んで准备を终えた。  结局、苍汰は帰ってこなかった。  ほっとしたけれど、いったいどこをほっつき歩いてるんだか。  翡翠を待っている间に、メッセージアプリで俺达の状况を伝えて、まだ家に帰らない方がよいと书いたけど、既読にもなっていなかったし。  ……まぁ、スマホのバッテリーが切れたとかだろうけど。  家に帰ると母さんが出迎えてくれた。 「おかえりなさい二人共。それから、こんばんは翡翠ちゃん」  いつも通りのおかえりなさいが、なんだかとても安心する。  父さんは家に居なかった。  母さんに闻いても苦笑するだけで、ごまかされた。急な仕事が入って出ていくのはいつものことだけど、行き先がわからないのは珍しいかもしれない。  それから、しばらくリビングでお茶を饮みながら女四人で谈笑した。翡翠が俺の家で世间话をするのは数年ぶりで、话题には事欠かなかった。 「そうだアリス、これを渡しておくわ。朝夕に饮みなさいね?」  话の途中で母さんは、柔らかいボトルに入った薬のような物をテーブルに置いた。 「何これ?」 「妊妇用のサプリよ。叶酸がメインで他に鉄やカルシウムが入ってるの」  母さん曰く、叶酸には细胞を作る働きがあって、体内で子供を作る妊妇にとって必要不可欠な栄养素らしい。日本人の普段の食生活では不足しがちなので、こうやってサプリで补うのが良いのだそうだ。 「ありがとう母さん」  大事なアリシアの体になるんだ。しっかり栄养をとらないと。  その后、俺は翡翠と一绪に自分の部屋に戻った。  母さんが客间から布団を持ってきてくれて、二人で床に敷いた。  二人でベッドに并んで座り话をしていると、优奈がお风吕に呼びにきたので、俺は翡翠を残して部屋を出る。  浴室に向かう前にトイレに寄った。 「……うわぁ」  思わず声が出てしまう。  エッチした后につけたナプキンは、中から漏れ出た苍汰の**がべったりついていた。 「……」  ショーツから外したそれを、なんとなく鼻に近づけてみる。青臭い雄の匂いが鼻を付いて、むせかえりそうになった。かつては日常的に嗅いでたはずなのに、なんだかとても生臭く感じてキツい。 「……なにやってるんだ、俺」  ふと我に返った俺は、ナプキンを小さく丸めてトイレットペーパーで包むとサニタリーボックスに舍てた。  今日三回目になるお风吕は一人でゆっくりできるかと思っていたら、脱衣所に优奈が入ってくる気配がした。  翡翠が居るのに……と思ったけど、优奈と一绪にお风吕に入るのはいつものことだし、まぁいいか。  しばらく脱衣所で何やらごそごそしていたようで、优奈が浴室に入ってきたのは、俺が髪と体を洗い终えて汤船に浸かった顷だった。 「アリス、だめじゃない」  ドアを开けて早々、优奈は俺を軽く叱るように言う。 「着ていった下着を洗濯机に入れたでしょ。あれは普段使いのとは违うんだから、ちゃんと手洗いしないと」 「そうなんだ……」  それは、知らなかった。 「今日はあたしが洗っといたから、次からは自分でしてよね」 「え……洗った、の?」  あれは苍汰との行为で汚れてたはずなのに…… 「えっ、ええぇーー!?」 「别にいまさら気にするような间柄でもないでしょうに」 「気にするよっ!」  苍汰にされたことは话していたけど、それで私がどんな反応をしたかまでは知られたくなかった……例えそれが与えられた刺激に対する体の生理的な反応だったとしても。  私はずり落ちるように汤船に颜を沈めて、呆れ颜の优奈を视界から消した。  これも、下着の上から刺激して下着が染みになっているのを见て喜ぶ苍汰のせいだ。  まぁ、下着越しの方が直接触られるより痛くなかったから悪くは无かったけれど。  水の中でこぼれた溜息が、泡になってぶくぶくと音を立てた。
145 爆弾処理 蒼汰にされたことを話している間、翡翠はずっと無言だった。そして、俺が話し終えると同時にすっと立ち上がった。 「ひ、翡翠、落ち着いて!?」  俺は慌てて翡翠を押しとどめる。  漏れ出ている殺気だけで蒼汰が三回くらい死にそうな雰囲気がある。 「……お手洗いに行くだけよ」  そんな俺を一瞥した翡翠は、それだけ言うとお店の奥へと消えていった。 「はあぁぁぁ……」  翡翠が居なくなり、張り詰めていた空気が一気にゆるんで全身の力が抜けた。  嫌な汗がいっぱい吹き出していて気持ち悪い。  このままじゃいけない。  そう思った俺は念話を優奈と二人の会話に切り替えて相談することにした。 『どうしよう、優奈』 『そうねぇ……』  優奈は人差し指を口元にあてて、真剣な表情になって考えているようだった。やがて静かに口を開く。 『何回かしたら蒼兄も余裕が出てくるんじゃないかな。そうしたら、アリスのことも気持ちよくしてくれるようにお願いしてみるとか?』 『そんなことは心配してないから!?』  思わず念話の声を荒げてしまった。 『じゃあ、何だってのよ?』 『翡翠のことに決まってるでしょ! このままだと蒼汰は翡翠に刺されるかもしれないよ?』  俺が懸念を伝えても、優奈の反応は微妙だった。 『別にほっといて平気だと思うけど……そんなに心配なら、この後、翡翠姉を家に誘ってみたら?』 『家に?』 『そう、一日お泊まりして時間を置けば、翡翠姉も落ち着くんじゃないかな』  確かにそれは良い案に思えた。だけど、ひとつだけ優奈が知らないことがある。 『でも、翡翠は今生理なんだ』 『……だから?』  優奈は首を傾げてそう聞き返してくる。 『その……エッチできないのにお泊まりに誘うのってどうなのかなって』 『はぁ……?』  優奈は何を言っているんだという顔になる。 『だ、だって……恋人同士でお泊まりって言ったら、普通そういうことじゃないの?』 『なんでそんな風に思うかなぁ……好きな人の家にお泊まりして側に居られるだけで嬉しいものよ。むしろ、心も体もしんどいときだからこそ、一緒に居て欲しいって思うんだよ』 『そうなんだ……』 『エッチしないと満足できないなんて、男子みたいな考えはやめてよね』 『う……』  優奈に言われてショックを受ける。  ……無意識に私は期待していたのだろうか。  もしかして、私って人よりエッチなのかな……?  普通、だよね? ……多分。 『でも、あたしが一番心配なのはアリスのことなんだからね? きっと翡翠姉もそう。だから、アリスには自分自身のことを一番に心配して欲しいんだ』 『わかった。ありがとう、優奈』 『……それと、ね。もし、アリスがエッチなことしたいんだったら、あたしだったらしてあげられるよ?』 『な、何を言ってるんだよ!? そんなの駄目に決まってるだろ。翡翠という恋人がいるのにそんなこと――』 『あたしがアリスにするのは姉妹のスキンシップみたいなものだから大丈夫。それに翡翠姉はあたしたちのことも知ってるから』 『え……そうなの……?』  それは、初耳だった。 『はじめてエッチした後、アリスとあたしの間で雰囲気が変わったことに翡翠姉は直ぐに気づいたみたい。それで、翡翠姉からそのことを聞かれたから、あたしは全部話したの』 『そ、そうなんだ……』 『別に後ろめたいことはなかったからね。アリスのことは大切な妹だって思ってるし。それは誰と付き合うようになってもかわらないよ? だから、アリスがしたいなら遠慮しなくていいからね。もし、心配なら翡翠姉には秘密にしておいてあげるから』  優奈は人差し指を口の前に立てていたずらっぽくウインクする。平然とそんなことを言う優奈が少し怖く思えた。  優奈の柔らかさや匂い、指の感触が想起されて。  体の奥がきゅんと反応してしまう。  ……そう言えば、今日は結局一回もイけてない。  優奈には散々焦らされて、蒼汰とはあれだけセックスしたというのに。 『…………だ、だめだよ』  俺は大きく首を振って、湧き上がってきたもやもやを打ち消した。  いくら翡翠が承知していたとしても、それは俺が翡翠の恋人になる前の話だ。翡翠と恋人になった今、蒼汰はともかく優奈ともって言うのはあまりに不誠実だと思う。 『ふふっ……わかったよ』  ……ふぅ、危ないところだった。  そして、あらためて今俺がどうしたいのかを考える。  俺自身については正直よくわからない。  翡翠のことを考えているのも、そうすることで逃避しているだけなのかもしれない。  だけど、翡翠が辛い思いをしているのは俺のことを大切に想ってくれているからというのは事実で。そんな彼女にできることがあるならしてあげたいとも思うのだ。  それは、俺のエゴかもしれないけど……その結果、翡翠が喜ぶのならそれでいいんじゃないだろうか。 『私、翡翠を誘ってみるよ。翡翠とは恋人になったのにゆっくり話もできていないし、ちょうど良い機会だと思うから』 『うん。アリスがそうしたいなら、それでいいんじゃないかな』  優奈はそう言って優しく微笑むと、そっと手を伸ばして俺の頭を撫でてくれた。  翡翠が戻ってきたのは、相談が終わって、ウエイトレスさんが俺の分の食器を片付けた後だった。  体調か機嫌が悪いのか、それとも両方なのか、翡翠は普段よりも二割増しで仏頂面になっていた。 「あ、あの……翡翠?」 「どうしたの、アリス。あいつに復讐したいのなら協力は惜しまないわよ」  翡翠からは黒いオーラが漏れ出ていて背筋がぞくぞくする。  俺は慌てて両手を目の前で振った。 「いや、そういうのじゃなくて……今日なんだけど、この後、家でお泊まり会とかどうかなって。せっかく恋人になったんだから、翡翠と二人でゆっくりお話したいなーなんて」 「アリスの家に……お泊まり……!?」 「あ、迷惑だったら大丈夫だからね? 突然の誘いだし、翡翠は昨晩は遅かっただろうし……」 「迷惑だなんてそんなことあり得ない! 是非お伺いさせてもらうわ!」  前のめりに俺の両手を包み込んで承諾の返事をする翡翠。  一瞬でテンションが爆上がりしていた。  その表情がきらきらと輝いている。 「う、うん……」  俺はその勢いに圧倒されながら、少しだけ早まったかなと思った。  でも、元気がでたみたいだから良かった……かな?
142 喪失 (xing)交した。  うん、(xing)交した。  ……成功したとはお世辞にも言えないけれど。  振り返ってみると初体験は散々だった。  予想外だったのは苍汰のアレ。  通常时でも大きかったけれど、临戦态势になったときのサイズはちょっと寻常ではなくて、はじめてその凶器を目の当たりにしたとき、私は颜から血の気が引いた。  大きければいいってモノじゃないんだぞ……マジで。  それでも、いまさらやめるという选択肢はなかった。  膝の上で后ろ抱きにされた私は、お*の下に当たるモノの硬さを感じながら、苍汰にされるがまま。  たどたどしく体に触れてくる苍汰は、力の加减がわかっていなかった。强く揉まれて痛いと抗议の声をあげると、今度は恐る恐る触ってきてくすぐったいばかりだったり。  お互い明らかに経験が不足していた。  服が邪魔になっていたようなので服を脱ぐ提案をして二人とも一糸まとわぬ姿になる。  肌を触れ合わせることは意外に嫌悪感はなかった。お腹にぐいぐいと押し付けられるアレも気持ちはわかるから微笑ましく思えるくらい。  妙に冷静でいられたのは苍汰が兴奋しまくっているからで。触れられるところで良かったところは过剰に反応して苍汰に伝えるようにしてみるけれど、やっぱり全体的に触られる力が强くてピントがずれている感じだった。  そんな様子なのは苍汰も気づいていたようで。  思い描いていた展开通りにいかず焦る苍汰は、准备を早々に切り上げて本番に临もうとして失败した。  上手く入れることができず、まごまごしているうちに苍汰のアレが萎えてしまったのだ。  どうして、と焦って谢る苍汰。  そうなることがあるというのは知识として知っていたので、落ち込む苍汰に気にすることなんてないと慰めた。私たちの间で格好なんてつけなくていいからと励ます。  苍汰はすっかり気落ちしてしまって、気まずい空気が流れた。  そんな空気を断ち切ろうと何かなかったか考えたとき、私は父さんから入っていたメッセージのことを思い出した。  困ったときはベッドサイドのチェストの一番上の棚を开けてみるといいというもので、ことさら明るく振る舞いながら苍汰と二人で确认してみると、チェストの中に入っていたのは柔らかな容器に入ったローションが一本。  二人の间の空気が冻りついた。  ありがた迷惑を通り越して地球を一周しそうなくらいな父さんの気づかいは、だけど、有用であることは明らかで……私はそれを使わせてもらうことにした。  苍汰に见ててと告げて、私はローションを使って自分のあそこに触れる。ぬるぬるをたっぷりつけた指は思っていたよりも简単に中に入っていった。  それからしばらく一人で耽る。姿见の変わりに苍汰に见せつけるようにしながら。室内にはぬちゃぬちゃとえっちな音と私の口から漏れる喘ぎ声が响いて。  しばらくして、もう大丈夫と立ち上がった苍汰のそこは完全に复活していた。  その后の挑戦で、ついにそのときがやってきた。  ズルリと体内に押し込まれる感触の后、一瞬遅れて无理矢理押し広げられた锐い痛みがやってくる。  痛い。  痛い、痛い。  头の中が真っ白になる。  だけど、痛覚なら我慢できる。  私はもっと酷い痛みを経験していた。  肉を牙で断たれる痛みと比べたらどうってことない。  枪を体に穿たれる痛みの方が余程きつかった。  収まるはずのものを収めるべきところに収める、ただそれだけのことのはずだ。不可能を可能にするような话ではない。  ――それなのに、涙が止まらない。  私は弱くなってしまったのだろうか。  これくらい平気なはずなのに、何だかわからないものがこみあげてきて、こらえきれなかった。  うろたえまくる苍汰に、大丈夫だからと诉えてみてもまるで说得力がなくて困る。  ……结局、苍汰は仕切り直しをしてくれた。一旦抜いて、それから、私が落ち着くまでぎゅっと抱きしめていてくれた。  苍汰の大きな体に包まれて、昔からいつも侧に居た亲友の匂いは私を落ち着かせてくれる。  しばらくすると涙は止まっていて、心のざわめきも徐々に収まってきた。  ……もう大丈夫。  そう言って、私は苍汰に行为を再开して贳うように促した。  だけど、苍汰は优しかった。  少しでも痛がる素振りを见せると苍汰はその都度私の様子を気にしてくれた。  友人である私を大切に思って気遣ってくれている。  それは、とてもありがたいことだけど、そうしていることで、苍汰が気持ちよくなるのを阻害してしまっているようだった。  こんな调子だといつまでたっても终わらないのではないかと心配になる。  私のことは気にしないで苍汰の思うままにして欲しいと诉えたけど、そんなことはできないと一度は苍汰に拒绝された。  だけど、苍汰にそうしたい欲求があることを私は知っている。苍汰が持ってるエロ本は大体把握していたから……それらのどこのページが自然に开くようになっているのかも。  それに、特殊な性癖というものでもない。大事なものをめちゃくちゃにしたくなる冲动は谁しも持っているものだと思う。それらは普段、理性で抑えているのだ。  だから、私はその理性の箍を言叶で外していくことにした。  私の体を道具のように扱っていいと告げた。魔法が使える私は回复できるから、多少の无茶をしても平気だと。  そして、これは苍汰の为だけに言ってるのではなくて、私自身の为に早く终わらせて欲しいのだと诉えた。  そんなふうに苍汰に甘美な免罪符を与えていく。  それでも……と、まだ踌躇する苍汰だったけど、体の一部は正直で。私がそのことを指摘すると、苍汰の体が震えてそこ反応するのがわかった。  苍汰の好きなように、苍汰が気持ちよくなることだけを考えていいから……私が泣きだしたとしても止めないで欲しい。私のことを苍汰のオナホにしていいから、と。  苍汰のペニスを优しく抚でながら耳元で嗫いて、理性を溶かしていく。  そこまでして、ようやく苍汰は私の提案を受け入れてくれた。私は笑颜でありがとうと伝える。  苍汰は目の色が変わっていた。  いや、自分がこれだけ煽ったのだから仕方ないのだろうけど。  だけど、それが少しだけ怖くて。  私は左手の指轮をぎゅっと握り込んだ。  その后の苍汰は本当に远虑なかった。  だけどこれで良かったのだ。  痛みなら耐えればいいだけだから。  そうした纡余曲折とすったもんだの末、なんとか私は目的を果たすことができた。  事が终わった后、ベッドに横になった私は、お腹に手をあてて回复呪文を使いながら、苍汰にひとつお愿いごとをする。  これから、精子は全部自分の中に出して欲しい、と。  やりたい盛りの高校生にそれをお愿いすることがどういうことかくらいはわかっているつもりだった。私自身、少し前までそうだったのだから。  苍汰がしたいなら、私はいつでも大丈夫だからと伝える。苍汰は神妙な表情で颔いた。  ……直后に早速もう一回お愿いされるとは思ってなかったけど。  断る理由は私にはない。数重ねればそれだけアリシアを救う可能性が増えるのだ。  それから、続けて二回した。  その后に一绪に入ったお风吕でもう一回。  気がついたらすっかり日がくれていて。  スマホを见たらメッセージの通知が酷いことになっていた。  ……みんなになんと说明したらいいのだろう。
127 魔法でも科学でもなく 気がつくと俺は自分の部屋のベッドで横になっていた。アリシアと別れた後、どうやって家に帰ったのかも憶えていない。  日は暮れていて、部屋の中は真っ暗だった。 「アリシア……」  返事はなかった。  もう、彼女の声を聞くことはできない。  そのことがすごく寂しかった。  心が摩耗しきっていて、ひたすら空虚だった。  暗闇の中、身動きひとつせず天井をただ眺める。  どれだけの時間が経ったのかわからない。数分だったかもしれないし数時間経っていたかもしれない。  枕元のスマホが震えて画面が光り、俺は体に染み付いた反応でそれを手に取った。  俺は驚きで固まったままスマホを凝視する。  そこに表示されていたのは、今翡翠から届いた一文だけのメッセージ。 『アリシアを救う方法を知りたい?』  ――心が動き出す。    ※ ※ ※  俺は深夜の神社にやってきた。  メッセージを見た俺は直ぐに翡翠に電話した。直接会って話したいと言われて、今から行くと伝えて家を飛び出した。  呼び出されたの場所は翡翠たちの家ではなく神社の拝殿だった。  神社に正面から入った賽銭箱の奥にある装飾された畳間。そこに白と朱の巫女装束を着た翡翠が一人、神様に向き合って座っていた。 「翡翠!」  息を切らしながら名前を呼ぶと、彼女は静かに振り返る。 「……来たのね、アリス」 「アリシアを助ける方法があるって本当なの!?」  俺は翡翠に近づきながら問い質す。  疑問はいくつもあるが、何よりも一番重要なのはそこだった。 「ええ、本当よ」  淡々と翡翠は答える。 「お願いだ、その方法を教えてほしい!」  今ならまだ間に合うはずだった。  意識が消えてしまっても、アリシアの魂はまだ完全に消滅してはいない。魂が見える翡翠なら、より正確に状況を把握できるはずだった。 「この方法を教えれば、あなたの人生は確実に狂う。平穏な日常は失われる。それでも……?」 「構わない。アリシアに貰ったこの命以外ならどんな物だって差し出してやる。だから、教えて欲しい」 「それが人の理に反する行為でも? アリシアは多分 こんな方法で助けてもらうことは望まないと思う。私が今まで黙っていたのも、あの娘が知ったら確実に阻止すると思ったから……それでも?」  何を言われても気持ちは揺るがない。  俺は翡翠の目を真っ直ぐ見て大きく頷いた。 「……そう。やっぱりそうなのね」  翡翠は瞳を閉じて小さく溜息をついた。 「話すのに、ひとつ条件があるわ」 「条件?」 「私をあなたの恋人にして欲しい」 「そ、それは……」  想定外の要求で俺は返答に詰まる。  翡翠は大切な幼馴染の女の子だ。アリシアが言ったように将来そういう関係になる未来もあるのかもしれない。  だけど、今の俺はアリシアのことでいっぱいで、翡翠のことを考える心の余裕は無いというのが今の正直な気持ちだった。 「ごめん……翡翠の気持ちには応えられない」  翡翠の告白を断るのはこれで二度目となる。  俺の言葉を聞いても翡翠は表情を変えなかった。 「あなたがアリシアのことを好きなことは知っているわ。あなたは変わらなくていいから、私にあなたのことを支えさせてほしい。アリシアの次でいい、彼女が戻ってくるまでの間だけでもいいから」 「そんなのダメだよ……」  一番に想っていない相手を恋人にするなんて、翡翠を傷つけるだけだ。それに、アリシアが居ない間だけとか、そんな都合の良い関係は恋人とは到底言えないだろう。 「だったら、私はあなたにアリシアを助ける方法を教えられない」 「翡翠……」 「私がそれを教えれば、あなたはきっと大変な思いをすることになる。アリスが苦しむ姿をただ見ているだけなんて、私には耐えられないの。だから、お願い……」  俺の目を真っ直ぐに見て翡翠は俺に訴えてくる。  説得はできそうにない。 「……わかった」  この選択の結果、翡翠を傷つけてしまうことになるかもしれない。それでも俺は、アリシアを助けたかった。 「ありがとう……嬉しい。私、幾人と恋人になれたのね」  翡翠は胸の前で両手を重ねて微笑む。  その態度が嬉しそうなほど、俺は罪悪感で胸が苦しくなる。 「ごめんなさい……大好き、幾人」 「う、うん……」  俺は翡翠の目を見ることができなかった。 「この関係を望んだのは私。あなたが罪悪感を抱く必要なんてないわ」  そう言って翡翠は優しく微笑む。 「それじゃあ、早速アリシアを助ける方法を教えるわね」 「……うん」  まずは、アリシアの命を救うことだ。  それ以外のことは、その後で考えることにしよう。 「と言ってもそう難しい話じゃないわ。アリスの体内に魂の無い体を作って、魂操作ソウル・マニピュレータでアリシアの魂を移す。それだけよ」 「それだけって言うけど……そんなこと魔法でも科学でも不可能だ。できるわけないよ!」  魂を体の外に取り出せば消滅してしまう。  だったら、体の中に入れ物を用意すればいい。  それは理屈だけど、そんな方法があればそもそも苦労なんてない。 「できるわ」  だけど、翡翠はそう言い切る。 「魔法も科学も要らないわ。今のあなたなら――女性になったあなたにならそれができるの」 「え……それって……?」  俺は混乱する。  翡翠の言っていることの意味がわからない。 「子供よ」 「へ……?」 「子供――正確には胎児ね。アリスが体の中に胎児を作ってアリシアの魂を移すの。魂は心臓が動き出す頃に宿るものだから、その前に」  こども……?  妊娠、出産。  女性の身体に備わっている機能。  そんなことは知っている。  保健体育で習ったことだ。 「でも、どうやって……?」  わからないはずがなかった。  だけど、俺はそれを認めたくなくて。  他に何か方法があるんじゃないかと信じたかった。 「そんなこと、決まっているじゃない……性交、セックスよ」  翡翠の答えは単純かつ明解だった。
139 準備(その2 「……まだ、怒ってるの?」  優奈が困った表情で聞いてくる。 「怒ってないよ」  怒ってない。全然怒ってやしない。 「ごめんってば。でも、今日の本番はあたしじゃないし……」 「わかってるから」  ……もう、触れないで欲しい。  さっきの浴室でのこと。  優奈の丁寧なオイルマッサージを受けた俺は我慢ができなくなっておねだりした。そうすれば、いつものように最後までしてくれる、はずだった。 「それはダメ」  だけど、返ってきたのはまさかの拒絶の言葉。 「だって、毛穴が開ききっちゃうと、塗り込んだオイルの効果が飛んでしまうからね」  と、無慈悲な宣告を優奈にされて。  それからも中途半端に与え続けられる刺激は、まるで責め苦のよう。  重なっていく切なさで頭の中が埋め尽くされてしまった俺は再度懇願したけれど、優奈はやっぱりしてくれなくて。  ついには、我慢できずに自分で触ろうとしていたのを優奈に咎められる始末だった。  頭を冷やしてからそれらの行為を思い返すと、恥ずかしいやら情けないやらの自己嫌悪で無口になってしまったのを優奈に勘違いさせてしまった。  俺は自分の部屋にある化粧台の前に座って、優奈にされるがまま着せ替え人形にされている。 「どう、このシュシュかわいいでしょ。ピンクでベビードールとお揃いなのよ――つけてあげるね」  後頭部でポニーテールで纏められた俺の銀色の髪は、ヘアゴムで括られて、ピンク色のシュシュで飾られた。  お風呂あがりの脱衣所でシンプルな下着と勝負下着でどっちにするか迷っていたら、優奈に有無も言わさない勢いで勝負下着を選ばされたのが始まりだった。  一緒に用意していたシンプルな肌着にもダメ出しをされて、優奈がどこからか持ってきたベビードールを着せられていた。  ふりふりのレースがふわふわした薄いピンク色のそれを着ると、お人形さんのようにかわいらしいのに、透けて見える白い下着はとてもセクシーで、鏡に映った自分の姿をしばらく直視できなかったくらいで。
140 準備(その3) 準備を終えた私は優奈と二人で家を出てマンションのある駅前まで歩く。  新しくできたスイーツのお店とか、クラスメイトの恋愛事情とか、そんないつも通りの他愛もない雑談をしながら。  メモに書いてあった建物の前で優奈と別れた。  別れ際、優奈は何も言わずにぎゅっと抱きしめてくれて、私のことを心配に思う気持ちが痛いほど伝わってきた。  そのマンションは、建物の前まで到着してやっと『ああ、ここか』と思ったくらい記憶に残らない無個性なビルだった。  エントランスに入ると、ずらりと並んだ集合ポストは整然としていて、古い建物だけど管理はされている様子である。  奥にあるエレベータのボタンを押して少し待つと、ドアが開く。中に入り、メモを見ながら、書かれてある部屋号数の頭と同じ数字のボタンを押す。  ガタンと音を立ててドアがしまり、エレベータが動き出した。2、3、4……くるくると表示盤の数字が変わっていく。6が表示されると同時にピーンと音がしてドアが開いた。  玄関前の部屋号数と手元のメモをにらめっこしながら廊下を歩く。目的の部屋はすぐに見つかった。  表札は出ていない――と言っても他の部屋も殆ど出ていなかったけど。  どうするか少しだけ迷った後、バッグから鍵を取り出してドアにある鍵穴に挿し込んだ。スルリと入った鍵は抵抗なく回ってロックが外れる音がした。  建物や部屋を間違えていなかったことがわかって安心する。 「……おじゃましまーす」  私はドアノブを掴んで、少し重い鉄のドアを恐る恐る引いていく。  ドアの先には小さな玄関があって、その向こうは廊下と台所を兼ねたスペースになっていた。  正面には奥の部屋に続くドアが開いていて、部屋の奥に人影。様子を見ていると蒼汰がひょっこりと顔を出した。 「……よ、よう」 「やあ、蒼汰。さっきぶり」  私は小さく手を振ってから玄関に入る。  手を離したドアがゆっくり閉まった。  振り返って、一度深呼吸をして。  ドアノブのつまみを回し、カチャリと鍵を閉めた。 「……ごめん、待たせちゃったよね?」  再び振り返って、ミュールを脱ぎながら蒼汰に話しかける。余裕をみて設定していた約束の時間も少し過ぎてしまっていた。 「大丈夫だ。それにしても、随分と時間掛かったんだ、な……」  私は室内に足を踏み入れる。  そこは私の自室よりも少し広いくらいの一人暮らし用の部屋だった。  まず目につくのは、正面に置かれた室内の三分の一くらいを占めているベッド。そして、他にはスチールの事務机にテレビとキャビネットがあるくらいで、生活感の無いビジネスホテルのような部屋だと思った。 「……ん? どうしたの、蒼汰」  私が部屋を見回している間、ベッドに座った蒼汰は、少し前屈みでスマホを両手で持った体勢のまま固まっていた。 「いや、その……着替えたんだな」  そう言う蒼汰はさっき別れたときと同じ服装だった。 「あ、うん……変じゃない、かな?」  自分だけ気合い入れているように思えて少し恥ずかしい。 「そんなことねぇよ。ただ、お前がそんな服を着たところなんて見たことなかったから、その……びっくりして」 「そっかぁ……」  そういえば、蒼汰の前でこんな風におしゃれしたのはじめてだったかな?  いつも学校の制服かラフな普段着だったと思う。学園祭のときにしたメイドコスは少し方向性が違う気もするし。 「に、似合ってるぜ」 「へ……?」  意外な言葉に私は呆気にとられてしまう。 「蒼汰から、女性の服装を褒める言葉が出てくるなんて……」 「お前なぁ……俺をなんだと思ってるんだ」 「んー……だってさ、蒼汰は蒼汰じゃない」 「なんだよそれ」  だけど、なんで突然そんなことを言い出したのか、なんとなく理由を察せてしまった。  私を待っている間、時間を持て余した蒼汰はスマホでハウトゥーや体験談を必死に調べていたのだろう。その中にパートナーを褒めろとか、そういうアドバイスが書いてあったに違いない。 「なに笑ってるんだよ」  不器用なのは変わらないなと安心していると、蒼汰は拗ねたように言った。 「ううん、なんでもない……ありがとね、蒼汰」 「お、おう」  慣れないことをして褒められたことが恥ずかしいのか、蒼汰は顔をそらしてしまう。 「……話し方も違うんだな。ここ最近二人きりのときは、男言葉を使ってたから調子が狂うぜ」 「そりゃあ、これからすることを考えたら、ね……私だってそれくらい考えるよ。大丈夫、半年間ずっと被り続けてきた猫だから、そうそうボロはでないと思うよ」 「そ、そうか……」  複雑そうな表情をする蒼汰。  ……さて。  このまま立ちぼうけていても仕方ないよね。  私は肩掛けバッグを事務机に置いて、ブラウスを壁に掛かっていたハンガーに吊るす。  そんな私の一挙一動を蒼汰がじーっと見ていて、少しやり辛い。  準備中の女の子をあまりジロジロ見るものじゃないってハウトゥーに書いてなかったのかな?  ……まぁ、いいけど。  白いワンピース姿になった私は、蒼汰が座っているベッドの横に並んで腰を下ろした。すぐ側に座るかどうか少し迷って、結局、いつもの距離を開けた。  そして、訪れたのは、いつもと違う気まずい沈黙。  蒼汰は私が近づくと同時に顔を背けてしまっていた。  じーっと見たり、視線を反らしたり忙しいやつだ。  さて、なんて声を掛けたらいいのかな?  蒼汰も多分私と同じ風に考えているのだと思う。  ぎくしゃくとした中で沈黙を破ったのは蒼汰だった。 「……なぁ、本当にするのか?」  それは、昨日と今日で何度も繰り返された問いだった。  最後の意思確認というやつだろう。 「……覚悟はできてる」  短く返事をする――迷いはない。  これがアリシアと一緒に生きるために取れる唯一の手段だから。 「……わかった」  蒼汰は私の顔を見て、真剣な表情でそれだけ言った。  こんどは私が蒼汰を見返しても視線をそらさない。  だけど、顔が見る見るうちに真っ赤になってしまい、蒼汰が緊張していることが丸わかりだった。  そんな様子を見て、私は少しだけ安心する。  緊張してるのは私だけじゃないってわかったから。  不器用だけど、親友のためになんでもしてくれる蒼汰の真っ直ぐさが、今はとてもありがたく思えた。 「えっと、それじゃあ……よろしくお願いします」
138 準備(その1) 翡翠が帰った後、一階に降りると優奈が俺を待っていた。  お風呂の準備ができたから一緒に入ろうと誘われて了承する。  先に帰った翡翠と何があったとか聞かれることはなくて、そんな優奈の態度がありがたい。  髪は美容室で洗ってもらったので、ヘアゴムで纏めて濡れないようにタオルで包む。髪の長さが短くなったので楽だ。 「えっと……なにそれ?」  優奈が浴室に見慣れない物をお風呂に持ちこんでいた。スティックのような形状をしたピンク色のそれは携帯用の制汗スプレーくらいの大きさで、本体にはスイッチがついているがついているようだった。 「優奈、これってもしかして……」  お、大人のおもちゃ!?  はじめてが痛くならないように、事前に小さいので慣らした方がいいとかそういうことなのだろうか。  でも、それってどうなんだろう。  はじめてがおもちゃだなんて――  女同士ならむしろ普通なのか?  というか、翡翠と恋人になった以上、優奈とそういうことをしたら浮気になるんじゃないだろうか。  姉妹のスキンシップだから、ぎりセーフ……? 「……何を勘違いしてるのか知らないけど、これはエチケットシェーバーだからね」  うろたえている俺に対して優奈は冷ややかに言った。 「……え?」 「蒼兄に見られるんだから、ちゃんと無駄毛を処理しないとダメよ?」 「……なんだ、そういうことか」  びっくりしたぁ……  それにしても、気になることがひとつあった。 「優奈って処理してたの?」  あれだけ一緒に居ながら、俺は今まで優奈がそれをしている場面を見たことがない。 「当たり前でしょ? さすがに恥ずかしいから、アリスの前ではしてないだけよ」 「そ、そうなんだ……」  四六時中側にいて肌も重ねておきながら、そこは恥ずかしいんだ……俺自身、随分と考えが女性っぽくなってきたと思うけど、まだまだそのあたりの感覚はよくわからないな。 「アリスは肌も弱いし、まだそれほど必要なさそうだったから教えてなかったけど、これからはちゃんとしないとダメよ?」 「……しなきゃいけないのかな?」  試しに自分の脇や脚を見てみるけれど、そこに毛が生えているようには思えなかった。そして、ぷっくらしたお腹の下もつんつるてんで、それが逆に恥ずかしいくらいなのに…… 「男の人の前で肌を晒すんだから最低限の身だしなみよ。エチケットシェイバーを使えば肌を痛めることもないし、そんなに時間もかからないからさっさとしちゃいなさい」 「わ、わかったよ」  俺は優奈からスティック状のそれを受け取った。  蓋を外してスイッチを入れるとぶーんというモーター音がして本体が振動しはじめる。  男だったころに使っていた電気カミソリを思い出すなぁ……そういえば、あれは今どうなってるんだろ?  丸くなっている先端部分を腋にあてて動かすとしゅりしゅりと音がした。どうやら、全く毛がないという訳でもないらしい。毛が銀色なので目立たないのかもしれない。  脛やふくらはぎ、そして一応お腹の下も。  ……こ、これは結構恥ずかしいかも。  優奈は湯船の中で視線を逸してくれているから、みっともない格好は見られてないとはいえ、シェーバーの音はまる聞こえだ。  前言撤回、優奈の気持ちわかった。  これを人前でするのはかなり恥ずかしい。  お互い無言のまま、シェーバーの立てる音だけがお風呂の中で響いていた。それはほんの数分のことだったけど、俺にはとても長く感じて。  ようやく一通り剃り終えて、優奈にお礼を言ってシェーバーを返した。  それからいつも通り、いやいつもより少し丁寧に体を洗う。  ……臭かったりしたらイヤだから。  体を洗い終えると、優奈が見慣れないガラス瓶を見せつけてきた。それは琥珀色の瓶で、ピンク色のラベルがなんとも怪しげな雰囲気を醸し出している。 「それじゃあ、仕上げにボディオイルを塗ってあげるよ」 「え? いいよ、そんなの……」 「よくないよ。雰囲気作りはお互いの協力が大切なんだからね?」 「わ、わかったよ」  優奈が瓶を手にとって手のひらに中身を垂す。  それから、俺の背中に移動すると両肩に触れてきた。 「ひゃいっ!?」  ひんやり冷たい感触に変な声が出てしまう。  優奈の手にはねめっとした液体がたっぷりつけられていて、肩から首回りにかけて指で丁寧に塗り込められていく。  冷たさこそすぐに収まったけれど、妙なくすぐったさを堪えるのに顔が引きつってしまう。  不意に柑橘系の匂いがツンと漂ってきた。 「あれ、この匂いって……?」  どこかで嗅いだことのある匂いのような気がする。 「これは、あたしがアリスとはじめてエッチしたときにつけてたやつなんだよ。憶えてる?」 「う、うん……」  そう言われてみると確かにあの日の優奈からしていた匂いだった。不意にそのときの記憶が呼び起こされてしまって、お腹の下が疼く。  てかてかしている優奈の手が両腕を撫でるように往復してオイルが塗り広げられていく。素肌の上を艶なまめかしく動く指からぬめぬめとした感覚が伝わってくる。  気になって触ってみると、それは糸を引くくらいに粘度の高い液体だった。 「こんなのつけて服を着れるの?」  それに匂いもちょっと強すぎるような…… 「このボディオイルは、肌に塗りこんでからシャワーで流すものだからこれでいいんだよ」 「……流しちゃうの?」 「うん。そうするとね、ほのかに香るくらいのちょうどいい匂いが残るんだ」  ……なるほど、そういうものなんだ。 「このオイルのすごいところはそれだけじゃないの」  いたずらっぽく微笑んで、どこか得意げに優奈は言った。 「エッチのときに興奮するとね、体が熱くなって毛穴が開くから、お肌に染み込んだオイルが蒸発するの。そうしたら、周囲にフェロモンの混じった甘い匂いを発散して、気分を盛り上げてくれるんだよ?」 「そ、そうなんだ……」  優奈に早口で捲し立てられて少し引き気味に答える。  というかそんなオイルを何処で買ったんだろう……しかも、はじめてのときって優奈も俺と同じく未経験だったはずなのに。  それにしても、優奈ははじめてのときそんなオイルをつけてたのか……どんな匂いだっただろうか?  思い出される記憶は強い興奮と快楽が入り混じったおぼろげなもので、甘いミルクのような匂いがしていたような―― 「ふひゃ!?」  不意に両脇から手が差し込まれて、お腹にひんやりと冷たい手が触れた。たっぷりとオイルのついた優奈の指が、それぞれ別の生き物みたいに蠢いて、お腹に脇、太ももと体中を這い回っていく。 「ん……んんぅ……」  我慢しなきゃと思うけれど、敏感な部分に触れられると、どうしてもお腹の下のもやもやが大きくなってくる。  ぬるぬるがくすぐったくて……気持ちいい。 「……塗りこむときは毛穴が開いてた方がいいから」  歯を食いしばって声が漏れないようにしていると、優奈がそう耳元で囁いてきた。 「……え?」 「だから、我慢しなくてもいいからね?」  天使のような小悪魔の笑みを浮かべて優奈はそんなことを囁く。 「ちょ、優奈!? ……だ、だめだよ……」 「大丈夫、これはマッサージをしているだけだから、やましいことなんて全くないよ……マッサージで気持ちよくなるのは普通のことだし」  こんなふうに気持ちよくなるのは普通のマッサージじゃないと思う! 「ちょ……ゆ、優奈っ……ふぁぁ!?」  だけど、一応でも言い訳ができてしまうと弱くて。  こうすることが日常になっていたことも、俺の中の抵抗感を下げていて。なんとなく翡翠なら赦してくれそうな気もして(多分お仕置きはされるだろうけど……)  結果、俺は流されるままに、背中の優奈に体を預けたのだった。
137 翡翠の葛藤 家族同士の話し合いを終えて、俺達は家に帰ることにした。 「翡翠も家に来るの?」  玄関まで俺達を送ってくれた翡翠は、そのまま靴を履いて一緒にくる様子だった。 「そりゃあ、アリスのことが心配だし……家にいてもすることなんてないもの」  翡翠は心外だと言わんばかりの態度だった。 「蒼汰の悩みを聞いてあげたりとか」 「冗談」  俺の提案は、ばっさりと翡翠に切り捨てられた。  取り付く島のない態度に、少し蒼汰に同情してしまう。  望まないセックスをするのは俺と一緒なのに、蒼汰だけなんでこんなに顧みられないのだろう。話し合いでも父さんが声をかけてたけど、意思の確認とかは無かったし。  男の童貞喪失なんて、そんなものかと思わなくはないけれど。それでも、元男の親友とやるなんて普通に嫌だろうに……  それに、蒼汰には好きな人がいるのだ。  愛が無くてもセックスできるのが男といっても、あいたは無節操にできるような器用なやつじゃない。  好きな人とするときに上手くいくようための経験になればいいんだけど……  それにしても、初体験っていうのは一生残る経験だよな。  中には失敗してトラウマになる人もいると聞く。  俺の都合で協力して貰うんだし、なるべく良い思い出にできるようにがんばろう。  ……感じる演技とかした方がいいのかな?  女のはじめては痛いって聞く。  でもまぁ、魔王との戦いで腹に風穴を開けられたときよりはマシだろう。痛みに耐えて感じる演技をするのも、やってやれないことはないと思う……多分。 「……どうしたの? さっきから百面相して」  そんなことを考えていると、心配した優奈に話し掛けられた。 「あ、いや……はじめてって、やっぱり痛いのかなぁって」 「んー、そうだねぇ……人によるみたいよ? 体の相性とか大きさとかあるっぽい。だけどアリスは……その、大変そうね」  俺のことをまじまじと見下ろしながら優奈は難しい顔をする。 「うっ……」  相性なんてものはわからない。  だけど、全体的に人より体のつくりが小さい俺は、そこも人より狭い可能性が高いだろう。 「蒼兄の方はどうなんだろうね? 体も大きいから、小さくはなさそうだけど……」 「あいつのは……でかいな」 「え? アリスは蒼兄の……見たことあるの?」 「そりゃあ、まぁ……以前は男同士だったし」  一緒に温泉にでも行けば自然と目に入る。  俺と蒼汰はお互いライバル視していて、なにかと競い合っていた。  男のときの身長は蒼汰より高かった俺だったが、股間の大きさではほんのわずかに蒼汰に負けていたことを悔しく思っていた。  蒼汰もそのことを認識していたはずだが、勝利宣言されなかったのは武士の情けだろう。  そこはいろいろデリケートな場所なので。  だけど、晒したのはあくまで平常時のモノだけだ。  俺は膨張率に自信があったから、臨戦態勢であれば大きさは決して蒼汰に負けなかったはずだ。  そもそも、男の価値はアソコの大きさで決まる訳じゃないし。 「って、何に言い訳してるんだろ……」  俺は頭を振って要らぬ考えを散らした。  いずれにしろ、もうなくなってしまったモノだ。 「だけど、そうか。アレが私に……って、やっぱり無理じゃね?」  かつての自分自身を思い返してみても、アレがそこに入るとは到底思えない。  赤ちゃんが出てくる場所なのだから、それと比べたら全然小さいはずだろうけど……実際は指一本すらきついくらい窮屈なところなのだ。 「だ、大丈夫? 顔色青いよ……?」 「へ、平気だよ」  優奈のはげましにも、俺は引きつった笑顔で強がりを言うことしかできなかった。  翡翠はあきれたような表情で、そんな俺達を見守っていた。    ※ ※ ※ 「ただいまー」  ともあれ、俺達は自宅に帰ってきた。  父さんと母さんからは二人で外食するとメッセージが入っていたので家は無人である。 「それじゃあ、あたしお風呂の準備してくるね。アリスは着替えの準備ができたら降りてきてね」  洗面所で手洗いうがいをして優奈と別れた俺は、翡翠と一緒に自分の部屋に移動した。 「ここが、アリスの部屋……」  俺に続いて部屋に入った翡翠は、入り口で立ち止まって室内を見回していた。  こういう反応は兄妹で似ているのが面白い。 「そう言えば、翡翠も私の部屋に来るのは二年ぶりくらいだっけ」 「二年……もうそんなにもなるのね」  俺が幾人だった頃、俺と蒼汰は放課後、ほぼ毎日どちらかの家で集まって遊んでいた。優奈や翡翠も週に一、二回程度は一緒にゲームしたりしていたので、この部屋にもそれなりの頻度で来ていたのだ。 「それにしても、随分とかわいい部屋になったのね」 「……そうかなぁ?」  翡翠にも言われてしまった。ぬいぐるみ以外は小物やアクセが増えた程度だし、そんなに違いはないと思うんだけど…… 「それじゃあ、私は準備するから、適当にくつろいでて」  翡翠は室内に入ってくると、ベッドに腰を下ろした。俺は構わず着替えの準備を始める。翡翠が部屋にいるのは慣れているので、二人きりでも居心地の悪さはなかった。  俺はベッドの前に置いてあるプラスチックの三段収納ケースから、下着が入っている段を引き出した。箱の中には畳まれたショーツとブラがきれいに並んでいる。 「蒼汰が好きなのは、やっぱり白なんだろな……」  俺はその中から白い下着を選んで取り出してみた。  といってもほとんどが色や柄付きのものだったので、俺が持っていたのは2枚だけ。  ひとつは、無地でフロントに赤いリボンがついてるシンプルな綿のショーツ。これに合わせるなら、ブラもシンプルなものが無難だろう。  もうひとつは、ツヤツヤしてて繊細なレースが施されているサテンのショーツとブラのセット。優奈と一緒に下着のお店で買ったものだ。  俺は両方をベッドに並べてみる。 「うーん……」  普通に考えたらこっちの勝負下着レースつきのなんだろうけど、気合いを入れて選んだって思われるのも恥ずかしいんだよな……買ったときに着てみたけど、ちょっと背伸びをしてるような感じだったし。  シンプルな方も悪くないけど、初体験に臨むにしては飾り気がなさすぎるようにも思えるし……悩ましいところだ。 「随分と熱心に選んでいるのね」  翡翠が背中から覗き込んできて言う。 「やっぱり、見られるって思うとね……それに――っ!?」  俺は言い終えることができなかった。  翡翠に背後からのしかかられてひっくり返されたからだ。  気がつくと俺は翡翠に馬乗りに押し倒されていた。 「ど、どうしたの翡翠……?」 「別に? アリスがあいつのために下着を選んでいることにイラっとした――なんてことはないわ」  ……どう考えてもそれが原因だよね。 「……ええと、怒ってる?」  翡翠の指が俺の頬に触れて。 「怒ってなんてないわよ。ただ、アリスのはじめてがあいつに奪われるって思うと少し面白くないだけ……」  俺は翡翠の恋人で婚約者にもなっている。  そんな俺が蒼汰に抱かれるのは、翡翠にとって気分が良いはずもない。  翡翠と肌を重ねたのは温泉旅行のときの一回だけで、そのときも処女を喪わないように配慮してくれていた。  その後も優奈と肌を重ねたりもしたけれど、俺はまだ処女のままだった。そして、このままだと蒼汰を相手に喪失することになるのだろう。 「ええと……いまからする?」  蒼汰とすることはやむを得ないにしても、処女くらいは翡翠に捧げるべきじゃないのかと思った俺は翡翠に聞く。  だけど、翡翠は残念そうに首を横に振る。 「私、今生理なの」 「そうなんだ」 「本当、くやしいわ……」  翡翠の人差し指が俺の頬に押し付けられて、ふにふにと弄ばれる。少しの間そうやって戯れた後、不意に指の動きがピタッと止まった。 「いっそ、このまま指で奪ってしまおうかしら」  少しサディスティックなその声に、思わず俺はびくっと竦みあがってしまう。だけど、俺は怯みそうになる心を抑えて告げた。 「いいよ。翡翠がそうしたいなら」  他に今の私ができることを思いつかなかったから、翡翠が望むことは、なるべく叶えてあげたかった。 「……冗談よ。ただでさえ蒼汰に抱かれるアリスの負担は大きいわ。それなのに余計な負担をあなたに掛けたくなんてないもの」  それを聞いて俺は息を吐いて脱力する。  翡翠とのエッチは気持ちいいのか苦しいのかわからないくらいにぐちゃぐちゃにされた記憶が、自分の中で若干トラウマ気味になっているらしい。  そんな思いが自分の中にあるのも少し後ろめたくて。 「……ごめんね」  翡翠に謝罪した。  それを聞いた翡翠は何故か困惑した表情になる。 「なんで……謝るの? アリスは何も悪くなんてないじゃない。今の状況を招いたのは私……そう、全部私自身が望んだことなのに」  翡翠の表情が悲痛に歪んで――  瞳から涙がこぼれだす。 「蒼汰ならまだ我慢できるかもって思ったけど、やっぱり無理だった。だけど、私よりアリスの方がずっと辛いはずだから……辛くてもアリスと二人なら我慢できる。だから、私がアリスを慰めないとって、そう思ってたのに」 「翡翠……」 「なんで、アリスはそうやって人に気をつかっていられるの? 私だけじゃなくて蒼汰にまで。あなたはこれから望まない相手に抱かれるのよ。なのに、どうして!」  ポタポタと俺の胸に翡翠の涙が落ちてくる。 「うぅ……ぁ……最悪だ、私。こんな八つ当たり……アリスの支えになるって大口叩いておいて、こんな……」 「大丈夫、私は大丈夫だから」  俺は翡翠が安心できるように頭を抱きしめて胸元に抱き寄せた。後頭部をあやすように撫でる。  翡翠が落ち着くまでしばらくの間そうしていた。 「……ごめんなさい」  謝罪の言葉を翡翠がこぼす。 「私こんなこと言うつもりなんてなかったのに……」 「気にしてないから大丈夫。正直、辛いっていう感情はあんまりないんだ……むしろ嬉しいとさえ思ってる。今の俺はアリシアのためにできることがあるんだから」 「幾人……」  異世界で俺はいろいろな経験をした。  出会いと別れ。生と死。  だから、俺が大変な思いをすると言っても、命が失われないだけ御の字だと思ってる。  ……それに、誰かが俺のために犠牲になることと比べたら万倍もマシだ。 「翡翠には本当に感謝しているんだ。だから、俺も翡翠のことを大切にしたいって思ってる。しばらくは蒼汰との子作りで辛い思いをさせてしまうと思うけど……俺の恋人は翡翠だから」  俺は翡翠の涙を指で拭って、唇を重ねた。  彼女とのはじめてのキス。  角度と場所を変えて啄むように唇を重ねていく。 「ん……んんっ……」  キスを終えようとすると、今度は翡翠の方から唇を重ねてきた。頭を両手で包み込まれ、強引に求めてくる激しい口づけ。 「ふっ……んっ……!」  唇を舌先でこじ開けられて。  翡翠の舌が俺の口内を蹂躙してくる。  俺も翡翠に応えようとなんとか舌を突き出すと、絡め取るように翡翠の舌が巻きついてきた。 「んんっ……ふぅ……ぁ……」  そのまま一心不乱に舌を絡ませ合う。  いやらしい水音が口の中から脳内に直接響いてきて、思考がとろけそうになる。  粘膜がぐちゃぐちゃに交わって、二人の境界を曖昧にしていく――俺達はただひたすらに舌を絡め合うだけの生き物になっていた。  それが、どれだけ続いたのかわからない。  気がついたら翡翠の顔が離れていていた。  思考はどろどろで、酸素を求める息は荒い。 「こっちのはじめてはもらったわよ?」  不敵に微笑んで翡翠は言う。  でも…… 「えっと、ごめん……キスははじめてじゃ……」  訂正しようとする俺の唇に翡翠の人差し指が押し付けられた。 「恋人同士のキスははじめてなんでしょ?」 「う、うん……」 「だったらいいわ」  翡翠は綺麗に微笑むと、ベッドから降りて立ち上がった。 「それじゃあ、私家に帰るわね」 「ん……わかった」 「ありがと、幾人」  翡翠は小さく手を振って、俺の部屋から出ていった。
136 仕事部屋 家族の優しさに感極まって涙を堪えられなくなった俺を翡翠と優奈が側で抱き支えてくれて、俺はさらに涙があふれてきて泣き崩れてしまった。  しばらく泣いた後、我を取り戻した私を見守る家族の目は優しくて、それがなんとも気恥ずかしくていたたまれなかった。  俺が落ち着いた頃合いで、父さんがテーブルの上に見たことのない鍵を二本と一枚のメモを置く。  メモには知らない駅前の住所が書かれていた。 「俺がときどき仕事部屋として使っているワンルームマンションの鍵だ」  意味がわからなくて首を傾げている俺に、父さんはそう教えてくれた。 「どうしてこれを……?」  仕事関係のことは極力家庭には持ち帰らないのが父さんの基本的なスタンスだった。それは、俺が今までこのマンションの存在を知らなかったくらいに徹底されていた。  父さんは呆れたように溜め息をつく。 「アリシアを宿すためにしなければいけないことがあるだろう。お前はどこでするとか考えなかったのか?」 「あ……」  父さんに言われて初めてそのことに気づいた。  蒼汰の家は神社の敷地内にあり、大っぴらにそういうことをするのはあまり好ましくない。  俺の部屋でするのも都合が悪い。母さんは在宅の仕事で基本的に家に居るし、隣には優奈の部屋もあるからだ。  だからと言って、それ用のホテルを利用するのも難しいだろう。高校生である俺たちが出入りするところを誰かに見られたら確実にアウトだ。  そう考えると気兼ねをしなくていいマンションの部屋というのは大変ありがたい話だった。 「しばらく使う予定はないから、お前たちで使うといい」  だけど、セックスするために用意された部屋というのは、なんだかとても生々しく思えてしまう。  うちは割りと性にオープンな方だと思うけど、これだけあからさまにセックスする前提の話というのは初めてで、どうにも反応に困ってしまう。  ましてや、ここには自分の家族だけじゃなくて、蒼汰の家族も一緒なのだ。 「あ……ありがと……」  俺は手を伸ばして、机の上の鍵をメモと一緒に手の内に握り込んだ。思わず手が震えてしまっていたのには、誰にも気づかれなかっただろうか?  微妙な沈黙を断ち切るように、父さんはわざとらしく咳をしてから口を開く。 「蒼汰くん」 「は、はいっ!」  突然話しかけられた蒼汰は、飛び跳ねるように背筋を伸ばして答える。 「えーと……あー、なんだ。その、うん……がんばれ」  適当な言葉が思いつかなかったようで、父さんにしては珍しく歯切れが悪かった。蒼汰とは種を貰うだけの関係になるので、俺のことを頼むと言うのも少し違うんじゃないかと考えたのだろう。 「わ、わかりましたっ!」  蒼汰はカチコチになっていた。  こいつと、する……んだよな、俺……  改めてそのことを意識してしまい俺は息を飲む。  手の中に握りしめた鍵は冷たくて、やたらと存在感があった。 「他に何もないようなら、これで解散ってことでいいか?」  と、父さんが言う。  誰からも異論は出なかったのでそのまま解散となり、そのまま大人たちは部屋を出ていった。  だけど、俺たち子供は誰も立ち上がろうとせず、全員が残ったままだった。  俺は蒼汰としなければいけない話があったので。他の三人も同じなのかもしれない。 「ええと、これ……」  俺は、鉄の輪っかから鍵を一本外して蒼汰に差し出す。 「お、おう」  蒼汰はぶっきらぼうに返事をすると、手のひらを上にして突き出してきた。俺は親指と人差し指で摘んだ鍵をそこに落とす。  それから、スマホを操作してマンションの住所をメッセージで送った。 「…………」  不意に訪れる沈黙。  蒼汰にこれからのことを相談しないといけない。  そう思いながら、どうやって切り出したらいいのか分からずにまごまごしていると、優奈が先に口を開いた。 「それで、アリスはこれから蒼兄とエッチするの?」  身も蓋もない言葉に一瞬ぎょっとするけど、言い繕っても仕方ないことなのでそのまま話に乗っかることにした。 「う、うん……蒼汰が大丈夫なら、この後お願いできたらって思ってるんだけど……どうかな?」  前の生理からかなりの日数が経っているので、今の俺が妊娠できる可能性は正直低いと思われる。だけど、ゼロじゃない以上精子を受け入れて妊娠できるようにしておきたいと思う。 「お、俺はいつでも大丈夫だ」 「そ、そっか……それじゃあ、お願いしていい?」 「お、おう……」  頭に血が登って蒼汰の顔を見られない。  多分蒼汰も同じようになっているんじゃないかと思う。 「それじゃあ、これからアリスは準備しないとだから、今から二時間後にマンションで集合ってことで!」  俺達が再び黙ってしまったので、優奈が話をまとめようとする。 「……二時間もかかるのか?」  口に出た蒼汰の疑問に俺も同感だった。  そんなに時間をあける必要はあるのだろうか。 「アリスは女の子だからね。これくらいでもまだ短い方だよ。だから、蒼兄はおとなしく待っててよね」 「わ、わかった」  時間を置くより、このまま終らせてしまいたいのだけど……そう、俺は口を開こうとして。  そういえば、今日はどんな下着をつけてたっけ?  ふと、そんなことが思い浮かんだ。  えーと…… 「……それじゃあ、蒼汰。また後で」  少し考た後、俺はそう蒼汰に話していた。  ……うん。一旦家に帰って下着を着替えてこよう。  エイモックのときと同じ失敗を繰り返すのは良くない。
132 蒼汰と俺 「……さて、そろそろお暇いとましますね」  翡翠は俺たちにそう告げた。 「それじゃあ、私送って行くね」  すでに良い子は寝ている時間になっている。  神社までの道は人通りも少なくて薄暗いので、女性に一人歩きさせるのは危険だった。 「却下だ。送って行ったら帰りはお前一人になるだろうが。翡翠ちゃんは俺が送っていく」  父さんは呆れたような口調で言った。 「私は誰が襲ってきても撃退できるのに」 「危機管理の話だ。襲いやすいと思わせる状況を作れば、無用のトラブルを招く危険が高い。未だその辺りの意識が低いのは問題だな」 「うっ……」  父さん言う通りで、俺はぐうの音も出ない。  翡翠はそんな俺たちを見て少し笑ってから返答する。 「ありがとうございます。でもお気持ちだけで大丈夫です。迎えは既に呼んでいますから」  迎え……? と思っているとインターホンの呼出音が鳴った。 「ちょうど来たみたいです」  インターホンのモニターに映し出されたのは蒼汰の姿だった。 「はいはーい」  と母さんが応対する。どうやら蒼汰を招き入れているらしい。 「そうだ。せっかくだから、ここで蒼汰に事情を話して協力を承諾させましょう」 「ちょ、ちょっとまってよ翡翠!?」  説得するにしても、この状況はあまりにもハードにすぎやしないだろうか。  俺の家族に見守られながら、実の妹から親友である俺を抱いてほしいとお願いされるなんて……想像するだけで気まずいにもほどがある。  男心は繊細だから、やめてあげてほしい。 「自分で説明するよ。みんなの前だと話しづらいから、蒼汰と二人で私の部屋に行くね」 「……わかったわ」  翡翠はすんなりと俺の提案を受け入れてくれた。  蒼汰の説得に関しては、割りとおざなりな気がする。 「ねぇ、アリス?」  優奈がおずおずと問いかけてきた。 「何?」 「そのまま蒼兄と――しちゃったりする? もしそうなら、その……心の準備しとくから」  顔を真っ赤にしてしどろもどろにそんなことを聞いてきた。 「し、しないよ!?」  蒼汰が了承してくれたとしても、他にいろいろ考えないといけないことは多い。それに、家族や優奈が待っている状況でするとかありえないだろう。  そもそも、優奈がする心の準備って何!? 「こんばん――わ?」  そのとき、リビングのドアが開いて蒼汰が入ってきた。固まっている俺達を見回して、何があったのかと目を丸くしていた。 「え、ええと……?」 「蒼汰、いこう」  俺は椅子から飛び降りると、蒼汰の手を取ってリビングから脱出した。 「――ちょっ!? な、なんだ、なんだ!?」  そのまま有無を言わさず、蒼汰を引っ張っていく。  無言で、ぐいぐいと。蒼汰は戸惑いつつも俺に逆らわずについてきてくれた。  階段を上がり、自分の部屋のドアを開けて入る。  蒼汰を部屋の中に誘導してからドアを閉めて、ようやく俺はほっと一息ついた。 「……大丈夫か?」  背中から蒼汰の心配する声が聞こえてくる。 「だ、大丈夫! 何でもないから」  俺はドアに向き合ったまま応えた。 「それならいいが……ええと……」 「どうか、した?」  俺は振り向いて蒼汰を見上げる。  春になったと言っても、まだ夜は冷えるのだろう。  蒼汰の頬は赤くなっていた。 「……その、手」  そういえばずっと蒼汰の手を握りっぱなしだった。 「ん……? ああ、ごめん」  俺は蒼汰の手を離して、ぼふっと顔からベッドに倒れ込む。 「あー」  これからお願いしないといけない内容を思うと気が重い。  何から話すべきなのか頭の中で考えていると、ふと違和感に気づく。振り返ると蒼汰が部屋の中で所在なさげに立っていた。 「なんで、立ちっぱなしなんだ? 俺の部屋に来るのが久しぶりだからって遠慮してるのか?」 「いや、その……正直、混乱してる。ここは幾人の部屋だったから、お前が使ってて当たり前なんだろうけど……」 「まだ、俺が幾人だって信じてなかったのか?」 「いや、そういうわけじゃないんだが……部屋自体は記憶にある幾人の部屋で、家具も全部見覚えがあるのに……その、女の子の部屋になってるから」 「んー……そうか?」  俺は目に入ったイルカの抱き枕をなんとなく手元に抱き寄せながら言う。  別にそんなに変わってないと思うんだけど…… 「かわいい小物とかぬいぐるみとか、後、壁に女子の制服が掛ってるし……何より、その……いい匂いがする」 「はぁっ!?」  何言ってるんだ、コイツ!?  変態か! ……あ、変態だわ。  男の頃に散々お互いの性癖を語り合った仲だったので、その辺りは深く知っていた。 「お前気をつけろよ。俺はいいけど、他の女子の部屋に行ったとき、いい匂いとか言ったらドン引きされるからな」 「お前以外に言わねぇよ、こんなこと」 「まあ、いいや……いつも通りベッドに座れよ。でかいのに突っ立っていられると見上げるのが疲れる」 「お、おう」  遠慮がちにベッドに腰を下ろす蒼汰。  俺は体を起こして隣に並んで座った。  自分で誘っておきながら変に意識してしまうのは、これから話をする内容を考えたら致し方ないだろう。 「思っていたよりも元気そうで良かった」  蒼汰は俺の顔を見下ろしながら安心した口調で、そんなことを呟いた。 「あ……」  そういえば、蒼汰が知ってるのは今日俺がアリシアと最後のデートをするということだけだった。  だから、人と話せるくらい元気のある俺が意外だったのだろう。  翡翠からアリシアを助ける方法を知らされていなければ、俺はきっと今も一人でふさぎ込んで誰とも話をする気力すら無かったに違いない。、  でも、今は違う。 「それが、その……アリシアを助けられる方法が見つかったんだ」 「そうなのか!? 良かったじゃねぇか!」  蒼汰は、まるで自分のことのように喜んでくれていた。 「それで、そのことで蒼汰に協力してほしいことがあるんだけど……」 「なんだ? いいぜ、遠慮なく言えよ。俺にできることならなんでもするさ」 「アリシアを救うには、体内に宿した胎児にアリシアの魂を移して産まないといけないんだ」 「……え?」 「だから、蒼汰。お前の精子を子供を作るのに使わせてくれないか?」 「お、おう……? って、どうせあれだろ? 体外受精ってやつ」 「いや、それは難しいみたいなんだ。だから、その……」  なるべく冷静にそれを言おうとしたけれど、引っかかってしまってその単語が出てこなくて。一度言いよどんでしまうと、余計に言い辛くなってしまう。  だけど、そんな俺の態度で蒼汰は察したようで、顔を真っ赤にして黙りこんでしまった。 「か、勘違いするなよ! これは救命行為なんだから。人工呼吸マウストゥマウスみたいなものだから!」 「そ、そんなこと言われても」  少し冷静になってみると、ちょっと蒼汰に失礼な言い方だったかもしれない。種だけが目的の行為だとしても、そう言い切られるのは、あまり気持ちの良いものではないだろう。 「そのかわり、蒼汰がしたいことなんでもしていい」 「な、なんでも……?」 「それとも、やっぱり無理か? いくら見た目が女でも中身は俺だし……」 「いや、それは問題ない」 「そ、そうか」  ……大丈夫なのか。 複雑ではあるが、この際ありがたい。 「というか、大丈夫じゃないのはお前の方じゃないのか? 男の初めてとは訳が違うだろう。それに出産なんて」 「俺は大丈夫。アリシアにもう一度会えるならこれくらいどうってことないさ」 「お前……」 「後、責任とかは考えなくていいからな。責任は翡翠がとって俺と結婚してくれるらしいし」 「け、結婚!? なんでそうなるんだよ!?」  それは、俺もわからないけど…… 「それとも……やっぱり、好きな人がいるからダメなのか?」 「な……なんでお前がそんなことを知ってるんだよ!?」 「涼花から聞いた。彼女を振ったんだろ、もったいない……それに、水臭いじゃないか。そんな娘がいるなら俺に相談してくれても良かったのに」 「……で、できねぇよ」 「まぁ、お前にも事情はあるゃわな。でも、そういうことなら無理強いする気はないさ……変なことお願いして悪かった」 「俺が断ったらどうするつもりだ……諦めるのか?」 「いや……多分、誰か知らない相手を探すことになると思う」 「はぁ!? 何考えてるんだよお前!?」 「仕方ないじゃないか。それ以外に方法がないんだから」 「ったく……わかったよ! 協力する、させてくれ。知らない誰かとなんか考えるんじゃねぇよ、バカ!」 「……お前、無理してないか?」 「無理してるのはどっちだよ!? 俺のことはいい。もともと、童貞なんて捨てられるならいつだって捨てたいと思ってたんだ。それはお前といつも話してただろう?」 「……そうだなぁ」  今はもう懐かしい過去の記憶。前は蒼汰といろいろバカなことを語り合っていたっけなぁ……  近所のお姉さんと後腐れのないエッチな関係になった先輩の話とか、めっちゃ羨ましいなって話していたし。 「ほら、俺は役得しかないだろう? だから、俺のことより自分のことを心配しろよ」  そういうぶっきらぼうな物言いも俺に気を使わせないようにするための蒼汰の気遣いだろう。 「ありがとう、蒼汰」  そして、俺は蒼汰のやさしさに甘えさせてもらうことにした。  ……正直なところ、知らない誰かに抱かれるというのは怖かったから。
1 下一页